湖上音楽祭の町(続)

 
 ブレゲンツのユースホステルは古くて趣のある建物。受付は、黒くつやつやなソバージュの髪を垂らし、濃く長いバサバサの睫毛をした、妖艶な雰囲気のお姉さん。澄ましたような眼つきでソツなく、だが親切に、東洋人に受け応えしてくれる。
 ……どうもオーストリアって、モーツァルトやサウンド・オブ・ミュージックの明朗さよりも、クリムトや夢奇譚のような淫靡さをイメージしちゃうんだよね。

 相棒、頑張って、ドイツのユースで入手したような、オーストリア中のユースを網羅した地図や冊子が欲しい、と言い張って、こちらもタダでゲット。オーストリアでもユースを泊まり歩く気なのね。

 ユースではファミリールームを取るのだが、ファミリールームというのは最上階近くにあるものなんだろうか。いつも、フウフウ言いながら4、5階まで階段を昇る。ブレゲンツのユースは、古い建物らしく天井が高いので、階段の数がいつもの倍くらいあるので大変。
 ようやくたどり着いた部屋で眼についた、ここのユースのマークであるらしい、漢字の「方」のような形。いきなり、相棒の眼の前でそのマークを真似てみる。両腕を水平に伸ばして、片足を持ち上げ、ヤッ! とポーズを取って、二人してワハハと笑って、疲れを吹き飛ばす。

 最上階まで昇った特権で、非常階段に出て、ブレゲンツの町を見渡す。建物規制という点で、やっぱりドイツとは異なるのを、雰囲気で感じる。不似合いに背の高い小ビルが、ところどころに、何の遠慮もなく唐突にポコッ、ポコッと建っている。
 こんなにドイツに近い町なのに、やっぱりここはオーストリアなんだな。

 雨の降り止まないなか、町歩きに出かける。

 To be continued...

 画像は、ブレゲンツ、ユースホステル。

     Previous / Next

     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

湖上音楽祭の町

 
 国境は徒歩で越えるべき、と、どういうわけだか思い込んでいる相棒。次の町はリンダウの対岸、オーストリアのブレゲンツ(Bregenz)。もちろん相棒は歩く気満々。
 ま、雨さえ降ってなきゃね。相変わらずの小雨のなか、いざ国境を越えるべくブレゲンツへと向かう。

 歩いて三十分も経たないうちに、牧場を発見。歩く者の特権で、寄り道して、早速休憩。牛を眺める。
「うわあ、“うしうしマン”がいっぱいだねえ」と相棒がからかう。以前私が、鳥を見て「とりとりマン」と呼んだのをインプットしていて、何か動物を見るたびに、わざわざそれを真似た珍奇な呼び方をしてくさる。

 湖岸に出て、湖沿いを歩く。道々振り返り、湖に突き出したリンダウの町を見晴るかす。相変わらずどんよりとして、鉛のように重く鈍い湖面。そこにプカプカと浮かび、パンをねだりにせっせと水を掻いて泳ぎ来る水鳥たちは、なんとも朗らかな存在。

 いつしか湖岸を離れた道を、鉄道沿いにてくてく歩いていて、ふと見ると、ロッハウ(Lochau)の看板が立っている。
「ロッハウはもうオーストリアだよ。どの一歩でオーストリアに入ったのかな。まあいいや、この一歩で入ったことにしとこう!」
 相棒、感無量の一歩を踏む。

「もう一度、湖に出ようか。私有地かな。行けるかな」
 けれどもそこには、「オーストリア軍の演習地、危険」とかなんとか注意書きのある看板が。まさかこんなところで、軍が演習するかねえ。
「いや、分からんぞ。国境だし。一昔前にはナチスの軍隊が、ここを越えて侵略したんだしな」
 慎重な相棒、さもありなんと看板を警戒する。ので、湖岸に戻るのは諦めて、再び鉄道沿いを歩く。

 俄かに雨が激しくなってきたので、駅の構内で雨宿り。さすがオーストリア、すぐ近くに山が見える。が、まるで雲が解けて、山裾へと流れ出したように、見る見る白く煙っていく。
 こんなに雨脚が強くなるばかりだと、さすがに日和る。とにかく国境だけは自分の足で越えたんだから、と言い訳して、あとはちゃっかり列車に乗り込んで、さっさとブレゲンツへと向かったのだった。

 To be continued...

 画像は、リンダウの牧場。

     Previous / Next

     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ボーデン湖の出島(続々々々)

 
 徐々にテーブルが満席になり、食事もたけなわ。やがていち早く子供たちが食べ終えて、ぼちぼちと食堂を出て行く頃、別の子供たちの集団が、入れ替わりにどやどやと入って来る。どうやら彼らは第二陣。子供たちの人数が多いので、混み合わないよう学校側が前もって時間制に決めているらしい。
 料理された温かい夕食が久しぶりの私たちは、時間いっぱい、席に座って食べている。で、第二陣の子供たちの観察も続行する。

 クマの顔のついたモコモコ毛の、ぬいぐるみスリッパを履いた女の子がいる。ドイツの子供たちは、他の子と違う格好をしていても一向に平気。
「どうしてあんなにペタペタと脂肪が付いてるんだろうねえ」
 顔立ちはキレイな、別の女の子を見て、相棒がやるせない溜息を吐く。……いい加減、慣れたら?
 一方男の子たちは、まだこの年齢ならスリムな子が多い。ズボンをわざわざずり下げて履くのは、私の眼には醜悪に見えるのだが、世界共通のトレンドであるらしい。

 家族連れも多い。薄い金色の髪をした、青い眼の、赤い頬っぺの赤ちゃんが、私のほうにパーをした手を伸ばし、「ハイ!」と言ってくれる。私が嬉しがっていると、「ハイル、って言ったんじゃないの?」と相棒が茶化す。……うるさい男だな。
 両親とも栗色の髪をしているのに、赤ちゃんは金髪なんだな。大人になったら、栗色になるのかな。劣性遺伝なのかな。それとも養子なのかな。

 食堂を出ると、廊下には、さっさと食事を終えた第一陣の子供たちが、ディパックを背負って待っている。子供たちはこれから、雨のなか、ヴァンデルンク(散策)に出かけるのだ。
 で、私たちはと言うと、「僕たちも雨がやんだら出ようか」なんて言い合いながら、取り敢えず部屋で休憩。日課の洗濯をしたり、隣りの部屋の赤ちゃんをシロクマのパペットごっこであやしたりして、そのまま部屋で寝倒してしまった。

 ああ、憧れだった、思い出深いリンダウの町。最後は疲れて、朝まで爆睡。

 To be continued...

 画像は、リンダウ、旧市街の目抜き通り。

     Previous / Next

     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ボーデン湖の出島(続々々)

 
 旧市街を抜け、各国の国旗が並んでたなびく道路橋を渡って、島を出る。橋から眺めるボーデン湖面には、水鳥たちがプカプカと浮かんでいる。
 湖畔は緑したたる別荘地で、湖のちょっとした支流にも白鳥がいる。白鳥を初めとする水鳥たちはどこにでもいて、大抵はつがいで、人間(=私たち)が近づくと、パンを貰おうと岸辺までせっせと泳いでやって来る。

 リンダウ島からかなり歩いて、ようやくユースに到着。ここでも合宿の子供たちが、ワイワイ賑やかに騒いでいる。幼っぽい子たちは、はしゃいで館内を走り回る。行きの飛行機のなかの相棒みたい。
 両腕をだらりと垂らして、背を丸め、身体を左右にゆらゆらと揺らしながら、階段を昇っていく女の子がいる。
「あんなふうに猿人のように歩く子って、どの国にもいるんだねえ。また一つ、人間の普遍性を発見したよ」と相棒。……ヘンなところに普遍性を発見するもんだねえ。

 夕食までの時間、ユースを探検していると、庭から、窓越しの厨房で、アシスタント・シェフにあれこれと指示している、大きな鍋に向かった貫禄あるヘッド・シェフの姿が見える。ユースの夕食はこうやって、ちゃんとしたシェフが作るんだ。
 
 さて、夕食の席は、ティーンの子供たちで大賑わい。照れ屋の子、剽軽な子、物静かな子。いろんな子らがいるけれど、みんな東洋人を珍しがって、チラチラと覗いていく。
 大きなボールにイチゴのクリームのデザートが盛ってある。その縁に、フレッシュなイチゴが綺麗に並んで飾ってある。ボールが空っぽになった頃を見計らって、先程厨房に見かけたシェフが、新しいボールを持ってやって来る。ワッ! と歓声を上げて、デザートのボールに群がる女の子たち。飾りのイチゴは早い者勝ち。礼儀正しく一人一個しか取らなくても、あっという間になくなってしまう。
 こんなにイチゴが気軽に食べられる国でも、やっぱりみんなイチゴが大好きなんだ。

 To be continued...

 画像は、リンダウ、旧市街の広場。

     Previous / Next

     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ボーデン湖の出島(続々)

 
 ドイツにもいくつかスーパーマーケットがあるが、相棒が気に入っているのが、この“Plus(プルス)”というスーパー。
 私たちは大抵、スーパーで夕食を買う。ドイツへ来た当初、相棒はスーパーを見つけるたびに、手当たり次第に入って、値段をチェックしていた。そして、どのスーパーでも売っている、ドライフルーツやナッツ入りの板チョコレートの値段をベースに比較して、各スーパーの相場を確かめていた。
 で、この頃になると、この“プルス”(私たちは「プラス」と呼んでいた)が、「一番安い」という理由で、相棒行きつけのスーパーの座を占めるようになった。

 ベリー類が安いドイツでは、ベリーは私たちの定番のおやつ。ラズベリーやブラックベリーなども、日本に比べると格段に安いのだが、現地では現地の通貨で脳内計算する相棒、そのたびに一応悩んで、結局、ベリー類のなかで最も安くて量も多いストロベリー、つまりイチゴへと落ち着く。……相棒は、必要なものなら何でも気前好く買ってくれるのだが、この「必要」の範疇に入るモノが、世間から見るとかなり限られているし、偏ってもいるのだ。
 で、ラズベリーをねだったのだが、「今日はユースで夕食を付けといたからねえ」と、呆気なく断られた。

 が、買い物を終えて見つけたパン屋のケーキをねだると、「リンダウはドイツ最後の町だからねえ!」と、相棒、率先して、イチゴのケーキとシュークリームを購入。
 日本じゃ、買ってまでケーキを食べなかった私たち、異国のドイツでは、かつてアイドルだった過去を持つ某大学教員の名言、「ケーキのない人生なんて!」を、ほぼ毎日実践していた。

 To be continued...

 画像は、リンダウ、市庁舎。

     Previous / Next

     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-          
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ