シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

愛する人

2011-01-20 | シネマ あ行

見ている間中、じわじわと涙が流れて仕方がなかった。こういうの、弱いんですよねー。特に14歳で妊娠し、娘が産まれた直後にすぐ養子に出さざるをえなかったカレンアネットベニングの痛々しい姿に、前半から彼女が何をしていてもうるうるきてしまった。カレンは37年経っても1秒たりとも娘のことを忘れたことはなく、毎日日記のように娘への出さない手紙を書き、渡せない誕生日プレゼントを買う。そんなカレンの生活を映画の冒頭数分で見えてしまうロドリゴガルシア監督の手腕はすごい。ちなみに製作総指揮は、アレハンドロゴンザレスイニャリトゥ。あーもうワタクシただただ、“アレハンドロゴンザレスイニャリトゥ”って書きたいだけでした。失礼。

物語は3方向から進んでいく。前述のカレン。そして、その娘で37歳になるエリザベスナオミワッツ。彼女は自分が里子に出されたことで深く傷ついた人生を送っていることが分かる。いや、彼女は非常に優秀な弁護士で、一見すると順風満帆な人生を送っているように見えるのだけど、実は他人の家庭をわざと壊してみたり、すぐに上司サミュエルL.ジャクソンと愛人関係になってみたり、住むところを転々としたりして他者と深くかかわることを避けて暮らしていることが分かる。おそらく彼女は他者とかかわることで傷つくことを避けている。「もう二度と傷つきたくないの」そう言いながら日々を暮らしているかのようだ。それでも、エリザベスは何回住むところを変えても絶対に実の母親のホームタウンに帰って来て暮らしてきた。いつか、実の母親が自分を探してくれたときに見つけられるようにと。

もうひとつの物語は、上の2つとは一切関係がないように進んでいく。妻に原因があり子供ができなくて、今まさに養子をもらおうとしている夫婦ジョセフとルーシーケリーワシントン。彼らの描写は、カレンがエリザベスを養子に出した時代と現代との違いを表現するためにあるのかなぁと思っていたら、最後の最後に思わぬ形でつながった。

3つの物語が最後の最後につながるまで、まるでバラバラに描かれているんだけど、どこのシークエンスもロドリゴガルシア監督らしく非常に丁寧に描かれていてまったく違和感がない。それぞれの過去に由来するそれぞれの性格というものをその時々に起こる出来事を通して、巧みに表現しているところが素晴らしい。

カレンが母親アイリーンライヤンを亡くし、家政婦エルピディアカリーロとその娘や職場のパコジミースミッツに徐々に心を開いていく様子や、エリザベスが予期せぬ妊娠を通して頑なだった心を溶かしていく様子、14歳の盲目の少女との出会いも自然で、ルーシーとその母親S.エパサマーカーソンとの関係の描き方、すべてが繊細で丁寧に描かれているところが非常にワタクシ好みだったな。

ルーシーのお母さんは、ルーシーには口うるさくてうっとおしい母親だったけど、赤ちゃんをかかえて発狂するルーシーに「赤ちゃんの世話をするのはあなたが世界初だとでも思っているの!」と叱りとばすシーンは非常に良かった。

カレンが14歳のときに妊娠した相手のトムデヴィットモースと再会してセックスして別れるシーンがあるんですが、あれでカレンはトムへの気持ちに終止符を打つことができたんでしょうね。それで、思い切ってパコのところへ飛び込むことができたということでしょう。

パコの励ましで娘を探すことにしたカレンが、養子縁組の協会に手紙を残した同じころ、妊娠したエリザベスも協会に手紙を残していたのに、受付の人の手違いで二人が会うことができなかった、なんてさ、ヒドイ脚本だよ。それにエリザベスがお産で死んでしまうっていうのも、ヒドイ脚本だと思った。ええーーーっ、そりゃないよーーーって。「ヒドイ」っていうのはデキが悪いという意味でのヒドイではないんですけどね。カレンとエリザベスは会わせてあげたかったな。たとえ短い間でも。協会の人は"I"m very sorry."なんて言ってたけど、sorryで済む話かーーーー!!!

災難だったのは、エリザベスが妊娠したときに診察したお医者さんエイミーブレネマンですね。エリザベスは母親と同じ轍を踏まないようにか、卵管結索手術を受けていたのに、妊娠してしまったので、エリザベスの意向も聞かずに「始末する日の日程を相談しましょう」なんて言っちゃって、エリザベスに「私がどうしたいかも知らないで!」と怒りを買ってしまいましたね。しかも、「FUCK」より悪い言葉まで言われて。そりゃ、エリザベスの意向も聞かずにそんなことを言っちゃったお医者さんもお医者さんだけどさ、卵管結索までしてるんだから、当然子供はいらないものと思うでしょうよ。あれじゃちょっとお医者さんがかわいそう。

ちょっと物語から離れてしまいましたね。ルーシーの世界観はアメリカ人にはめずらしいあっぱれなまでの無神論で、パコの娘は非常に信心深かったりと、色んな人の価値観が登場するけど、やっぱり誰もが否定できない“縁”というもので彼女たちがつながっていく姿が心に深く染み入ってきます。(“中絶”ではなく“産んで養子に出す”というのもキリスト教的な価値観からきていると思いますし、ルーシーが「やっぱり養子なんて不自然な仕組みだってどうして誰もはっきり言わないの?」というのもひとつの価値観で、それぞれの出来事から色々と考えさせられるところがありました)

アネットベニング、ナオミワッツ、ケリーワシントンの演技もそれぞれに女性たちの心の機微を非常に素晴らしく表現していました。それを支える周りの役者陣もとても良かったですね。みんな地味だけどリアルでした。

欲を言えば、エリザベスにはもっと幸せになってほしかったけど、ある意味では彼女も幸せな気持ちで死んでいったのかもしれないなと見終わったあとに思いました。エリザベスがつないだ最後の“縁”によってカレンもルーシーも幸せな人生を過ごしてほしい、きっと過ごせると感じました。

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