ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『ユナイテッド93』

2006-08-15 11:29:35 | 新作映画
実を言うとこの映画はぎりぎりまで観るのをためらっていた。
映画館の予告篇で映し出される
乗客と家族との電話、
そして決死の覚悟で犯人たちに向かっていく乗客たち。
脳裏には5年前の9.11の夜が甦ってくる。

あの日、ぼくは学生時代の仲間との飲み会で新宿に出かけた。
妙な予感があったわけでもないだろうが、珍しく会は盛り上がらず、
だれ一人として二次会を提案する者もなく
めいめい自分の家へと帰っていった。
そこでぼくを待ち受けていたのがテレビ「ニュースステーション」。
貿易センタービルが煙に包まれた衝撃の映像だった。
最初、家人から話を聞いた時にぼくの頭をよぎったのは、
「操縦に未熟な酔っぱらいの愚行」----というものであった。
ところが衝突炎上したのがが二機と分かり、
その考えは一気に吹き飛ぶ。
やがて、もう一機がペンタゴンに墜落。
それを聞いて「これは戦争だ」と体に戦慄が走る。
情報が混乱する中、続いて入ってきたニュースが
ユナイテッド93の悲劇であった。

そこでは次のような報道がなされた。
「ユナイテッド93はホワイトハウスを狙ったが、
乗客たちの<阻止>により目的を達成せずに、
人家のない場所に墜落した」

映画『ユナイテッド93』への躊躇もここにあった。
いままでアメリカ映画では数多くのエア・パニック映画が作られてきた。
だが、そのほとんどが最後には無事着陸、そして人命救助に成功している。
それはそうだろう。
ハリウッドが観客を不安に陥れるような
そして大手飛行機会社を敵に回す映画を作るはずはない。
飛行機を使ったテロを描いた
『エグゼクティブ・デシジョン』でも悲劇は起こらず、
政府機による飛行機爆破という
「エグゼクティブ・デシジョン=大統領の最終決断」事態は回避される。
だが、この9.11「ユナイテッド93」では
だれもがその悲劇的結末を知っている。
これはきわめて重い。

ぼくは観る前は、この映画を次のように想像していた。
「自分の命を賭して国を守った乗客・乗組員。
その英雄的行動を讃えた映画」と。
それは「彼らこそ9.11後の世界でどう行動すべきかを最初に示した人々」
といった内容の映画の惹句にも表れていた。
だが、映画は思っていたものとはかなり違っていた。
彼ら乗客たちは、その中に操縦経験者(単発機だが…)や
管制塔勤務経験者がいることを確認すると、
操縦桿の奪還に向けて立ち上がる。
そして墜落する飛行機を上昇させようと必死で戦うのだ。
彼らはホワイトハウス前で機を<墜落させた>のでは決してなかった。

そう、彼らは最後まで
「自分たちが生きる希望を捨ててはいなかった」のだ。
そしてそのことはまた、9.11以後の世界を生きるぼくを勇気づけてくれる。
いまはこの映画を作ったスタッフたちに感謝したい。




※ケン・ローチ映画の名手バリー・アクロイドの撮影、
おそらく映画史上最多と思われるas himiself、「I love you」、
管制塔中心の前半と機内のみの後半の構成、ラストカットなど、
映画として語りたい部分も多々ありますが、
今回は、それは見送りたく思います。

                   (byえい)


※今回は付けられない
人気blogランキングもよろしく

☆「CINEMA INDEX」☆「ラムの大通り」タイトル索引
(他のタイトルはこちらをクリック→)index orange
猫ニュー

※画像はアメリカ・オフィシャルサイトの壁紙です。