特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

ゴホン!ゴホン!(前編)

2007-04-13 08:05:29 | Weblog
「ゴホン!ゴホン!」
今から十何年も前、死体業を始めて一年を迎えようとしていたある日の夜、私はヒドイ咳に襲われた。
何の前兆もない、いきなりのことだった。

しばらくすると咳は落ち着いてきたが、今度はその代わりに呼吸が苦しくなってきた。
気管が細くなったような感じで、空気の通りを圧迫。
肺に力を入れて空気を吸ったり吐いたりしないと酸素が得られないくらいの状態に陥ったのだ。

そうして、自分でも何が起こっているのか分からないまま、眠れない夜を過ごした。

当初、その呼吸困難の発作は決まって夜に襲ってきた。
始めの頃は、何日か毎に起こっていたのだが、次第にその間隔は狭まってきた。
そして、咳がでなくても急に気管が詰まるようになってきた。
満足に呼吸ができない苦しさは、私を泣かせた。

それでも、昼間は平気だったし、もともとの病院嫌いと休暇がとれない仕事が重なって、しばらくそのまま我慢。
そうしていると、とうとう連日のようにその症状が現れるようになってきた。
ここまでくると、さすがにギブアップ。
私は、仕事の合間をみて病院に行くことにした。

病院では、肺と血液の検査が待っていた。
それで下された診断は「喘息」。

それまで、肺や呼吸器系の疾患はまったくなかったし、そんな気配も微塵もなかった私。
その歳で、喘息を患うなんて思ってもみなかったので、この診断を聞いて驚いた。

病名は喘息とついたものの、その原因は特定できず。
汚れた空気を吸っているのは他の人と同程度だし、食べ物アレルギーでも動物アレルギーでもなかった。
しかも、咳もない。
結局、疲労とストレスが関係しているのではないかということになった・・・やはり、人間アレルギーか。

病院からはいくつかの薬が処方されたが、その中の一つに〝気管拡張剤〟なる小さなスプレー缶の薬があった。
「発作がでたら使うように」
と、指示されていたものだった。

病院に行ったその日の夜も、喘息の発作は私を襲ってきた。
満足に呼吸ができない状態の私は、ワラをも掴む思いでその薬を使ってみた。
するとどうだろう。
驚いたことに、薬を吸い込んだ途端に気管の詰まりは解消され、普通の呼吸を取り戻すことができたのだ。
この即効性に、私は感動。
そして、発作の苦しさから逃れられる術を手に入れることができて、身体だけでなく気分まで元気を取り戻した。

ただ、残念なことに、その薬は発作を一時的に抑えるだけのもの。
夜だけだった喘息の発作は次第に昼間(仕事中)にもでるようになり、私は気管拡張剤を一日中手放せない身体になってしまった。

それから数年間、私は、喘息と付き合うことになるのだった。
特に、秋から冬にかけての夜にはその症状が顕著に現れた。

仕事中に呼吸が苦しくなっても作業を中断させるわけにはいかない。
〝心臓に負担を掛ける〟とやらで制限されていた薬の使用回数も無視して、仕事を続けていた。

幸い、時が経ってくると発作の回数は次第に少なくなり、ここ数年は治まったままである。
どんな時も持ち歩いていた気管拡張剤も、今は持たないで済んでいる。
今は、喘息と入れ代わるようにやってきた例の胸痛を抱えているけど、何か関係があるのだろうか。

「ゴホン!ゴホン!」
密閉された場所、例えば 電車の中などこかの待合室などで、ヒドく咳込んでいる人がいると気になることがある。
何が気になるかって?
まずは風邪。
特に気になるのはインフルエンザ。
風邪をひいたからって、そうそう仕事を休めるもんじゃないので、まずは予防が大事。

しかし、他人の咳で本当に気になるのは結核。
〝結核〟と聞くと〝過去の病気〟というイメージを持ちがち。
また、最近では大したニュースにもならない。
だけど、実際はまだまだ現役の病気である。

「健康な人は発症しにくい」
「肺に深く吸い込まないと感染しない」
「薬で治せる」
と言われてはいるけど、飛沫感染・空気感染する結核菌には決定的な対処法がない。
まったく、やっかいな病気だ。

発症してない保菌者だって、結構いるんじゃないだろうか。
実は、私もその一人だったりしてね。

「ゴホン!ゴホン!」
強烈な悪臭パンチを浴びた遺族は、咳込みながら玄関から後退した。

つづく





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