チロルの古都(続々々々々々々々々)

 
 翌日は朝から小雨。で、大の大人が二人して、雨のなかアルペン動物園へと向かう。
 前日にケーブルカーに乗ったので、この日はケーブルカーに乗るのにインスブルック・カードが使えない。で、バスを降りると、ノルトケッテ山腹にある動物園までの坂道を、てくてくと歩く。この動物園、ヨーロッパで最も高い標高に位置するのだとか。

 アルプス山岳地帯に生息する動物を、自然環境に近い環境で飼育しているという、立派な動物園。山の斜面に十分な広さの各種の個別園があって、そこにはごつごつした岩があり、森のように木や草が生い茂り、川まで流れている。来園者はそうした個別園のあいだを、坂道を上ったり下りたりしながら見学する。
 しっかりしたコンセプトの上に立ったユニークな展示で、面白い。

 この日は雨で、がらがらに空いていたけれど、それでも野外学習らしい子供たちが、ヤッケを着て、雨をも構わず元気に走り回っている。

 お馴染みのオオカミやオオヤマネコ、仏頂面のブラウンベア。自慢の角ですぐに決闘モードに走るステインボックに、スマートなシャモア。ちっちゃな瓜坊をいっぱい連れたイノシシ。じゃれ合って玉のように丸まって、転がり続けるケナガイタチ。気まぐれに顔を出して、スイスイスイ~と泳ぎ去るカワウソ、等々。
 ムルメルティーア(アルプスマーモット)園の前でも頑張ったけど、何しろ広くて、巣穴がどこにあるのかも分からず、見ることができなかった。残念。

 To be continued...

 画像は、インスブルック、アルペン動物園のカワウソ。

     Previous / Next

     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

チロルの古都(続々々々々々々々)

 
 でもまあ、難しいことは抜きに、チロルを楽しめる博物館だった。

 博物館だけあって、時代、分野とも雑多な展示。先史時代の考古学的遺品や、中世のロマネスク・ゴシック美術品など、あまり興味はないんだけれど、チロル地方に特化したローカル性が結構楽しい。
 おまけに、このときの企画展のテーマが、チロルの英雄、アンドレアス・ホーファーだったので、隅々までホーファーだらけの一角まであった。

 絵画もまた、チロルにちなんだ絵が、ルネサンス以前から現代まで、一通り揃えてある。絵画目当てに訪れた人でも、十分に満足できる内容。特に、チロルの画家として有名なアルビン・エッガー=リエンツ(Albin Egger-Lienz)の絵が多数あった。ウィーンにあると思い込んでいた彼の代表作「死の舞踏」を、ここで観れたのはラッキー。
 エッガー=リエンツの他にも、アルペンスキーの絵をよく描いたアルフォンス・ヴァルデ(Alfons Walde)や、チロルの風俗を取り上げたフランツ・フォン・デフレッガー(Franz Von Defregger)、テオドール・フォン・ヘルマン(Theodor von Hörmann)など、秀逸なものばかり。美術館として合格。

 大聖堂(聖ヤコブ教会)を見忘れていたので、旧市街へと戻る。大聖堂では、パイプオルガンのレッスンの最中。ここの中央祭壇にはルーカス・クラナッハ「聖母子像」があるのだけれど、この祭壇画、小さすぎるし遠すぎるしで、よく見えない。
 インド人の団体客が来ていて、好奇心旺盛な子供たちがちょこまか歩き回っている。で、子供たちが祭壇のポールに触ると、大人たちも集まってきて、みんなで珍しげに触っている。その光景を撮ろうとしていたら、そこから一人戻ってきた初老の男性が、気を利かせて立ち止まってくれた。
 ……インド人たちを撮ろうとしてたのにね。

 To be continued...

 画像は、インスブルック、チロル州立博物館。

     Previous / Next

     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

チロルの古都(続々々々々々々)

 
 旧市街を離れて向かった先は、チロル州立博物館(Tiroler Landesmuseums Ferdinandeum)。

 ドイツ・オーストリアの近代絵画というと、ブリュッケや青騎士などによる表現派や、クリムトやココシュカ、シーレ辺りの象徴派のもの、あとはリーバーマンらの印象派のものが、普通に思い浮かぶ。それらとは別に、私がちょっと興味を持っていたのが、チロル地方の絵画。
 で、チロルのミュージアムになら、その種の絵も多少あるだろう、と踏んで、ここに来ることを強烈に主張していたわけ。

 ドイツ・オーストリアの歴史にも、また絵画史にも疎いのだが、その絵画の通史を素人目で見ていると、写実主義の時代、フランスのバルビゾン派に影響を受けた、いわゆる「自然主義」と呼ばれる、農村の生活風景を描いた絵画傾向が現われる頃、チロルの地方色の濃い、独特のテーマの絵が眼につくようになる。
 これは普通に考えれば、抑圧され、虐げられたチロル地方の民族の、民族としての統一や独立を目指した思想・運動によって喚起された、民族的アイデンティティの現われなのだろう。

 私は、異文化的な、民族主義的な印象を醸す絵を前に、憧れの気持ちを持つたびに、ぎくりとする。自分が持っていないものを、こうした絵に投影し、不当に歪曲し美化してはいないだろうか、と考える。私は異文化に対して、僭越にも卑屈にもなりたくはない。
 が、好きなものは素直に好きなままでいるしかない。民族主義的な絵に出会うといつも感じる、ある種の心地好い戸惑いと、真新しさ。私はあの感覚が好きなのだ。

 To be continued...

 画像は、インスブルック、凱旋門。

     Previous / Next

     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

チロルの古都(続々々々々々)

 
 インスブルックに着いた時点で、一日分のインスブルック・カードを購入していた相棒。ケーブルカーとロープウェイで元を取ったのだが、せっかくあるのだからと、普段はお金を払ってまで入らない王宮や宮廷教会などにもいちいち入る。

 人間は、およそ人間にとって普遍的な意味を持つものについては、眼を開けておかなければならない一方、あらゆるものについてフラットに(=平等に)興味を持つことはできないし、むしろ持たないほうがよい、というのが、相棒の主張。誰をも区別なくフラットに愛する汎愛が、結局は力を発揮できないのと同じように。
 で、私たちにとって、こういう宮廷美術の類は、まあ力を抜いて、教養の範囲で見てるだけ。

 階段をヒイコラ昇って、市の塔からしばし、インスブルックの町並みを眺め渡す。

 あとはイン川まで歩いて、対岸に並ぶカラフルな家並みを眺める。インスブルックと言えば黄金の小屋根やアンナ記念柱が有名だけれど、私はこの、ノルトケッテ連山を背に、連山を模して(?)イン河畔に沿って並ぶカラフルな家々が、一番見たかった。
 フェルトキルヒのイル川もそうだったが、このイン川も、解けた氷河の不思議な水色。

 旧市街を離れると、大通りにはもう人の姿がなくなる。通りの中央は、来たるべき観光シーズンに向けてか、補修工事が行われている。その中心には、よく見ると、インスブルックのシンボルと言われる、聖アンナ記念柱が、カバーをかけられて立っている。
 連峰を背にしたこの記念柱の前には、カメラを構えた観光客の姿が耐えない、なんてガイドブックにはあったが、今は観光客なんて一人もいやしない。

 ちょっと損した気分でいると、すっかり調子を取り戻した相棒に、「欲張りだねえ」と言われた。

 To be continued...

 画像は、インスブルック、イン川対岸の家並み。

     Previous / Next

     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

チロルの古都(続々々々々)

 
 下山して、観光客よろしく旧市街見学。天気が好いので、みんな夏の格好をしている。しかもこの日は日曜日。なので物凄い人、人、人。
 マロニエの並木道の木陰に、客待ちの馬車が一列になって並んでいる。行きにもこの観光馬車を見ていたくせに、相棒、調子こいて、
「ほら! お馬がいるよ」と私を促す。
「山で尾も白い(=面白い)犬を見て、元気が出たから、声をかけやすくてねえ」とかなんとか、親父ギャグをかます。

 旧市街の建物はカラフルで、エルカーという装飾出窓があり、1階部分がラウベンというアーケードになっている。背後には白い峰々のアルプスの山稜が迫り来る。都の賑やかさがあり、田舎の素朴さもある。美しい町と評されるのも頷ける。
 もう随分前からモノを買わなくなったが、もともと雑貨が好きな私。チロル帽をかぶったテディベアや、焼き菓子に模様を付けるための木彫りの型、スワロフスキーのクリスタルガラスなどのウィンドーを見て歩くだけで、かなりご機嫌。広場では似顔絵描きの背後から、ふむふむとプロセスを見学。

 ただ、とにかく人が多い。ゴールデン・ウィークのツアーでやって来たのだろう、とうとう日本人の団体にも出くわした。
 中国人の団体も見かける。さすが同じ東洋人だけあって、日本人と中国人はよく似ている。が、中国人のほうが、口振りや身振り、手振りが激しい。良く言えば、表現力が豊か。
 こうして見ると東洋人って、胴は長いけどスレンダーだな。

 To be continued...

 画像は、インスブルック、市の塔からの市街眺望。

     Previous / Next

     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ