シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

最終目的地

2012-10-29 | シネマ さ行

ひさびさのジェームズアイヴォリー監督の作品だったので、これは見に行かなくちゃと思って行きました。

コロラド大学の教員オマーラザギオマーメトワリーは1冊の著書を残して自殺した作家ユルスグントの伝記を書くために遺族に公認を求めていたが、ことわりの手紙が来てしまう。彼は恋人ディアドラアレクサンドラマリアララにたきつけられて作家の故郷であるウルグアイまで遺族に公認をもらいに訪ねて行くことになる。

人里離れた屋敷で未亡人のキャロラインローラリニー、作家の愛人だったアーデンシャルロットゲンズブール、作家と愛人の間の幼い娘、作家の兄アダムアンソニーホプキンス、その恋人ピート真田広之が世界から隔離されているのかのように暮らしていた。

そこへ突然現れた見知らぬ青年。一切の時が止まったかのようなこの屋敷に新たな風が吹き込むことになる。

頑なに伝記の公認を拒むキャロライン、公認には賛成でキャロラインを説得する代わりに母親が残した宝石をアメリカに密輸してさばいてほしいとオマーに頼むアダム。公認には反対していたが、オマーに惹かれ意見を変えるアーデン。

亡くなった作家を中心に結びついていた人間関係が不自然でありながら、奇妙な調和を保っているのだが、それぞれがオマーと語り合うことによって、心の奥底に潜んでいたもやもやが少しずつ晴れていくようでもある。

なんというか、全編にただただあまり意味をなさないような会話が繰り広げられていくのだけど、それが全然退屈じゃないのが不思議。それがジェームズアイヴォリーマジックというものか。その監督の演出にしっかりと応える役者たちのスタイルはそれぞれ違うのだけど確立された演技がそこにある。まるで、上質な文学のページをめくるような芳醇な時間を監督とともに過ごしているような気持ちになる作品である。

アンソニーホプキンスの素晴らしさは相変わらずでもう余裕しゃくしゃくといった感じ。ローラリニーは夫の死後も夫が家に連れ込んだ愛人と暮らす未亡人という複雑な役どころを説得力をもって演じきっている。愛人アーデンを演じたシャルロットゲンズブールはいままで一度も可愛いと思ったことがなかったんだけど、この役で初めて可愛いと感じた。彼女を愛人にしたユルスの気持ちも分かるが、それ以上に彼女を受け入れてしまった妻キャロラインの気持ちが分かると思えるようなか弱い可愛さを持った女性アーデンをこれまたリアルに演じている。彼女の不思議な可愛さがなければ、最終的に成り立たなかった作品だと思うので、これはキャスティングした人の勝利だと思います。あ、28歳という設定はいくらなんでも無理があるとは思いましたが。

25年前の日本から身寄りもなくアダムに連れ出されたというのは不自然だなぁと思っていたら、もともとはタイ人の役だったところを真田広之を使いたいために設定を変更したということらしい。真田広之もその起用に応える仕事をしたと思う。拠点をアメリカに移して日本の映画やドラマで彼を見られないのはとても残念だけど、世界のこんな素晴らしい共演者と仕事をしている彼を見るのはとても嬉しいことでもある。

ジェームズアイヴォリーという監督は何度もプロフィールを見ているのに、そのたびに「あ、そうだそうだ、実はこの人アメリカ人だった」と毎回驚いてしまうほどヨーロッパテイストな感覚の人でとても不思議です。今年で85歳になるそうですが、また公開待ちの作品があるようなので楽しみです。