シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

モーターサイクルダイアリーズ

2006-09-27 | シネマ ま行

キューバ、コンゴ、ボリビアなどで革命を起こしたチェゲバラの若いころのお話。1952年ブエノスアイレスで医学生だったチェゲバラガエルガルシアベルナルは友人で化学者のアルベルトロドリゴデラセルナとバイクで南米縦断の旅に出る。南米縦断の旅と言っても、荒くれ者の無目的な旅ではなく、無鉄砲な手段ではあるが、その最終目的はベネズエラのハンセン病専門の病院に行くことであった。

以前にも書いたことがあるが日本では、残念ながら南米の歴史を習うことがほとんどない。特に近代史となると、ワタクシの記憶力が悪いせいかもしれないけど、学校ではカストロ議長について少し触れられただけだった気がする。というわけで日本では、チェゲバラというと革命の戦士というよりもあの一番有名なベレー帽をかぶったヒゲ面の肖像がTシャツにプリントされている、それがもっとも一般的なイメージではないだろうか?

チェゲバラがどれほどまでに偉大な人であったか、また中南米ではどれほどまでに尊敬の念を持たれているかということは、ちょっとネットで調べてもらうとして、、、あ、これは本作を見る前に少しでも知っておいたほうがいいと思います。チェゲバラが偉大な人だったということを知らないで本作を見ると、本当に「それがどうした?」っていう気分になると思います。

チェゲバラが彼の人生で行ったことを知った上で見てみると、彼がこのバイクでの旅を始めたときと、その道中、そして最後に至って、どのように彼の心境が変化し、この旅がいかに彼のその後の人生に影響を与えたかということが分かって非常に興味深い。そして、それを少しずつ静かに見せていく手法がとても心に残る。

ワタクシは、中南米の歴史やチェゲバラについて詳しいわけではなく、少しは知ってるかなという程度だった。チェゲバラについては彼がしたことは知っていたけど、彼がどんな人かまではまったく知らなかったので、「革命を起こした人」というのとあのTシャツに使われている写真から、彼を非常にワイルドな人だと勝手に想像していた。そこへ持って来て「モーターサイクルダイアリーズ」である。“ほぉら、やっぱりワイルドな人だった。でも、ガエルカルシアベルナルくん?ワイルドというよりもキュートよなぁ…若き日のって言ったって、なんかイメージ違うなぁ”と思っていた。ところが、、、この作品でチェゲバラに対するイメージが180度と言ってもいいくらい変わった。若き日の彼は誠実で、優しくて、他人の痛みが分かる思慮深い人。“あ~彼を革命に駆り立てたのはワイルドさではなくて、誠実さだったんだ。人々の痛みが分かるからこそ、民衆を助けるために革命を起こしたんだ”という印象を受けた。

もちろん、歴史の舞台に踊り出た人であるから、彼はそんな人間じゃなかったと主張する人もいるだろう。映画は彼の1側面を見せただけかもしれない。それでも、そんな1側面を知ることができるだけでも見る価値が十分にあると思うし、映画的にもドキュメンタリー風ではあるが、アルベルトとチェのコンビネーションも楽しめるし、(このアルベルトという人、最初はチェも“SEX大使のつもりか?”と言うほどのただのふざけた男かと思いきやなかなかに気骨のある真面目で愉快な人だった)南米の様々な風景を見ることができる。実際の日記からの言葉なんかもあって、当然といえば当然なのだが、普通のロードムービーとは一線を画す興味深い作品である。