飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

なぜ今英国はロシアの毒殺事件をむしかえすのか?

2016年01月22日 14時08分44秒 | Weblog

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10年前に起きたロシアのリトビネンコ元連邦保安局(FSB)中佐の毒殺事件で英国の独立調査委は21日、殺害はロシアの情報機関FSBの指示で実行された可能性が高く、プーチン大統領も「おそらく(毒殺を)承認していた」という報告書を発表した。だが、ロシア側は「エセ捜査だ」(ペスコフ大統領報道官)などとして取り合わない考えを示した。英国はなぜ今ごろ、この問題を蒸し返したのだろうか。

この事件は、情報将校だったリトビネンコ氏が反体制派になって英国に 亡命してから起きた事件で、プーチン大統領の政敵で政商のベレゾフスキー(故人)が黒幕との見方も出ていた。だが、当時は死因が緑茶に混入された猛毒の放射性物質「ポロニウム210」と判明したものの、ロシア政府が容疑者とされた旧ソ連のKGB元幹部らの身柄引渡しを認めず、捜査は中断を余儀なくされた。

このため、リトビネンコ氏の妻ら遺族の強い求めに応じて英国政府が調査委を設置、元高等法院判事を委員長に据え、弁護士らが関係者の証人調べなどを行い、調査報告書をまとめたものだ。容疑者の1人はその後下院議員に当選、容疑を全面否認していて、事件の真相解明は無理とみられていた。今回の調査は、周辺人物への事情調査にすぎないともいえ、プーチン大統領報道官が言うように「エセ捜査」と言われても仕方がない内容といえよう。

英国側もロシアの対応が予想されていながら発表したのだろう。逆に言うと、対応が分かっていながら発表した真意が何かが知りたいところである。シリア内戦、イランの核開発などで中東への発言権を強めているプーチン大統領のイメージダウンを狙ったのだろうか。それともロシアの情報機関内部に何らかのクサビを打とうという目論見だろうか。

英国とロシア(旧ソ連)との間の諜報戦は、英国作家フリーマントルがチャーリー・マフィンシリーズのスパイ小説で描いているような、激しく、執ような戦いなのだろう。そこからは、両国の情報機関のメンツと誇り高さがいやというほど伝わってくる。今回の報告書発表も一種の情報戦なのかも知れない。(この項終わり)