ギリシャ神話あれこれ:アルゴーの冒険(続々々々々々々々々々々々々)

 
 メデイアは、愛しい前夫の花嫁に、と婚礼の祝いに、輝く薄絹の衣装と黄金の冠とを送り届ける。グラウケはこの美しい贈り物に喜び、いそいそと身につける。
 と、衣装がグラウケの肌に触れるや、たちまち彼女の身体は燃え上がり、炎に包まれる。衣装の生地に、メデイアお得意の魔法の猛毒が仕込んであったわけ。
 王女の絶望的な悲鳴に駆けつけた王にも、娘から衣装を剥ぎ取ろうと手をかけた途端に、毒に冒されて炎が燃え移る。二人は火炎のなか、身を焼け焦がして、ただれ死んでしまった。

 花嫁とその父とが眼の前で焼け死ぬのを呆然と見護っていたイアソンの前で、メデイアは、最後のとどめとばかり、イアソンとのあいだに生まれた二人の子供たち、この子たちは当然、メデイアが生んだ子供たちなのだが、彼らを自らの手で刺し殺す。
 そして、翼のある竜の牽く車に飛び乗ると、イアソンを残して空の彼方へと去っていった。

 ……その後、メデイアはアテナイへと逃れ、アイゲウス王の後妻にちゃっかり納まった。が、テセウスが父王を訪ねた際、彼を毒殺しようとして失敗、再び逃亡する。

 その後の消息については諸伝あり、杳として知れないが、ま、メデイアのことなのだから、どこへ行っても上手いことやっていたのだろう。
 死後はエリュシオンの野で、かの英雄アキレウスと結婚したともいう。

 一方、すべてを失ったイアソンは放浪し、あるとき、ある海岸で、アルゴー船を見つけて、過去の栄光に浸りながらぼんやり座っていたところ、ドドネの聖木で作った舳先が落ちてきて、死んでしまった、という。
 ちゃんちゃん。

 アルゴ船座(竜骨座、羅針盤座、船尾座、帆座)は、イアソン率いたアルゴー船に因む星座。

 画像は、ロー「メデイアとイアソン」。
  カルル・ヴァン・ロー(Carle van Loo, 1705-1765, French)

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ギリシャ神話あれこれ:アルゴーの冒険(続々々々々々々々々々々々)

 
 騙されたとも知らない娘たちは、嬉々として父王の喉を切り、苦しむままに彼を釜のなかへと押し込んで、蓋をして火にかけた。さて、父王は釜のなかで、煮えただれて死んでしまった。

 が、この残酷な所業がイアソンとメディアの共謀だとバレて、二人はイアルコスを追われることになる。
 結局、イアソンは王位奪還ならず。
 
 イオルコスにいられなくなったイアソンとメデイアは、コリントスへと逃れる。クレオン王は二人を歓迎し、やがて二人には子供も二人生まれる。
 が。

 もともと美男で家柄も良く、コルキス遠征を成し遂げた英雄イアソンを、クレオン王はよっぽど気に入ったらしい。……自分には息子がいないから、娘グラウケと結婚し、王位を継いで欲しい、と持ちかける。

 王位に未練があったのか、はたまたメデイアの狂恋をうるさく感じていたのか、おそらくそのどちらもなのだろうが、イアソンは王の話に応じる。彼は言葉巧みにメデイアを説きつけ、コリントスを退かせようとする。
 よくもそんな善人ぶったことを! あなたのために、悪事にまで身を染めたというのに! と、激しくなじるメデイアだったが、結局は身を引く。
 ……ふりをする。

 To be continued...

 画像は、ドラクロワ「我が子を殺そうとするメデイア」。
  ウジェーヌ・ドラクロワ(Eugene Delacroix, 1798-1863, French)

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ギリシャ神話あれこれ:アルゴーの冒険(続々々々々々々々々々々)

 
 こういうわけで、イアソンが凱旋したとき、彼の両親はすでに亡かった。帰還したイアソンは、事情を聞いて激怒する。 
 
 イアソンは持ち帰った金羊の毛皮をペリアス王に渡したが、王のほうは約束を忘れたふりをして、いつまで経っても王位を譲ろうとはしない。
 そこでイアソンは、メデイアとともに復讐を計画する。と言っても、主導権を握ったのはやはりメデイアのほうだった。場数踏んでるし。
 
 二人はイオルコスを出て、しばらく王の監視を逃れていたが、やがて、メデイア一人がイオルコスへと戻ってきた。王宮に赴き、イアソンとは喧嘩別れした、と言い訳し、王の3人の娘たちに魔法を披露する。
 年老いた、今にも死にそうなヨボヨボの牡羊の喉を切り開き、血管に霊薬を入れる。そしてその牡羊を、薬を溶かした湯を入れた釜のなかに放り込む。蓋をして、グツグツと煮立てる。
 さて、蓋を取ると、なんと、生まれたばかりのちっちゃな仔羊が、ミェー、と飛び出してきた。

 王の娘たちはすっかり感心して、さっそくこれを、老い込んだ父王に試して、若返らせて欲しい、とせがむ。

 メデイアは気前よく、娘たちに方法を伝授して、決め手となる霊薬を手渡す。が、この霊薬は、一番大事な薬草を一つだけ抜いて調合してあった。

 To be continued...

 画像は、ド・トゥール「娘たちに殺されるペリアス」。
  ジョルジュ・モロー・ド・トゥール(Georges Moreau de Tours, 1848-1901, French)

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ギリシャ神話あれこれ:アルゴーの冒険(続々々々々々々々々々)

 
 カリュブディスの側では船もろとも全滅は必至だが、スキュラの側では犠牲は6人にとどまる。ので、船は大抵、海峡をスキュラ寄りに通るのだそう。
 が、ギリシャの英雄たちが怪物に殺されてはならない、というヘラ神の命令で、ネレイデスのテティスがアルゴー船を守護して、船は無事、海峡を通り抜けることができた。

 さらにアルゴー船は、パイエケス人の国に到着。王アルキノオスと王妃アレテのもとで(後にオデュッセウスを助けた王女ナウシカアは、彼らの娘)、イアソンとメデイアは結婚する。

 その後、クレタ島に船を着けた際、青銅の巨人タロスに襲われる。
 タロスは、エウロペがたどり着いたクレタの地の番人として、ゼウスがヘファイストスに命じて作らせた巨人。首から踵まで、一本の静脈に神血イコルが、釘で打ち止められている。毎朝、クレタ島の海岸を巡回し、アルゴー船を見つけた際にも大岩を投げつけて威嚇した。
 が、メデイアは呪文でタロスを眠らせ、その隙に踵の栓を外してイコルを抜いたため、タロスはあっけなく死んでしまう。

 ……こうして、数々の危難を伴う長い航海の末に、アルゴー船はようやくイオルコスへと帰着する。

 さて、イアソンがコルキスに向けて出航してからというもの、ペリアス王は、イアソンが生きて戻ることはあるまい、と楽観し、イアソンの父アイソンを執拗に虐待していた。で、とうとうアイソンは、牡牛の血を飲み干して自死し、イアソンの母も、王を呪いながら縊れ死んでしまった。

 To be continued...

 画像は、ブーティボンヌ「セイレンたち」。
  シャルル・エドゥアール・ブーティボンヌ
   (Charles Edward Boutibonne, 1816-1897, French)


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ギリシャ神話あれこれ:アルゴーの冒険(続々々々々々々々々)

 
 やがてアルゴー船は、セイレンたちと遭遇する。

 セイレンは翼を持つ魔性の人魚。岩礁に姿を現わし、美しい歌声で船乗りたちを惑わして難破させ、その生肉を食らう。彼女たちの住むアンテモッサ島には、歌声に魅了されて殺された船乗りたちの白骨が山積みになっているという。
 
 さて、アルゴー船が近づくと、セイレンたちは美しい歌を歌い始めた。思わず、ボーッと聞き惚れる一同。
 と、船に同乗していた竪琴の名手オルフェウスが、セイレンに対抗して、琴を奏でて歌い出す。オルフェウスの歌声はセイレンよりも美しく、このためアルゴー船の一行は、無事セイレンに惑わされずに済んだ。……ブテスを除いて。

 ブテスだけは、セイレンの歌に誘われて海に飛び込み、泳いで島へと向かってしまった。が、アフロディテ神が彼を哀れみ、リリュバイオンへと連れ戻したという(ついでにその後、ブテスと恋に落ちたとか)。
 歌い負けたセイレンたちは、アルゴー船を見送った後、海に身を投げて死んでしまう(が、後にオデュッセウスも、セイレンたちと遭遇しているんだけど?)。

 次にアルゴー船が差しかかったのは、カリュブディスとスキュラ、そして火と煙を吹き上げて揺らぐ岩礁、というの難所。

 メッシナ海峡の北端の岸には、カリュブディスという怪物がいて、海水を海水を吸い込んでは吐き出し、山のような大渦を巻を巻き起こして、船を難破させていた。
 反対岸にはスキュラという怪物がいて、こちらは腰から下に6つの犬の頭と12本の足を持つ。その昔、美しいニンフだったのだが、魔女キルケの呪いで、こんな奇怪な異形の姿に変えられて以来、船が近くを通りかかるたびに襲いかかって、船乗りを6人ずつ食い殺す怪物となったという。

 To be continued...

 画像は、ドレイパー「黄金の羊毛」。
  ハーバート・ドレイパー(Herbert Draper, 1863-1920, British)

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