特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

夜の出来事(中編)

2007-04-09 08:02:21 | Weblog
驚愕と同時に私が掴み上げたものは、人間の手だった。
慌ててその手を振り払い、私は跳び起きた。
それから、少し遅れて片腕がジンジン。
振り払った手に私の身体から温水が流れ出すような感覚がしたかと思うと、身体と手がジワーッとつながってきた。

そう、得体の知れなかったその手は、完全に痺れて感覚を失った自分の手だったのだ。
体勢が悪かったのだろうか、血液の流れが遮断された腕は私が寝込んだ間にどんどん痺れていったらしい。
そして、そのまま腕は感覚麻痺。
そして、寝返りをうった私の顔にその手が乗っかってきたのだった。

同様の経験をしたことがある人は多いのではないだろうか。

自分でも驚く程、とても自分の手とは思えない程に手の感覚は消えていた。
腕が壊死しないのか、心配になるくらいだった。

昼間だけでなく、夜の間にも色々なことか起こるものだ。
かかってくる電話にも色々な用件があり、色々な人間模様がある。
遺体搬送や腐乱死体に限らず、孤独死相談・害虫駆除・ゴミ処分・異臭騒動・消毒相談etc・・・自殺相談も。
イタズラ電話がないのが幸いだけど、気分がHappyになるネタも皆無。

ある日の深夜、ある女性から電話が入った。
「2~3日前から部屋が臭くなってきた」
「床の方から臭っているような気がする」
「今までに嗅いだことがない変な臭い」

ゴミや排水口に心当たりがない場合、可能性が大きいのは動物の腐乱死骸。
更に、動物は動物でも猫の可能性が大。

私は、悪臭が漂い始めたときの状況や、濃い臭いがする場所を尋いた。
そして、床下に何かの動物死骸が潜んでいる可能性が高いことを女性に告げた。

「まさか、ネコじゃないですよね?」
電話の向こうの女性は声のトーンを上げた。
「んー、ネコの可能性は高いと思いますよ」
「え゛ーっ!」
女性は悲鳴にも似た驚嘆の声を上げたかと思うと、
「私、ネコはダメなんです・・・死んだネコだけじゃなく、生きてるネコも・・・」
と、半泣き状態に。
女性は、シャレにならないくらいにネコが苦手みたいだった。

「〝ネコかも〟なんて、余計なこと言っちゃったなぁ」
自分の失言を悔やみながら、
「ま、まだ動物と決まったわけじゃないですし、ネコだとも限りませんし・・・」
私は、慌ててフォロー。
「すぐに来てほしい」
と言う女性の要望を何とか引き延ばして、夜が明けた朝一に現場に行くことになった。

ちなみに、電話を切ってからの私がなかなか寝付けなかったのは言うまでもない。

早朝、外が明るくなるのを待って、私は現場に向かった。
「今か今かと待ちわびている女のもとへ、夜明けを待って駆け付ける男」
これだけ取って見ると粋な感じもするが、その実態は特掃。
粋も艶もあったもんじゃない。

現場は、街中の古い一軒家だった。
女性は私の到着を心待ちにしていてくれた。
ま、粋な用件じゃなくても、自分を必要としてくれる人がいるのはありがたいことだ。

私は、問題の部屋に案内された。
そこは古い和室で、〝リビング〟と言うより〝居間〟と言った方がシックリくる造り。
予想していた程の悪臭はなく、問題の臭いは強い芳香剤の匂いが掻き消していた。
私は、臭気観察の邪魔になる芳香剤を退かし、窓を開けて部屋の空気を入れ換えた。
そして、あらためて悪臭が漂ってくるのを待った。

女性に指示された位置に腰を屈めて待つことしばし。
そのうちに異臭が立ち込め始めた。
その臭いが床下からでていること、そして動物の腐乱臭であることはすぐに分かった。
しかし、夜の電話で懲りていた私は、女性に余計なことは伝えず黙っていた。

「臭いの元は床下で間違いなさそうですが、見てみますか?」
私は女性の了解をとり、臭いと勘を頼りに畳を一枚上げた。
そして、古びた床板の一部を四角く切り取ってめくり上げた。
すると、鼻を床下に近づける前に悪臭の方が先に鼻に入ってきた。
今までに何度も嗅いだことのあるその臭いは、間違いなく動物の腐乱臭だった。

私は、〝女性に、これ以上は見せない方がいい〟と判断。
「今から特殊清掃をしますので・・・」
口と鼻を押さえながら心配そうに眺める女性に、部屋から出るよう促した。

そして、女性が退室したのを確認してから、私は自分の首と懐中電灯を床下に突っ込んだ。
その体勢から、顔が充血してくるのが、自分でも分かった。

「ん゛ー、なるほどぉ・・・お゛!?」」

つづく




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