「なるほどぉ・・・お゛!?」
辺りを探すまでもなく、私の目には、黒い不気味な物体が飛び込んできた。
床板を上げた場所は、まさにドンピシャ!
〝ホールインワン〟は大袈裟にしても〝ニアピン〟には違いなかった。
「さすがぁ」
誰も褒めてくれる人いないんで、私は自分で自分を褒めた。
そして、次の策を練った。
悪臭の根源はやはり動物の死骸、それも依頼者の女性が強く嫌悪するネコだった。
腐乱したせいで原形をとどめていなかったけど、ネコであることはすぐに分かった。
しかし、ネコはネコでもその体勢が確認できず、やや大きくも見える。
「何だか様子がおかしいなぁ」
私は、警戒感が増してきた。
私は、懐中電灯と自分の目を汚物に近づけて凝視。
そして、すぐさま身を硬直させた。
「ひょっとして・・・二匹?」
なかなか見分けにくかったけど、そこには、間違いなく二匹の死骸があった。
二匹は、重なるように腐乱していたのだった。
「夫婦?兄弟?親子?友達?」
どちらにしろ、二匹が同時に死んでいる姿は妙にモノ悲しい光景だった。
私は、予想もしていなかった状態に戸惑いを覚えながらも、女性に何と報告しようか考えた。
「動物じゃなかったことにしようかなぁ・・・でもこの臭いは明らかに動物だしな・・・」
「ネコじゃなかったことにしようかなぁ・・・でも、女性は事実を知りたいだろうし・・・」
床下でネコが腐乱していたことを知ったら、女性は腰を抜かすかもしれない。
しかし、この家に暮らす女性にウソをついていいものかどうか迷った。
考えた結果、私は正攻法でいくことにした。
そして、別の部屋で待つ女性に床下の状態を正直に話した。
女性は、イヤな予感が的中してしまった時のように顔を歪めて、嫌悪感を露にした。
今にも泣き出しそうな女性を見てタイミングを失った私は、ネコが二匹いる事実を言いそびれてしまった。
「特掃をやれば、見た目もきれいになるし臭いもなくなります」
「消毒までやれば万全ですよ」
そう伝えて、ギリギリのところで女性の涙を止めた。
考える間もなく、女性は特掃を依頼してきた。
そして、揃えてきた装備で充分だったので、私はそのまま作業にとりかかった。
幸い、床穴と汚物の位置は近く、床下に潜らなくても作業はできた。
ウジ・ハエの飛散が少なかったことも作業の難易度を下げてくれた。
毎度のことながら、動物の死骸を回収する作業は気持ちのいいものではない。
腐乱して溶けかかっているモノはなおさら。
毛に絡みつくように群がる極小のウジは、まるでホラー映画でも見ているかのよう。
更に、その腐乱臭は人間のそれと似て非なるもの、非で似ているもの・・・どちらにしろ、臭い!ことに変わりなし。
触覚と視覚と嗅覚をタップリ刺激してくれる作業だ。
そして、一番の問題は死骸の体液。
コイツを始末しないことには、問題の根本が片付かない。
私はこれを除去するため、上半身と機材を床下に突っ込んで、ひたすら作業を進めた。
何時間かして作業が終わり、部屋の換気をしながら床板と畳を戻した。
「これで大丈夫!きれいになりましたよ」
私は、一応の安心を提供できた手応えがありながらも、対する女性には、まだ一抹の不安があるようにも思えた。
「しばらく、眠れない日が続きそうです・・・」
そう元気なく言う女性に、中途半端な仕事をしてしまったようで、こっちまで元気がなくなりそうだった。
「こんなことが起こるのは、○○さん(依頼者女性)宅だけじゃありませんよ」
「家の床下や軒下でネコが死んでることは、よくあることです」
「動物が最期の場所に選ぶ家なんですから、きっと居心地のいい家なんですよ(しかも、二匹も)」
少しでも元気だしてもらおうと、私はアノ手コノ手の話を繰り出した。
そして最後に、
「また何かあったら来ますから、遠慮なく連絡下さい・・・あ、できたら昼間に」
と、冗談混じりに挨拶をすると、女性は笑顔で応えてくれた。
それを見て、私は一安心。
不眠症に悩めるのも睡眠不足を愚痴れるのも、元気に生きていられるうちの特権か。
望まなくなっていつかは起きられない身体になり、そして、冷たい土に眠ることになる。
現場を離れた私は、夜に起こる幸運と不運とを秤にかけながら、大きなアクビをした。
公開コメントはこちら
特殊清掃プロセンター
遺品処理・回収・処理・整理、遺体処置等通常の清掃業者では対応出来ない
特殊な清掃業務をメインに活動しております。
辺りを探すまでもなく、私の目には、黒い不気味な物体が飛び込んできた。
床板を上げた場所は、まさにドンピシャ!
〝ホールインワン〟は大袈裟にしても〝ニアピン〟には違いなかった。
「さすがぁ」
誰も褒めてくれる人いないんで、私は自分で自分を褒めた。
そして、次の策を練った。
悪臭の根源はやはり動物の死骸、それも依頼者の女性が強く嫌悪するネコだった。
腐乱したせいで原形をとどめていなかったけど、ネコであることはすぐに分かった。
しかし、ネコはネコでもその体勢が確認できず、やや大きくも見える。
「何だか様子がおかしいなぁ」
私は、警戒感が増してきた。
私は、懐中電灯と自分の目を汚物に近づけて凝視。
そして、すぐさま身を硬直させた。
「ひょっとして・・・二匹?」
なかなか見分けにくかったけど、そこには、間違いなく二匹の死骸があった。
二匹は、重なるように腐乱していたのだった。
「夫婦?兄弟?親子?友達?」
どちらにしろ、二匹が同時に死んでいる姿は妙にモノ悲しい光景だった。
私は、予想もしていなかった状態に戸惑いを覚えながらも、女性に何と報告しようか考えた。
「動物じゃなかったことにしようかなぁ・・・でもこの臭いは明らかに動物だしな・・・」
「ネコじゃなかったことにしようかなぁ・・・でも、女性は事実を知りたいだろうし・・・」
床下でネコが腐乱していたことを知ったら、女性は腰を抜かすかもしれない。
しかし、この家に暮らす女性にウソをついていいものかどうか迷った。
考えた結果、私は正攻法でいくことにした。
そして、別の部屋で待つ女性に床下の状態を正直に話した。
女性は、イヤな予感が的中してしまった時のように顔を歪めて、嫌悪感を露にした。
今にも泣き出しそうな女性を見てタイミングを失った私は、ネコが二匹いる事実を言いそびれてしまった。
「特掃をやれば、見た目もきれいになるし臭いもなくなります」
「消毒までやれば万全ですよ」
そう伝えて、ギリギリのところで女性の涙を止めた。
考える間もなく、女性は特掃を依頼してきた。
そして、揃えてきた装備で充分だったので、私はそのまま作業にとりかかった。
幸い、床穴と汚物の位置は近く、床下に潜らなくても作業はできた。
ウジ・ハエの飛散が少なかったことも作業の難易度を下げてくれた。
毎度のことながら、動物の死骸を回収する作業は気持ちのいいものではない。
腐乱して溶けかかっているモノはなおさら。
毛に絡みつくように群がる極小のウジは、まるでホラー映画でも見ているかのよう。
更に、その腐乱臭は人間のそれと似て非なるもの、非で似ているもの・・・どちらにしろ、臭い!ことに変わりなし。
触覚と視覚と嗅覚をタップリ刺激してくれる作業だ。
そして、一番の問題は死骸の体液。
コイツを始末しないことには、問題の根本が片付かない。
私はこれを除去するため、上半身と機材を床下に突っ込んで、ひたすら作業を進めた。
何時間かして作業が終わり、部屋の換気をしながら床板と畳を戻した。
「これで大丈夫!きれいになりましたよ」
私は、一応の安心を提供できた手応えがありながらも、対する女性には、まだ一抹の不安があるようにも思えた。
「しばらく、眠れない日が続きそうです・・・」
そう元気なく言う女性に、中途半端な仕事をしてしまったようで、こっちまで元気がなくなりそうだった。
「こんなことが起こるのは、○○さん(依頼者女性)宅だけじゃありませんよ」
「家の床下や軒下でネコが死んでることは、よくあることです」
「動物が最期の場所に選ぶ家なんですから、きっと居心地のいい家なんですよ(しかも、二匹も)」
少しでも元気だしてもらおうと、私はアノ手コノ手の話を繰り出した。
そして最後に、
「また何かあったら来ますから、遠慮なく連絡下さい・・・あ、できたら昼間に」
と、冗談混じりに挨拶をすると、女性は笑顔で応えてくれた。
それを見て、私は一安心。
不眠症に悩めるのも睡眠不足を愚痴れるのも、元気に生きていられるうちの特権か。
望まなくなっていつかは起きられない身体になり、そして、冷たい土に眠ることになる。
現場を離れた私は、夜に起こる幸運と不運とを秤にかけながら、大きなアクビをした。
公開コメントはこちら
特殊清掃プロセンター
遺品処理・回収・処理・整理、遺体処置等通常の清掃業者では対応出来ない
特殊な清掃業務をメインに活動しております。