ひっきりなしに行き交う車の忙しなさ、商業施設の存在のうるささ、美術館のナンセンスさ、などのいらいらが積もり積もって、相棒、とうとうそのいらいらを、一つに固めてポイと投げ捨てた。
「もう都会には来ないことに決めた」
ああ、リンツ。お前はヨーロッパの都会の負の不名誉のことごとくを一身に背負った、穢れた街となってしまった。ウィーンや、パリやロンドンやベルリンのほうが、はるかにひどかろうのに。だが、相棒がこうと決めたら、相棒自身にだって、ほとぼりが冷めるまで、待つより他にしようがないのだ。
夜、窓下の街路を往来する車の騒々しさに腹を立て、窓を閉め切る。暑さの籠もる部屋で、寝苦しい夜を過ごした。

「自分の食事を女に取りにやらせるなんて、東洋の男尊女卑だわ」と、不機嫌な相棒が、婆さんの台詞を勝手に代弁する。
去り際に駅で、タバコをふかしている太った若者集団に、日本語が通じないのをいいことに、「煙いだろうが、屑め!」と罵りの言葉を吐いて、リンツを締め括る。
「リンツ行きですってーッ!」
……ずっと以前、チェコのチェスキー・クルムロフで出会った日本人カップルの女性が、列車を乗り換える際、自分たちの列車から、私たちに向かってこう大声で呼びかけたのを思い出す。あのとき私たちはプラハ行きの列車に乗った。が、いずれリンツにも行こう。そう決めたのだ。それなのに、リンツ。
さようなら。汚名返上を願うなら、いつかマウトハウゼンを訪れる日に。
画像は、リンツ、ハウプト広場。
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