「疑わしきは罰せず」はどこへ!?
この映画は、実際に起こった、ある事件を基に作られている。
その事件とは、昭和41年6月30日未明に、
静岡県清水市で味噌製造会社専務の自宅が放火され、
一家四人が殺害された、通称<袴田事件>だ。
静岡県警は、容疑者として
従業員で元プロボクサーの袴田巌(新井浩史)を逮捕。
巌は、犯行を頑強に否認していたが、拘留期限3日前に一転自白。
一方、熊本典道(萩原聖人)は、
主任判事としてこの事件の裁判を担当。
しかし、巌は裁判で犯行を全面否認。
典道もまた長時間に渡る取り調べや、
供述が二転三転することから警察の捜査に疑問を抱き始める…。
死刑確定後の現在もなお、
冤罪を叫び、再審請求が続けられている、この袴田事件。
この手の映画を語るのは実に難しい。
かねてより、同事件に深い関心を寄せていない限り、
この映画で与えられた情報でのみ、
すべてを判断してしまうという危険性を内包しているからだ。
自白の強制、犯行後一年経って現れた新証拠の不自然性…
おそらく、この映画を観たほとんどの観客が、
映画終了後、こう思うこと間違いない。
袴田事件は冤罪だ!
だが、わずか2時間ほどの映画の情報でぼくらが
安易に判断していいのか?
監督・高橋伴明も、
そのことの危険性は十分に承知していたはずだ。
しかし、それでもあえて、
彼はこの映画を“今”作った。
そう、高橋伴明はこの事件を
昨年にスタートした裁判員制度への疑問として
現代を生きる我々に提示する。
もし、ぼくらが、この事件の裁判員だったら、
果たしてどこまで真実を追求しえただろうか?
“悪は罰せねば”などという正義感を振りかざし集中攻撃。
徹底的に人を成敗する現代の風潮。
だが、その被告がほんとうに犯人かどうかを、
どうやって冷静に客観的に
法の素人のぼくらが見極めるのか?
警察が逮捕し、検察が起訴したという、それだけのことで
“被告は有罪である”としてしまってはいないか?
被告=犯人だという先入観。
もしそれが間違いだったら…?
そのとき彼の人生に対する責任を、
ぼくらがほんとうに取ることができるのか?
事件から44年。
袴田巌は現在74歳。
長い拘禁生活、厳しい監視と死の恐怖に耐えきれず
精神に異常をきたし、
事件や最新準備などの裁判の話題については
彼とはまったくコミュニケーションが取れないという。(敬称略)
(byえい)
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