風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

シュターツカペレ・ベルリン ブルックナーツィクルス第4番 @サントリーホール(2月13日)

2016-02-16 00:16:58 | クラシック音楽



あいかわらず大仰なクラシック演奏会のコピー・・・・・。もちろんまだ全く慣れない。一生慣れない確信ある。

しかし、大変よい演奏会であった

このコンビは、一昨年のベルリンの壁崩壊25周年記念式典の夜にブランデンブルグ門で第九を演奏していた人達だったのね。ちょうど私はNHKホールでベジャールバレエ団の第九(with メータ×イスラエルフィル)を観ていたのであったが、そういえば当時ツイッターでそういう呟きを見かけたものだった。しかしこういう国家の歴史的式典でオケを振るのがドイツ人ではなくアルゼンチン出身でイスラエル国籍のバレンボイムさんというのは、なんだか興味深いですね。


【モーツァルト:ピアノ協奏曲第26番 ニ長調 「戴冠式」K537. 】

バレンボイムさんって、、、なんか漂う空気が菊五郎さんぽい(あまり神経質じゃなさそうなところが笑)。
左手をポッケに入れて楽しげな笑顔で右手で指揮、取り出したハンカチは顔を拭った後に最後はポイとピアノの中へ。
この方のピアノはキラキラやコロコロという音ではなく、タッチも比較的重めで(弱音はとても軽やかで美しかったですが)、これまで生で聴いたことのあるピアニスト(ぺライア、光子さん、ツィメルマンの3人だけだけど)と比べると“これがバレンボイムの音である”という個性は少ないように感じられましたが、「いい演奏」にそういうものは必ずしも必要ではないのだなぁと教えてもらえた今日のモーツァルトでした。
前述のピアニスト達に比べて「う、わぁ・・・」と息をのむ瞬間は多くはなかったけれど、とにかく雰囲気や演奏が突出して大らかでマイペースなので、こちらもリラックスして聴けたのがとてもよかったです。同じ理由で、多少いじった演奏をされても、この方の場合不思議と嫌味に感じないというか。例えるならジャズを聴いてる的な?
そんな時々のノリで音を紡いでるように聴こえる感じは(実際はあらゆる計算がなされてるのでしょうけれど)、とてもモーツァルトっぽい。実際のモーツァルトがどういう人物だったかはむろん存じませんが、いわゆる一般に、特に長調の作品でイメージされる「モーツァルトっぽさ」を私は感じました。といってもワタクシはド素人なので大してモーツァルトの作品を知らないのですけど。あくまで一般のイメージ、ということで(^_^;)

次に印象的だったのは、オケとピアノの一体感。もっと言ってしまえば、ピアノがオケを完全に支配している感じ。ピアニスト=指揮者なので当然ですが、なるほど弾き振りというのはこういう演奏になるのか、と新鮮でした(生で弾き振りを聴くのは初めてだったので)。個人的に協奏曲はオケとソリストという異質の存在が緊張感を孕みながら融け合っていくような演奏がゾクゾクするほど好きなのですけど、今回のような一体感のある演奏というのもいいものですねえ。26番は長調なので、特にそういう空気に合っていたように感じました。弾き振りってもっと落ち着かないものかと想像していましたが、そういう意味ではかえって落ち着くというか、安心して聴けるのですね。あと吃驚したのが、片手ではピアノを弾きながら、上体を乗り出して鍵盤を全く見ずにもう片手で指揮しちゃうこと

演奏は、一~二楽章も悪くなかったのですが、三楽章が華やかでとても良かったです。もちろんこの楽章は曲想自体が華やかなのですけど、それだけじゃなくて、バレンボイムの弾き方やオケの演奏がとても華やかに聴こえました。基本重厚系な音のオケだったので、「わぁ、この音でこんな華やかな雰囲気になれるのか!」と妙な感動をしてしまった。あれはやっぱりバレンボイムの指揮だったからなのであろうなぁ。この曲、CDで聴いた時は三楽章があまり好きになれなかったのですが、今日の演奏のおかげでこの楽章が好きになれそうです。

以下、シカゴ響のコンサートマスターRobert Chenさんが、内田光子さんとバレンボイムのモーツァルトのピアノ協奏曲の違いについて語ったもの。とてもよくわかる気がします。

‘They couldn’t be more different,’’ said Robert Chen, CSO concertmaster, comparing the ways Uchida and Barenboim approach Mozart. “Both are obviously musicians of the highest stature, but for Barenboim, he is presenting a very grand canvas. With Mitsuko, there’s a certain privacy to her feelings toward the piece. For her, it’s not so much a public act.

“Barenboim is all about putting something out there—it’s very beautiful and very generous,” Chen added. “With Mitsuko, it’s more precious, and I don’t mean that in a bad sense. It’s like a small piece of very fine china that you examine from all angles. You see how the light reflects on certain things, the colors are very vivid.”


【ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」 ※ノヴァーク版第2稿】

冒頭のホルンの第一声にズッコケましたけど、これぐらいのレベルのオケでもああいうことってあるのですねぇ。オケも客席も「やっちまったなぁ・・・」感が漂うなか(オケは想像ですけど)、バレンボイムは平然。「はいはい、大したことではありませんよ~」なマイペースな鷹揚とした表情に(内心は知らんが)、こちらも心の動揺を鎮めてもらえました。改めてこの人のこの雰囲気は美徳であるなぁ。それでもしばらくはあのホルンの兄ちゃんが吹く度にやっぱり私は身構えちゃいましたけど

今回も指揮者の役割がよくわかった演奏だったなぁ。指揮者ってオケをこんな風にコントロールするのか、と。そしてそのとおりにオケがちゃんと応えるのよね。といって決して独裁的なわけではなく、極めて自然で。二楽章あたりまではオケの意思のままに演奏させているようにさえ感じました(もちろん十分な意図は細かな部分まで含めてあるからでしょうし、そのことも伝わってきました)。それでも常に指揮者のコントロール下にしっかりあって。P席でオケを聴くのは初めてでしたが、見ていてとても楽しく、勉強になりました。
しかしやっぱり三楽章以降、特に四楽章が圧巻だった。バレンボイムが左に体を向けてゆったりと手をあげたときにオケが出した音のあの驚異的な美しさといったら・・・!!(←自分用覚書) あれはなに?指揮者って音色まで作り上げちゃうものなの?比喩じゃなく背筋がゾワっといたしましたよ。
とはいえこのオケ、大音量のときには旋律が崩壊気味になるのを踏ん張ってる風に感じられるときもありましたが(シカゴ響のあの余裕の崩れなさは異常だったのだなと改めて^^;)、各々のパートが素晴らしくバランスよく聴こえて、最後は人間的な温かみも保ちつつ圧倒的な光彩と力に満ちた、大変後味のいいロマンティックでした。もっともバレンボイムさんというのは本来こういう自然な指揮をされる方ではないようなので、しかし私はこういうタイプの指揮が大好きなので、今日の四番、聴けてよかったです。幸せな気持ちにさせていただきました。あ、自然といっても、指揮そのものは大変渾身な指揮でございましたです。

しかしブルックナーはどうして一般に人気がないのでしょうかね(ということを最近知った)。こんなに聴き終わった後、爽快で澄んだ幸福な気分になれるのに。
これは昨年のロンドン響のときに感じて、でも書くのは控えていた感想なんですけど、世の鬱屈した若者達はなんちゃらマッシュルームなんぞを買うお金でブルックナーの生演奏を聴きに来ればいいと思うの。世界って人間って美しい!っていう澄みきった気分になれるのに。森の静けさも人の温もりも宇宙の孤独も天上の光も一緒に見ることができるのに。身体が透明になってどこまでも飛翔していく陶酔感、恍惚感を体感できるのに。おかしな脱法ドラッグよりよっぽど心にも体にも効くのに。

客席のマナーは素晴らしかったです。終楽章の最後の音の響きが消えきるまでの静寂をしっかり堪能。
バレンボイムさんは、美人コンミスさんと腕組みしてご機嫌でご退場。カテコで袖にはける度に必ずP席に笑顔で片手を上げてくださって、嬉しかった^^。最後はオケ全員をP席にも挨拶させてくださって。でも間近からオケの面々に満面の笑顔を向けられると結構な迫力で(近いっ)、ちょっとドギマギしてしまった^^;。このオケ、素敵なオケですね。

ところでクラシック関係でよく見かける「一般参賀」というファン用語は、楽屋口のお見送りのことかと思っていたら、ちがうのですね。オケがはけた後に指揮者だけが再びステージに出てきてくれることを言うのね。ミューザのハイティンクさんのときにあったアレですね。この日もありました(^_^)
しかしバレンボイムさん、あんなに汗を拭いっぱなしでご体調は大丈夫なのだろうか。。。すこし心配。。。

さて、次回は8番いってまいります。

※追記:第8番の感想(2月18日@ミューザ川崎)

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