ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『嫌われ松子の一生』

2006-03-09 20:45:56 | 新作映画
----『下妻物語』の中島哲也監督の新作。
前作が大絶賛されただけに注目度も高いよね。
「う~ん。これはある意味、スゴい問題作だね。
どう評価していいのか、
一言で言えばこんな映画観たことがない。
これまで彼が豊川悦司&山崎努の卓球対決(『サッポロ黒ビール』)など、
CMで培ってきたいろんな手法がすべて織り込まれている。
最初のうちはそれらCGを駆使したポップな映像、
それでいながら登場人物の感情、
ストーリーもきちんと押さえている独特の語り口に、
『おっ、さすが中島哲也。やるじゃない!』と思っていたんだけど……」

----ん?歯切れよくないニャあ。
「本筋に入る前に
観ている時のぼくの感情の変化を話すと……
『さすが中島哲也。この調子でどんどん作ってくれ→
中島哲也どこまで行くんだろう?→
ちょっとやりすぎでは?→
ふう~、疲れた……。』
という感じだね」

----あらら。それはなぜ?
「とにかく、物語が悲惨すぎる。
それでも最初のうちはミュージカル風の語り口や
精緻を極めた丁寧な画作りに
『そうだよ。これだよ』と頷いていたんだけどね。
でも途中から、
あまりにも壮絶な松子の人生が
話法を超えてスクリーンを支配する」

----どういうお話なのか、簡単に教えてよ。
「主人公は川尻松子(中谷美紀)。
歌が上手な中学教師として生徒にも人気のあった彼女は
ある事件がきっかけで20代で教師をクビになり、エリートから転落。
家を飛び出しトルコ嬢(今で言うソープ嬢)に。
やがてヒモを殺害して刑務所に入り、
最後には何者かに殺されてしまう。
物語はその松子の華麗な(?)男性遍歴と生きざまを
甥である川尻笙(瑛太)がたどる形で描いてゆく。
しかも、それは時おり松子本人の言葉で語られるんだ」

----えっ、松子は死んでいるんでしょ。どういうこと?
「実は彼女は、ある形で自分の人生を語っているモノを残していた。
原作にもあるのかもしれないけど、
ここの持って行き方は巧かったね。
脚本的には申し分なし。
映像の方も、あらゆる映画の記憶を
その映像や手法を含めて映画に織り込んでいる。
タイトルからして
60年代のシネラマで観たような叙事詩映画の書体だしね。
彼女の子供時代はディズニー映画のように
その周りをアニメの小鳥たちがさえずり、花が咲き乱れる。
かと思えば、刑務所のシーンでは『シカゴ』風のミュージカルになる」

----それは観てみたいな。
「でしょ?しかもこれらはすべて緻密に計算されている。
※(以下、プレスからの引用が中心となります。)
今回のCGは客観ではなく松子の主観で作られている。
さっきも話したように
映画ではいつも彼女の周囲には花が散りばめられているんだけど、
これは
(現実では、それとはまったくかけ離れた生活を送っていながら)
『いつか王子様のような男性が現れる』ことを夢見続ける彼女の人生全体を
よりファンタジーの世界にするための小道具となっている。
しかもその花は
彼女と関わる男たちそれぞれの<色>を設定した上で、
その色に最も映える色調を基準に、
松子の生きた時代や場面に合う花言葉を持つ花が選ばれているんだ」

----それはまた凝っているね。他にも何か特徴ってある?
「うん。
原作を単純に映画化すると、
救いようなく落ちていく女の話になってしまう。
さらには、その濃密なエピソードは省略したくない----。
このふたつの問題を解決するためにこの映画では
(1)ドラマだけの映像化では悲惨な印象が残るシーン
【音楽のリズムに合わせた撮影&編集によって】
⇒軽快なミュージッククリップ風シーンへの変換。
(2)ドラマだけでの映像化では長時間を要するシーン
【歌詞でシーンの説明をすることによって】
⇒テンポよく短い時間で一気に見せるシーンへの変換。
という2つの変換作業が行われている。
しかも撮影現場には音楽のリズムに合わせて撮影できるように
ビデオコンテが導入され、
撮影されたカットは即座にパソコンに取り込まれ、
その両者が差し替えられていたと言うんだ。
そして映像と音楽のシンクロ度を
ワンカットずつチェックしたと言う。
まさに前代未聞だ」

----確かに聞いたことない話だね。
でも、ちょっとプレスに基づいた説明が多すぎない?
聞いてて頭がこんがらがってきた。
「ごめんごめん。
ひとつひとつの映像の特徴を語るには、
ぼくの言葉では追いつかないほどに画期的だったものだから…。
ただ、感心したのは、
それらの手法がこれ見よがしに使われるのでなく、
ある種の抑制と計算に基づいて選び抜かれていること。
これぞCGの正しい使い方というのを教えてくれた気がする。
そして何よりも素晴らしいのは、中谷美紀の演技。
つい何ヶ月か前に『力道山』を彼女のベストアクトと喋ったけど、
早くも前言撤回しなくてはならない。
この映画の中谷美紀は神懸かりだ。
60年代映画女優のような顔立ちを生かした教師時代から
不健康に太り汚れに汚れたホームレス時代まで、
さまざまな<女・松子>を見せてくれる。
中谷美紀本人も『私は松子を演じるために、
女優という仕事を続けてきたのかもしれません』と言っているけれど、
彼女は本作で
ありとあらゆる演技の引き出しを出し切った気がする。
しかもその演技は、各シーンの演出プランに合わせて変えている。
まさに奇跡と言うか『グレート!』としか言いようがない。
早いかもしれないけど、今年の女優賞確実!と言っても過言ではない。
他の俳優たちもみんな素晴らしいんだけど
それは中谷美紀の演技に引きずられて生まれたような気もするね」

----ニャんだ。最初話し始めたころと違ってベタ褒めじゃない?
「さっき、気になって原作をパラパラやってみたんだけど、
犯人も少し変えてあり、
<いまの時代>が取り入れられている。
ここのロングに引いた写し方も素晴らしかったな」

----う~ん。結局、好きなの嫌いなの?
「実を言うと、映画を観ながら後半ぼくは涙が止まらなかった。
でも、それはもちろん映画そのものの素晴らしさもあるけど、
物語の悲惨さにも起因しているのかも。
そう言う意味でもこの映画は、
観る人によって好き嫌いが激しく分かれると思うよ。
監督は《ディズニー映画のヒロインがたまたま別の扉を開いたら、
松子のような人生もあるのでは》と言っているけどね。
ぼくはというと、まだ気持ちの整理がつかないところがある。
でもずっと後を引いているのは確かだね」

         (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「ニャンとも複雑だニャ」複雑だニャ

夏時間の大人たち HAPPY-GO-LUCKY ASBY-3365夏時間の大人たち HAPPY-GO-LUCKY ASBY-3365
※これもオモシロかった。中島哲也監督の劇場長編デビュー作。

※中谷美紀さん、あなたはスゴい度見直しました度
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