シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

この自由な世界で

2008-12-09 | シネマ か行
「この自由な世界で」原題も「It's a Free World」

“自由”ってなんだろう?

それを鋭く問いかける社会派ケンローチ監督作品。

シングルマザーのアンジーカーストンウェアリングは、息子を養うために働いているがもうすでに30もの職を転々としている。これがすでにイギリスの雇用者の厳しい現状を物語っている。今回は移民労働者の職業紹介をしている会社でセクハラを受け辞めてしまう。そして、その会社での経験を生かし、女友達ローズジュリエットエリスとともに自分たちで職業紹介をする会社を立ち上げる。

女性二人で始めた新しい会社。やめとけと止める人もいたが、アンジーはこの男社会でどうやったら受け入れられるか知っていた。つまり、お色気作戦。お色気作戦と言ってもそんなヘヴィーなもんではない。女の色香をほんの少しだけ漂わせることで、男の無意識に働きかけ、どんどん仕事を取っていく。

息子のためにお金をいっぱい儲けたい。そんなアンジーは両親に息子を預けっぱなしで飲みにも行くし、男をひっかけたりもする、決して模範的な母親とは言えないが、それでもお金を儲けたいのはやはり息子のため。このアンジーという女性が模範的な母親でもなく、良い人でも悪い人でもないところが社会派ケンローチらしいという感じがした。ただ、ワタクシは残念ながらそこの部分がちょっと感情移入しにくかったんですよね。善良な市民が一線を越えるって感じじゃなかったからかなー。アンジーだって十分善良な市民といえるとは思うんですけどね。しかも、この映画に登場する主人公のほうがずっとリアルなんやとは思うんですけどね。

いわゆる普通の人間がいわゆる“自由な”世界で生き抜いていこうとする。それだけのハズがうまくはいかない。現代の資本主義社会の中で、“自由に”やっていこうとすると必ず誰かの生活を犠牲にすることになる。アンジーは言う。「It's a free world!」そう。この世界はそれさえも“自由”なのだ。

ケンローチはこんなふうになってしまった社会をアンジーを通して見せるとともに、アンジーとは反対の選択をしたローズの姿を見せることによって、“個人の選択の自由”というものも見せ付けている気がした。ローズだってもちろん、移民労働者たちの家賃を搾取したりしていたわけだから、完全に善良とは言えないけど、こちらのほうはまだ善良な市民が一線を越えたって感じはしたな。

彼女たちが斡旋した移民労働者たちには選択の自由などなかったが、彼女たちにはいくつかの選択肢が目の前にあった。そのとき、一個人がどのような選択をするか。社会を告発するだけではなく、個人の良心にも問いかける作品である。