ハブ ア ナイス doi!

いつまで続くのかコロナとの戦い。
全て解放されて、もっと、もっと
心から楽しまないとねえ。

山小屋の想ひで

2011年08月26日 22時37分35秒 | 自然

北アルプスの白馬から
針の木に続く後立山連峰の南側、
烏帽子から三俣蓮華方面に続く人気コースとの狭間に、
北葛、七倉、船窪、不動、南沢と続く山々がそびえる。
そこは「北アルプスの大峰」といわれる山域で、
視界も樹木にさえぎられて良くなく
道も悪路のためそこを訪れる登山者はあまりない。

今のような山ブームではなかった昭和53年に
新潟の白馬から岐阜の笠ヶ岳まで
一気に歩いたことがあり、
その山域にその時に訪れたことがある。

とりわけ、船窪あたりは当時、
登山道の崩落が著しく事故も発生していたし、
縦走ルートである尾根筋は
右も左も断崖で草つき部分だけがかろうじて残っている
スリリングな状態であった。
今はどんな状態になっているかはよく知らないが、
当時はそんな状況で、
それでも何とかなると思いながら
縦走コースに選んだのであった。

第一、そこを通らないと、
針の木から黒部ダムに急降下し、
その後、読売新道をえっちらおっちら登って
主稜線に出るという、
果てしない遠回りをしなければならないし、
烏帽子岳や野口五郎岳をスルーすることになるので、
選択の余地はなかったわけだ。

そうして覚悟して突入した蓮華岳で見た
がれ場に咲くコマクサの大群落は今も色あせず、
しっかりと記憶に残っている。

そんな蓮華をあとにして、
いよいよ突入した北アルプスの大峰山域の真ん中あたりに、
ぽつんとあるのが船〇小屋だった。

白馬からずーっと山中を彷徨し、
台風の中ではテントで沈殿しつつ、
ようやくこの小屋にたどり着いたときには、
かなりの山男ぶりになっていたのだろう。
テントを張るための申し込みに
小屋に足を踏み入れた途端、
中にいた初老の男性が言った言葉が

「おお~、久しぶりの山人やあ」

だった。
そのあとの話で、その人は夏の間中、
この小屋の番をしているんだとのこと。

そして、マイナーなコースにあるこの小屋に
来る人はほとんどいないことを知った。

少し話をしているうちに、
すっかり打ち解けて、
長期間山を歩き貧相な食事しかとっていないからか、
すっかりむくんだdoironの手足を見て、
野菜のてんぷらを御馳走していただいたのが
この世のものとは思えないくらいうまかったのを覚えている。

そしてその後、おもむろに将棋盤を持ち出してきて、
将棋を指そうというのだ。

そこから先の道が荒れているという情報は
あらかじめ持っていたので、
その時間から次のサイト地に行くのは、
時間的に無理があり
早い目にテントを張ろうと思っていて時間があったので、

「ヘボですが」

と断ったうえで将棋に付き合うことにした。

数手指したところで、
その親父が

「どうや、負けた方が水を汲みに行くことにしよう」

と提案してきた。
今から思えば、数手でこいつはヘボやと見切ったんでしょうなあ。

ま、水汲みくらいお安い御用だと、
提案を受け入れた途端、
あっという間に負かされてしまった記憶がある。

で、水汲みに行くことになったわけである。

水場までは、少し歩いて行かねばならない。
水場と書かれた、案内板の先をみると、
そこには黒部渓谷に向かってドーンと落ちていく斜面があり、
2mほど下ったところに
チョロチョロ水が湧いているような水場だった。

これも今はどうなっているのかは知らないが、
当時はその水が小屋のライフラインを担っていた。

預かった、大きなポリタンを片手に持ち、
口に布バケツの一つを加えて
斜面を這い降り、水を汲んでいたその時だ。

黒部渓谷の向こうにそびえる立山連峰の稜線が、
折からの夕陽で真っ赤に染まる瞬間に出くわしたのだ。

自然に涙があふれたね。
それくらい見事だった。
しばらく崖の斜面で立ちつくしてしまったdoironだった。

汲んだ水を持って、
小屋に帰り、自家製のヤマモモを漬けたお酒をいただきながら、
見てきた景色の話をしたら、
親父さんはしてやったりの顔をしてたな。

今思えば、将棋の件も水汲みの件もきっと、
その景色を見せてあげようと
仕組んだことだったのかもしれない。

最近の山の情報誌では
その小屋はえらく評判になっているらしい。
山の友達に聞くと、天ぷらがとてもおいしい
というのでも有名なんだそうだ。
東京の方のテレビで

「天空の山小屋」

として近々取り上げられると
ホームページにも出ている。

あの時、20歳そこそこだったdoironと
そんな話をした初老の親父さんは、
もう40年も前のことだから
この世にはいないだろうが、
あの時に見た夕暮れの景色とともに、
doironの中では永遠に生き続けている。

そしてぜひ再びあの山小屋には訪れてみたいと思っている。

当時の自分に会いに行くという目的もいいかもしれない。