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マイクロソフト、ヤフー買収を断念――対グーグル戦略に迷い?
【「ニュースの理由(わけ)」08.05.09日経新聞(夕刊)】
米マイクロソフト(MS)が3日、米ヤフーに対する買収提案を撤回した。1月末の当初の提示価格、1株31㌦に対しヤフー側が「企業価値を過小評価している」と反発。MSは33㌦まで上げたがヤフー側が37㌦以上で譲らず、結局あきらめた。
■ ■
1株33㌦だと買収総額は475億㌦(5兆円弱)。37㌦に上げるには50億㌦(約5千億円)の積み増しが必要だった。時価総額2千8百億㌦(約29兆円)のMSにとって、どうしても買収したければ株式交換で簡単に上積みできたはずの金額だ。しかしあえて撤回した。
MSのスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)が3日にヤフーのジェリー・ヤンCEOに出した手紙の中で大きな理由に挙げたのが、ヤフーがネット検索最大手の米グーグルと検索連動広告分野で提携を検討している事実だった。
検索連動広告とは、ネット利用者が入力した検索キーワードに関連する広告を検索結果のそばに表示するサービス。ネット広告の中でも成長率が高い分野だ。グーグルの同サービスでの米国内シェアは約6割。ヤフーは2割、MSは1割だ。提携案はヤフーの検索サービスにもグーグルが在庫で抱える連動広告を配信しようというもの。実現するとヤフーの収入が大幅に増える。
だがバルマー氏は「ヤフー独自の検索連動広告の競争力を弱め、買収で得られる価値を減らす」と批判した。そもそも検索広告で「対グーグル連合」をつくることがヤフー買収の最大の目的だった。広告提携でヤフーのグーグル依存が強まれば、買収効果が薄れると判断したようだ。ヤフーにとってグーグルとの提携話は買収防衛策の一種である。「焦土作戦」として作用したともいえる。
ただ、MS側が早めに提示価格を上げていればグーグルとの提携話が進む前に買収合意が可能だったはず。そうしなかったのは買収提案の後になって、MS経営陣の間にヤフー買収という戦略の妥当性について迷いが出た可能性がある。米紙の報道では提案後にMS取締役や執行役員から異論が出たという。
MSは独自の検索エンジンや検索連動広告システムなどの開発に有能な人材や巨額の資金を投じてきたが、ネット事業は赤字が続く。背景には何でも無料で提供し広告で稼ぐネット事業と、本業のソフト事業のビジネスモデルが相いれないという問題がある。有料でソフトを買わせた上でネット広告収入も獲得する戦略を進めてきたが機能していない。この構造はヤフー買収後も変わらないため、買収効果には最初から疑問が出ていた。
■ ■
ビル・ゲイツMS会長は7日、東京で「中核事業の有料ソフトとネットサービスのバランスが今後のMSの強みになる」と述べた。発想は変わっていない。MSは今後もネット企業買収に動く可能性があるが、会社全体の経営思想の転換がないとネット事業でのグーグル追撃は難しいだろう。
{編集委員 小柳健彦}
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マイクロソフト、ヤフー買収を断念――対グーグル戦略に迷い?
【「ニュースの理由(わけ)」08.05.09日経新聞(夕刊)】
米マイクロソフト(MS)が3日、米ヤフーに対する買収提案を撤回した。1月末の当初の提示価格、1株31㌦に対しヤフー側が「企業価値を過小評価している」と反発。MSは33㌦まで上げたがヤフー側が37㌦以上で譲らず、結局あきらめた。
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1株33㌦だと買収総額は475億㌦(5兆円弱)。37㌦に上げるには50億㌦(約5千億円)の積み増しが必要だった。時価総額2千8百億㌦(約29兆円)のMSにとって、どうしても買収したければ株式交換で簡単に上積みできたはずの金額だ。しかしあえて撤回した。
MSのスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)が3日にヤフーのジェリー・ヤンCEOに出した手紙の中で大きな理由に挙げたのが、ヤフーがネット検索最大手の米グーグルと検索連動広告分野で提携を検討している事実だった。
検索連動広告とは、ネット利用者が入力した検索キーワードに関連する広告を検索結果のそばに表示するサービス。ネット広告の中でも成長率が高い分野だ。グーグルの同サービスでの米国内シェアは約6割。ヤフーは2割、MSは1割だ。提携案はヤフーの検索サービスにもグーグルが在庫で抱える連動広告を配信しようというもの。実現するとヤフーの収入が大幅に増える。
だがバルマー氏は「ヤフー独自の検索連動広告の競争力を弱め、買収で得られる価値を減らす」と批判した。そもそも検索広告で「対グーグル連合」をつくることがヤフー買収の最大の目的だった。広告提携でヤフーのグーグル依存が強まれば、買収効果が薄れると判断したようだ。ヤフーにとってグーグルとの提携話は買収防衛策の一種である。「焦土作戦」として作用したともいえる。
ただ、MS側が早めに提示価格を上げていればグーグルとの提携話が進む前に買収合意が可能だったはず。そうしなかったのは買収提案の後になって、MS経営陣の間にヤフー買収という戦略の妥当性について迷いが出た可能性がある。米紙の報道では提案後にMS取締役や執行役員から異論が出たという。
MSは独自の検索エンジンや検索連動広告システムなどの開発に有能な人材や巨額の資金を投じてきたが、ネット事業は赤字が続く。背景には何でも無料で提供し広告で稼ぐネット事業と、本業のソフト事業のビジネスモデルが相いれないという問題がある。有料でソフトを買わせた上でネット広告収入も獲得する戦略を進めてきたが機能していない。この構造はヤフー買収後も変わらないため、買収効果には最初から疑問が出ていた。
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ビル・ゲイツMS会長は7日、東京で「中核事業の有料ソフトとネットサービスのバランスが今後のMSの強みになる」と述べた。発想は変わっていない。MSは今後もネット企業買収に動く可能性があるが、会社全体の経営思想の転換がないとネット事業でのグーグル追撃は難しいだろう。
{編集委員 小柳健彦}
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