シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

イースタンプロミス

2008-07-08 | シネマ あ行
デビッドクローネンバーグ監督、ヴィゴモーテンセンナオミワッツ。お~魅力的な監督にキャスト、とは思っていたけど、劇場まで見に行くつもりはなかったこの作品。が、「美しすぎる母」を見に行ったときに予告編を見て、これは見に行くべしな作品に格上げされました。

ロンドン。助産婦をしているアンナ(ナオミワッツ)の病院に14歳のロシア人妊婦サラ=ジャンヌラブロッセが運ばれる。赤ちゃんは助かるが少女はお産で亡くなってしまい、ロシア語で書かれた少女の日記を赤ちゃんの親戚を探す手がかりになるかもと、ロシアレストランのオーナー、セミオンアーミンミューラー=スタールに翻訳を頼むのだが、、、そこにはロンドンに暗躍するロシアマフィアの内情が記されており、なんとそのレストランのオーナーがマフィアのドンだった。そのドンの息子キリルをヴァンサンカッセル。その運転手ニコライをヴィゴが演じる。

予告編を見たとき、この脚本の切り口がとてもオリジナルだと感じ、ぜひ劇場で見たいと思いました。

結果は大正解。脚本そのものもアンナとニコライの個人的なつながりの他に西側に暗躍するロシアの犯罪組織の内情をよく表しているし、ヴィゴがほんとにしびれるほど渋い。マフィアの運転手を務めながら、明らかにマフィアの息子キリルより頭が切れ、冷静で肝も据わっている。ただ、黙って立っているだけで威圧感がある。それでいて、どこか哀しげというか、哀愁が漂う男ニコライ。自分たちが住む世界とはかけ離れた世界にいる人間だと分かりつつもアンナが魅かれてしまうのがよく分かる。実はニコライには大きな大きな秘密があって、それを知ったときにはアンナとのハッピーエンドもありえるのかと思ったけど、やはりそこは自分の生きていく道に覚悟を決めた大人の男ニコライ、たった一度のキスで「ダスヴィダーニャ、(ロシア語でさようなら)アンナ」と言う。アンナはニコライの秘密は知らない。だから、多分しょせん住む世界が違う男との恋路がうまくいくわけはないし、ニコライもそれを分かっていると思ったのだろう。「ダスヴィダーニャ、ニコライ」アンナもそう言って二人は別れていく。最高に切なくてしびれるラブシーンだった。

そのラブシーンも映画史に残ると思うのだけど、もうひとつ映画史に残る出あろうシーンがサウナでのリンチシーン。素っ裸のヴィゴが2人のギャング相手に死闘を繰り広げる。ヴィゴの完璧に鍛え上げた肢体もすごいし、流れる血も半端じゃない。この映画にかけたヴィゴの情熱がよく出ているシーンだと思う。

アーミンミューラー=スタールが表向きは優しくて穏やかそうなおじさんだが、裏では恐ろしいマフィアの顔を持つ男を非常に巧みに演じていて、彼のような温厚そうな人が演じていただけに余計に恐ろしさが増していた。そのドンの情けないドラ息子をヴァンサンカッセルがこれまた非常にうまく演じていたと思う。ケンカっぱやくて威勢はいいが、そんなにオツムは賢くない。「ゴッドファーザー」でいうところの長男ソニーといったところか。そして、ワタクシの大好きなナオミワッツ。どんな映画のどんな役柄もそつなくこなしてしまう、この世代の美人女優の中ではかなりの演技派だと思う。ハリウッドでビューが遅かったせいかとても若い印象があるが、プロフィールを見るともう40歳?そうだよね、ニコールキッドマンと同世代なんだもんね…30代前半に見えるんだけど…女性特有の弱そうな面と芯のしっかりした強そうな面という両極を持ち合わせた今回の役は彼女にとても合っていたし、抑えた受け身の演技ながら存在感は抜群だと感じた。やはり演技力のしっかりした人じゃないと難しかった役だと思う。前述のラブシーンでは彼女の自然な美しさも際立っていた。

全体的に暗いトーンで進み、残虐なシーンも多く、話も少しだけ複雑なので、映画を見慣れていない人には見ているのがつらい作品かもしれませんが、ハードボイルドなマフィアの世界がお好きな方はぜひどうぞ。