シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

デビルズノット

2014-11-19 | シネマ た行

ものすごく評価されている「スウィートヒアアフター」の良さはいまだに分からないでいるのですが、アトムエゴヤン監督は好きです。彼がアメリカ、アーカンソー州で起こった実際の猟奇殺人事件を題材にした映画と聞いて見に行くことにしました。

1993年5月5日、平凡な日の夕方パムホッブスリースウィザースプーンの8歳の息子スティーヴィーは友達のクリスとマイクと一緒に遊びに行ったまま失踪してしまった。その日の夜懸命に3人を捜索する町の人たちをよそに警察はただの家出かもしれないとすぐには捜索を始めてくれなかった。

翌日ようやく捜索を始めた警察は3人の遺体を近所のロビンフッドの森の中の川の中から引き揚げる。3人とも手首と足首とをそれぞれの靴ひもで結ばれている状態で虐待され死亡に至っていた。

警察はその時3人と一緒にいたという少年の証言を基に知能指数の低いジェシーミスケリークリストファーヒギンズに事情を聞くことにする。ジェシーは警察に促されるままダミアンエコールズジェームズウィリアムハムリックとジェイソンボールドウィンセスメリウェザーと一緒に3人の児童を殺害したと自白する。ダミアンとジェイソンはメビメタが好きで悪魔崇拝などに興味を持つ高校生で3児童を悪魔的な儀式のために殺したと警察は踏む。

調査会社のロンラックスコリンファースは、警察のずさんな捜査のために高校生が逮捕されたと知り、それぞれの国選弁護士たちに無償でこの事件の調査に協力すると申し出る。

アトムエゴヤンが監督をしたということで、何かしら怪しげなというか、少し特異な作品なのだろうと思って見ていたら随分ストレートな演出の冤罪もので少し拍子抜けした。しかし、これが実際に起こった冤罪事件であることを考えるとこういうひねりのないストレートな演出に好感が持てた。

犯人を悪魔崇拝者とし、それをよってたかって糾弾する集団ヒステリーのような現象はキリスト教徒の多いアメリカならではのような気がしてしまうのだが、警察のずさんな捜査、自白の強要、都合の悪い証拠の隠滅、先入観による決めつけ、単純な真実を見ようとしない検察、裁判官といった構図で冤罪が出来上がっていく様は日本の冤罪事件とも大いに重なる部分がある。

事件当日に泥と血まみれでレストランに入ってきた黒人が遺した血痕を採取したにも関わらず失くしてしまう警官。3児童のうちの一人クリスの継父ジョンケヴィンデュランドの虐待の前歴や彼のナイフについた血痕、当日スティービーが持って出かけたはずのポケットナイフを継父テリーアレッサンドロニヴォラが持っていたこと、3人の手足を結んだのはロープとジェシーが証言したこと、3人と一緒にいたと証言している児童の母親ヴィッキーミレイユイーノスが軽犯罪で警察に脅されていたこと、スティービー一家の知り合いで少年に異常な興味を示していたクリスモーガンデインデハーンの取り調べのずさんさなどなどなどなど、数え上げればきりがないほど真犯人は別にいるのではないかと思えてくるのだが、、、

結局裁判で3少年は有罪となり、現在では無罪を主張してはいるものの2011年に有罪と認めれば仮釈放するという異例の司法取引によって、釈放されているという。この司法取引も意味が分からないんだよね。ダミアンの死刑が迫っていたらしく、当局としても死刑にしないでおける方法を無理やり編み出したのかって感じ。

映画としては事件の内容を事実通りに語っていくといった感じなんだけど、リースウィザースプーンが素晴らしかったな。田舎のちょっとダサい主婦って感じがよく出ていたし、8歳の息子を亡くした母親として憔悴しきった中でもきちんと裁判を傍聴する間に裁かれている3人と彼らを取り巻く事実を冷静に見極めようとしている姿勢がよく伝わってきた。集団ヒステリーの中で少年たちを糾弾するよりも、自分の息子を殺した真犯人をただただ知りたい。その思いが静かに伝わってきたし、調査員のロンを演じるコリンファースと交わす視線だけで会話をしているのが聞こえてくるようだった。

ネットのレビューは評価が低いですがワタクシはとても良い作品だと感じました。ただワタクシはこの「ウェストメンフィス3事件」というものを知らないで見たので良かったのかもしれません。この事件のことをすでにドキュメンタリーなどで見て知っている方には特に目新しい発見のない作品ということになるかもしれません。