森喜朗元首相が9日夜のテレビ番組で、北方領土問題について「3島返還論」で解決すべきとの見解を明らかにしたと各紙は伝えている。首相経験者が北方領土問題で現実的な解決案を提案したのは異例で、勇気ある提案と評価したい。
各紙によると、森元首相は番組で示された地図上で「単純に線を引けばこう引くのが一番いい」と言いながら、択捉島と国後島の間に国境線を引き、「3島か」との質問に「そうだ」と答えたという。日本側の四島返還要求、ロシア側の2島返還案の間を取った3島返還論である。
森氏は首相当時の01年3月、プーチン大統領とイルクーツクで会談し、2島を返還、残る2島は交渉を継続するとの「並行協議方式」で合意したとされる。それ以来、森氏は四島返還にこだわらず問題を解決しようという柔軟な解決論者として知られているが、3島返還の具体的な解決案を示したのは初めてだろう。
プーチン氏が昨年3月の大統領選直前、外国人記者団と会見した際、「引き分けで解決しよう」と発言、解決への意欲を示したが、日本政府の方からの具体的な解決案の提示がなく、ロシア側の解決機運もしぼみがちだった。昨年暮れの衆院選で自民党が圧勝、安倍政権が誕生して日本側にもようやく解決機運が高まりつつある。
問題は、森元首相のような現実的解決案をたたき台に、より望ましい解決案を国内で十分議論できるかどうかである。これまでの経緯をみると、せっかくいい案が出されても政府が否定し、議論が封印されてきたからだ。鈴木宗男議員(当時)の2島先行返還論しかり、谷内正太郎外務次官(当時)の面積等分論しかりである。今度こそ、これを機に国内で大いに議論すべきだ。
森元首相の発言がとりわけ注目されるのは、森氏が安倍首相の特使として2月にロシアを訪問し、プーチン大統領と会談する予定になっているからだ。森氏とプーチン大統領とはイルクーツク会談以来、親密になり、しばしば会って懇談している仲である。今回の訪ロでは解決に向けた、踏み込んだ話し合いを期待したい。
北方四島は第二次大戦終了直前、ソ連軍の侵入により占領されてからまもなく68年目に入ろうとしている。四島から追い出された元島民の方々もすでに半数が亡くなり、もはや待ったなしである。日本政府は、今年こそ解決するという強い意志を持って、現実的解決に向け全力を挙げるべきだ。(この項終わり)