宮部みゆき著"あんじゅう 三島屋変調百物語続"を
読みました。
"おそろし 三島屋変調百物語"の続編です。
三島屋の姪で女中として働いているおちかが不思議な
物語の聞き手になるという話です。
導入部が前の本で終わっているので今回の本はすらすらと
楽に読めます。
この本は"おそろし"、"あんじゅう"と読み進めた方が
いいと思います。
この本にはかわいらしい挿絵が開いたページにすべて
入っていてその絵も楽しいです。
こういう本めずらしいですね。めずらしいというか
初めてです。
"にげ水"
小さな丁稚が番頭に連れらてやってきます。
染松と呼ばれる丁稚がいると水が逃げるといいます。
水瓶も空になり井戸も枯れてしまいます。
困り果てて三島屋へやってきました。
染松は三島屋で預かることになり平太という
名前になりました。
上州の山里で暮らしていた平太は暴れて逃げた馬を
追っていって神社でかわいい女の子に出会います。
この女の子は白子様、のちにお早(ひでり)さんと呼ばれる
水を司る神様です。
鉄砲水に困った村人が祭った神様です。
しかし地震で地形が変わり水の被害がなくなって
神様は忘れ去られました。
お早さんは悲しく、寂しがっていました。
お早さんは平太の体の中に入り込みました。
三島屋では水瓶を用意してお早さんを大事にしました。
お早さんは三島屋では水を枯らすことはありませんでした。
いろいろありましたがお早さんを内に持った平太は
水の多いところで仕事をした方がいいだろうと船頭の
仕事につくことになり三島屋を去っていきました。
"藪から棒"
三島屋は奉公人を大事にします。
丁稚を午前中は手習い所へ行かせています。
おりおりの楽しみに奉公人もお供します。
梅見物におちかと丁稚の新太はお供しました。
そこで隣の針問屋住吉屋の一行と出会います。
お嬢さんの梅の結婚が決まったと聞きます。
隣とはいえ隣の家の事情は知りません。
結婚式の後、隣の妻のお路が話しをしにやってきます。
兄夫婦といっしょの家で仲良く暮らしていました。
兄夫婦に双子の女の子が生まれました。
姑が双子を嫌ってひどく嫌いました。
お花、お梅と名づけられた子はお梅を弟夫婦がもらう
ことになりました。
それでも姑は許さないと憎しみをあらわにしました。
姑は臨終の時も許したわけではないと言って亡くなりました。
お花は病気で亡くなってしまいます。
兄弟は別々に暮らすようになります。
お花の幽霊が現れるようになります。
姑がみんなの夢の中に現れてまだ嫌なことを言います。
お花の人形を作ってお梅にやってやることは人形の
お花にもしてやりました。
同じでないとなるとお花の人形には針がびっしりと
刺さっています。
そうするとお梅は湿疹で腫れて苦しむことになります。
双子姉妹の弟は養子に出されました。
家族はずっと苦しんできました。
疱瘡で顔にあばたがある人を疫神として強い力を持つと、
敬ったといいます。
疱瘡の痕があるお勝がお梅の側に仕えてやっと結婚が
まとまりました。
お勝が話にやってきます。
この出来事はこの家族の人々の心が生み出したものでは
ないかと話します。
お勝は三島屋で女中として働くことになります。
"暗獣"
丁稚の新太は手習い所の仲間の直太郎に殴られて
帰ってきます。
直太郎は心にどうにもできないものを抱えています。
父親は火事で亡くなりました。
子どものいない親戚に母親から引き離されむりやり
養子にされました。
おまけに父には放火の疑いがかかっています。
直太郎の前の学問所の若い青野先生が心配しています。
火事の真相はわかっています。
しかしどうにもなりません。
青野先生がおちかのところへ話にやってきます。
火事で焼けた家には青野さんが雇われている塾の雇い主の
加登新左衛門夫婦が15年ほど前に住んでいたことがあります。
大きな家で何年も人が住んでいませんでした。
二人には広く閉め切りの部屋もあります。
気持ちよく住んでいましたがそのうち何かがいる気配に
気づきます。
黒い小さな生き物です。
そのうち二人に馴れて姿を現すようになりました。
くろすけと呼んでかわいがりました。
でもだんだん体が小さく元気がなくなっていきます。
新左衛門はやがてくろすけが何者か気づきます。
家の精です。
誰もいなくて寂しさが作り出したいきものです。
新左衛門夫婦が住んで幸せな生活が営まれくろすけは
存在の意味がなくなって小さくなっていったのです。
夫婦は家をでました。
くろすけを消滅させないために。
新左衛門はくろすけにいいます、お互いを知らない前より
今は幸せだと。
どうしているだろうといつも思っている。
孤独でも前とは違うのだと話して聞かせます。
直太郎はこの話を聞きます。
すこしずつ落ち着いてきました。
"吼える仏"
直太郎の前の塾の友達の金太、捨松、良介の三人は今も
やってきます。
彼らの知り合いの偽坊主の行然坊が話し手としてやってきます。
坊主の修行を途中で放り出して偽坊主として放浪していました。
山道で足を滑らせ動けなくなり山に住む人達に助けられて
寺で厄介になりました。
その里は寺の和尚を中心に統制が取れて山の恵みで豊かに
暮らしていました。
豊かだということが知られればすぐに搾取の手が伸びてきます。
村はまとまっていました。
その統制を破る男が出てきました。
富一は籤で当たったとされ1年間お籠り小屋で過ごすよう
にと閉じ込められていました。
やがて富一の女房、子が亡くなりました。
富一は薪の木切れに仏の顔を見出し墨で顔を描くように
なりました。
村人はその木切れを貰い痛むところ、病気のところをを
さすると直るようになります。
仏の木切れは村人たちがみんな持つようになりました。
和尚がそれを知り激怒します。
しかし村人は木切れの仏の力の方を信じます。
獣のような富一の姿が見られました。
村は焼け落ち人は里を去りました。
三島屋へ押し込みが入ろうとします。
岡っ引きや青野先生らが見張っていて押し込みは
捕まりました。
幽霊などの不思議な出来事の話ですが怖いことは
ありません。
お早さんやくろすけはかわいらしいです。
お早さんは移ろいやすい人間の心に神様が翻弄されて
いて神様なのにかわいそうですね。
人の心が生み出してしまったものに何年も苦しめられた
"藪から棒"の話もつらいですね。
でもこういう話はちょっと心の持ちようを変えると
ふっと乗っかっていたものが離れていくものです。
最後の話は悲しいですね。
村人達はどんな選択をしたとしても苦しい状態に
落ちていったんだろうなと感じます。
富一を閉じ込めなくて自由にしておいたとしても
別の方法で崩壊したことでしょう。
いったい村を救う手立てはあったのでしょうか。