飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

ナポレオン戦争を庶民の目線で描いた映画『皇帝と公爵』の見所!

2013年11月30日 09時42分15秒 | Weblog
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   イタリアやロシアに遠征し、あわや欧州大陸制圧かと思われたナポレオン1世。その彼にも、一度も勝てなかった名将ウェリントンがいたーー。そんなキャッチフレーズの映画が年末、シネマスイッチ銀座などで封切られる。ポルトガル・フランス合作の映画『皇帝と公爵』だ。この映画を試写会で見ると、名将対決というより、女性や兵隊など庶民の目線で描かれていて、19世紀初頭の庶民の生活が身近に感じられ興味深かった。

   この映画の舞台は、フランスの遠征軍と英国・ポルトガル連合軍が3年がかりで戦ったポルトガルである。1799年にフランスを支配したナポレオンは、欧州大陸制覇を目指して各地に軍隊を派遣した。ポルトガルに対しては1807年から英国との同盟関係を断つよう迫っていた。

    これに対し、英国は名将ウェリントンを総司令官として派遣、ポルトガル各地でフランス軍を次々に破った。その最大の戦いが1810年、北部のプサコであった。映画ではこのシーンが冒頭に登場し、ウェリントンの奇策で勝利を収める。だが、兵隊の数で圧倒するフランス軍の前に、連合軍は戦略的に撤退する。

    この撤退の場面で、逃げ惑う市民や病院服のまま逃亡する兵隊が描かれている。驚いたのは、妻同伴で戦場に来ている英国の兵隊がいたことだ。フランス軍の元帥は、なんと愛人を男装させて同行させていた。こうした将校や兵隊を狙って娼婦や盗賊になって金を稼ぐ女性や、色仕掛けで将校に迫る女性も出てくる。たくましく、美しい女性が次々画面に登場、中には一糸まとわぬ女性のベッド・シーンもある。

    この映画は元々、フランスの巨匠ラウル・ルイス監督が企画したものだが、撮影目前に他界したため、妻のバレリア・サルミエントさんが遺志を継いでメガホンをとった。こうした女性を多数映画に登場させたのは、バレリアさんのアイディアで「戦争において苦しむのは女性たちだということを伝えたかった」と語っている。

    この映画のもうひとつの見所は、往年の名優が何人も出演していることだ。『昼顔』のカトリーヌ・ドヌーブ、『軽蔑』のミシェル・ピコリらで、制作途中で亡くなったルイス監督にオマージュ(敬意)を捧げたいと申し出た俳優たちだ。こうした豪華キャストを一度に見られるのは、ファンにとってはたまらない魅力だ。

    戦争映画ではあるが、淡々と、しかも丁寧に描かれていて、女性監督らしい、きめ細やかな配慮が全編からうかがえる。名監督の妻として、パートナーとして長年映画製作に携わってきたバレリアさんの努力が結晶した作品といえる。正月に映画の楽しさをじっくり味わいたい人にお勧めの一品である。(この項おわり)