吉永南央著"オリーブ"を読みました。
短編集です。
"オリーブ"
早坂慎一の妻は響子です。
響子は笑わない女です。
でも慎一はそれが気に入っています。
仕事中に昼食に出て響子が喪服で歩いているのを見かけて
不信に思って後をつけていきます。
斉藤響子という人の葬儀です。斉藤は妻の旧姓です。
妻は翌日何もいわずに家を出て行きました。
響子は毎月渡されていたお金を切り詰め4年間で2千万円
も貯金して持ち出していることがわかります。
慎一の父親は西大野総合病院を経営しています。
医療ミスをいくつか起こしていますが反省しません。
調べが進むと響子の恋人が医療ミスで亡くなっており
亡くなった斉藤響子も医療ミスでずっと植物状態でした。
"カナカナの庭で"
井塚は病気でもう長くありません。
病院から一日早く一時帰宅が許されたので妻の純代を
びっくりさせようとタクシーで家に帰ってきました。
玄関では見知らぬ老人が作業しています。
家に入ると純代と寺島があわてて出てきます。
井塚は純代が好きだった寺島を騙すようにして純代と
結婚しました。
寺島はいまだに独身です。
翌日純代が出かけ友人の強矢がやってきます。
家の二階には荷物がいっぱいつめこまれています。
強矢に家の登記を調べてもらうと人のものになって
います。
純代が売ってしまい代金を寺島に渡したのだと思われます。
すでに他人が住んでいる家を臨時に貸してもらって
一時帰宅時に取り繕っているのだとわかります。
井塚はこれでいいのだといいます。
死んだら知っていたと二人に伝えて欲しいと強矢に
頼みます。
"指"
玲江は銅版画の製作と絵画教室をやっています。
目が見えなかったことがあり目をつむって粘土で造形を
する趣味があります。
妻のある画家の一俊と付き合っています。
ある美術館が玲江の塑像を展示したいから作品を
提供して欲しいと一俊から連絡があります。
玲江は一俊が玲江の作品を自分の作品として発表して
売っていることを知ります。
玲江の作品をだまってごっそりもっていってしまいます。
玲江は真実を知ってもらい一俊をやりこめるための
策をめぐらします。
"不在"
理都は高崎の輸入小物を扱う会社で店長をしています。
副社長の有坂英治と婚約しています。
理都の妹のユカリは統合失調症です。
東京で一人暮らしをしています。
調子がいい時は経理のパートをしています。
様子がおかしいと母親から連絡が入ります。
父母は娘のことなのにユカリにかかわろうとしません。
理都は婚約者に打ち明けていません。
店では理都が店長になったことで嫌がらせが続いています。
理都は翌日軽井沢の英治のマンションを訪れる予定でした。
ユカリはアパートにいません。
隣のガラス職人の富樫はユカリの状態を知っていて
友人が同じ病気であることから普通に接してくれます。
英治のマンションの入り口でユカリが目撃されタクシーで
東京へ向かったとわかります。
ユカリは華道をしている枡岡の家に保護されていました。
夜中にやってきており軽井沢で見られたのは偽者で誰かが
理都を陥れるためやっているとわかります。
理都と英治は一旦婚約破棄をしますが英治は家族を説得
するといいます。
"欠けた月の夜に"
安野久美子は専業主婦です。
サッカー部から新聞部に変わった息子の真歩がいます。
月に一度ゴルフを楽しむ友人が三人います。
夫の俊之が心筋梗塞で突然死してしまいます。
久美子は夫の帰りがいつも遅かったことから会社に
過労死したのを認めるよう交渉にいきます。
しかし会社には相手にされません。
自分の親や兄弟も消極的です。
裁判も辞さないという久美子にやめておいたらと
いいます。
友人たちも消極的です。
ある日変な手紙が投げ込まれます。
その手紙に沿って真歩にひきづられるように調べに
いきます。
そして真実がわかります。
真歩も友人三人も真実を知っていました。
自分の目で見ないことには人の話を聞こうともしない
久美子にみんなは困っていました。
全編ちょっと辛い、ほろ苦い話でした。
"オリーブ"の妻はいったいどういうつもりだったのでしょう。
4年もかけてお金を掠め取ったと満足でしょうか。
でも自分の才覚で節約して貯めたお金ですから盗んだとは
いえませんね。
本当に恨んでいる人はぜんぜん何とも思ってないんだから
復讐にはなっていません。
夫の時間も自分の時間も無駄にしてしまったように
思います。
"欠けた月の夜に"の夫婦もなんとかならなかった
ものでしょうか。
奥さんが夫に別の道に進んだらと、言って上げることが
できていたら夫はどんなに心に余裕ができたことでしょう。
たとえそのまま会社勤めとしたとしてもずいぶん違った
と思います。
"指"の一俊の心理、まったくわかりません。
ずっと隠し通せると思っているわけではないのに人の
ものを盗んでおいて平気なところが理解できません。
"紅雲町ものがたり"のシリーズの吉永さんの雰囲気
とはちょっと違います。