飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

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北方領土交渉は主権決定方式から国際法的枠組みでの合意に様変わり?!

2017年02月05日 21時27分34秒 | Weblog
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安倍晋三首相とプーチン大統領の昨年末の首脳会談後、両国政府が合意した北方4島での共同経済活動を巡って国内で未だに議論が続けられている。合意を評価しようという容認派と、懐疑的な批判派の意見をまとめ、判断の参考にしたい。

両国政府のプレス向け声明によると、日露が択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島での共同経済行動に関する協議を開始することが平和条約の締結に向けた重要な一歩になりうるという。そこで両国首脳は関係省庁に漁業、海面養殖、観光、医療、環境などをあげ、共同経済活動の条件、形態、分野の調整などの問題を協議するよう指示するとしている。その上で、調整が済んだ分野に応じて国際的約束の締結などの問題を検討するよう指摘している。

この合意について下斗米伸夫法政大教授は「安倍首相の『新しいアプローチ』で問題解決の現実的過程が始まった」と評価している。さらに、一歩踏み込んで「共同経済活動次第では、平和条約へと進展する可能性が深まっている」と分析している。

下斗米教授によると、これは北方領土の主権の解決以前に四島で旧島民など両国民が共存するという理念で、国際約束(あるいは国際条約)という特別な枠での合意、つまりは一種のコンドミニアム「共同管理」的な解決枠に踏み出したと捉えている。このモデルになっているのは、2010年にロシアとノルウェーの国境問題を解決したスピッツベルゲン島のケースだ。ノルウェーの主権下にあるが、スバーバル条約でロシア国籍の住民数百人がこの島で暮らしている。これにより、両国は海の最終的な国境画定に成功したのである。

下斗米教授は以上のことから、今後の北方領土交渉は「これまで日露間で繰り返された一回の交渉で四島の主権を決める方式」から、共同管理などの「国際法的な枠組みで問題を解決する」仕組みに変わると述べている。つまり、共同経済活動への国際約束の模索は「一種の中間条約、ミニ平和条約でもある」と断じている。

これに対し、対露強硬派の袴田茂樹新潟県立大教授は首脳会談の結果について「経済協力合意のみで(これも実質は小さいが)、領土交渉の進展は全くなかった」と断言している(産経新聞2月3日付け「正論」)。さらに、注目の共同経済活動の合意について「官邸はあたかも成果のごとく宣伝している」と言い切っている。

こう決めつける理由として袴田教授は、ロシア側が共同経済活動を「あくまでロシアの法律下で行うとの主張を譲っておらず、首相や外務省が合意したと主張する『特別な制度』 を認めていない」からだとしている。

この論争の決着はまだついていないが、袴田教授のように全面的に切り捨ててしまえないのは、すでに日露政府が共同経済活動を基軸にして協議を進めていく方向に舵を切っているからだ。日本外務省も国際法の専門家である秋葉剛男外務審議官を対露交渉の正面に立てている。この公式協議は3月に東京で両国の関係省庁が参加して行われることになっており、この協議の行方をじっくり見守りたい。(この項おわり)