世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
ギリシャ神話あれこれ:末裔たち(続々)
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何これ、新婚の初っ端から、妾がいるってどういうこと?! しかもこの結婚生活、ネオプトレモスはヘルミオネをほったらかす。子が産まれればまだプライドを保てもしようが、ヘルミオネに子はできない。
ヘルミオネの嫉妬深さ、執着心の強さ、束縛の激しさというのは、父メネラオスから受け継いだところが大きいんじゃないだろうか。メネラオスというのは、兄アガメムノンの影のような存在で、兄同様、強欲で陰険ではあるが、その程度は二流でいまいち煮え切らない。生まれの高貴さだけが取り柄の、取り立てて能のない男なのだ。
ネオプトレモスがアンドロマケを寵愛していると思い込み、ヘルミオネは嫉妬に狂う。自分に子ができないのは、アンドロマケの呪いのせいよ! 妾のくせに生意気な! と傲慢な物言いでアンドロマケを侮辱する。
挙句の果てに、ネオプトレモスの不在に乗じて、父メネラオスに頼って、アンドロマケ母子を殺そうと企てる。が、あえなく失敗。
こんな陰謀がネオプトレモスに知れたら、我が身が危ない。ヘルミオネは恐怖する。
そこにふと現われたのが、かつての許嫁オレステス。神々に許されたオレステスだったが、一族の因果応報を清算するため、さらなる放浪の途にあった。
ヘルミオネはオレステスを言いくるめ、庇護を求める。オレステスのほうも、ネオプトレモスに対しては、許嫁を奪われた恨みがある。
……というわけで、オレステスは、デルポイに赴いていたネオプトレモスを追い、剣をもって殺害する。トロイア戦争で散々、神をも怖れぬ残虐非道な行ないを繰り返したネオプトレモスは、やはり夭死したわけだ。
その後、オレステスはミュケナイへ戻って、王となり、ヘルミオネを妻に娶ったという。メネラオスの死後はスパルタ王も兼ね、広くアルカディアを支配した。長らく王として君臨したが、老いた後、蛇に噛まれて死んだという。
ちなみに、オレステスの姉エレクトラは、もともとの許嫁だったピュラデスと結婚した。
なお、アンドロマケは、ネオプトレモスの死後、奴隷として一緒にトロイアから連れて来られた、ヘクトルの弟ヘレノスと結婚し、エペイロスの女王となったという。
いずれにしても、このヘレノスによって、トロイア王族の血統は継承されていった。
画像は、トリオゾン「オレステスとヘルミオネの邂逅」。
アンヌ=ルイ・ジロデ=トリオゾン
(Anne-Louis Girodet de Roussy-Trioson, 1767-1824, French)
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ギリシャ神話あれこれ:末裔たち(続)
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さて、ネオプトレモスは、トロイア戦争に従軍するにあたって、総大将アガメムノンの弟で、ヘレネの夫であるメネラオスから、一人娘ヘルミオネを妻として与えよう、と約束されていた。で、もちろん彼は、帰国後、ヘルミオネを正妻として貰い受ける。
このヘルミオネ(英語読みでハーマイオニー)というのは、絶世の美女ヘレネの娘だけあって、美貌の女には違いないのだが、性格に難があるらしい。
トロイア戦争発端は、母ヘレネの駆け落ち。戦争中、両親は不在、しかも父メネラオスはギリシア、母ヘレネはトロイアという、敵味方の関係。
ヘルミオネはもともと、幼少の頃に、父王たち(アガメムノンとメネラオスの兄弟)によって、従兄に当たるオレステスとの婚約が決まっていた。戦争中は、伯母に当たるクリュタイムネストラの手で育てられたというが、多分、伯母とその情夫との影で、エレクトラとオレステス、そしてヘルミオネが、相手にされない子供同士、寄り添って暮らしていたのだろう。
そして戦後、クリュタイムネストラの謀反により、許嫁のオレステスは亡命を余儀なくされる。
……そんなこんなの成育過程。
そこへいきなり、見知らぬ男、ネオプトレモスが現われて、約束は約束だ! と断固主張してくる。ヘルミオネにとっては寝耳に水。というのは、ヨリを戻した父メネラオスと母ヘレネは、えっちらおっちら、トロイアからの帰国に、実に8年の歳月を要したのだから。
さて、強引にエペイロスへと連れ去られ、ネオプトレモスの妻になってみると、そこには、夫の子を連れた愛妾アンドロマケがいる……
To be continued...
画像は、F.レイトン「囚われのアンドロマケ」。
フレデリック・レイトン(Frederic Leighton, 1830-1896, British)
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ギリシャ神話あれこれ:末裔たち
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原作を読んでもいないのに、相棒が図書館で借りてきた映画「ノルウェイの森」なんぞを鑑賞。文学部の講義で、教授がエウリピデスの悲劇を説明する。
「愛する者に愛されないという、一方通行の愛の連鎖と、それが生み出す悲劇が、この「アンドロマケ」という物語だ」
そこに、学生活動家が乱入し、討論が優先だ、授業を切り上げろ、と要求する。すると教授、
「ギリシャ悲劇より深刻な問題があるとは思えんのだが」
古代ギリシャの愛というのは、かなり原始的で、情欲まみれで、相手を奪ってやる、奪えないなら破滅させてやる、という、私物化チックな代物。つまり、相手が望むものを相手に与えたい、ではなく、自分が望むものを相手に与えたい、という、思いやりのなさ。なので、畢竟、相互に一方通行な愛しか成り立たない。
相互通行の愛もあるにはあるが、中身は稀薄で、淡白で、存在感がなく、印象に残らない。後世、いくらでも脚色できる。良妻賢母アンドロマケの愛には、そういうところがある。
英雄アキレウスの忘れ形見ネオプトレモス(=ピュロス)は、トロイア陥落後、戦勝品として、トロイア総大将ヘクトルの妻である美しいアンドロマケと、ヘクトルの弟でカッサンドラとは双子の予言者ヘレノスを貰い受ける。
多くのギリシア勢の船団が、帰途、嵐に遭い、財宝や女奴隷もろとも海へと沈んだのに対して、ネオプトレモスは、祖母に当たる女神テティスから、海路を避けるよう忠告される。曰く、お前はトロイアの老王プリアモスを、神の祭壇で殺した。神は大いに立腹している。と。
殊勝にもテティスに従い、ネオプトレモスは陸路を取って、無事帰国。その後、エペイロスの王となる。
愛妾となったアンドロマケは、ネオプトレモスによって身籠ったモロッソスを産んでいる。
アンドロマケにとって、ネオプトレモスは、夫ヘクトルを殺した憎きアキレウスの嫡子であり、愛児アステュアナクスを殺した張本人でもある。が、アンドロマケには復讐心がない。大体、アンドロマケという女性には、あんまり積極的なエピソードがないのだ。
To be continued...
画像は、ブランシャール「アステュアナクスの死」。
エドゥアール=テオフィル・ブランシャール
(Édouard-Théophile Blanchard, 1844-1879, French)
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ギリシャ神話あれこれ:オレステスの復讐(続々々々々)
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思いがけない奇遇に、泣いて喜ぶ三人。かくなる上は、どうやってこの地を逃れようか?
そこで、イピゲネイアが一計を案じる。……罪人の手が触れたために、女神像が穢されてしまった。洗い清めたいので、海に行きたい。ついでに、生贄のみそぎもさせよう。と、タウロイのトアス王をまんまと欺き、女神像を捧げ、オレステスらを伴って、海岸へと向かう。岩陰に隠してあった舟に乗り、首尾よく脱出!
が、折からの逆風で、舟は進まない。手間取るのに不審を抱いた王が、様子をうかがわせたところ、逃亡発覚。手勢を引き連れた王が、追いかけてくる。
万事休すと思いきや、アテナ神が現われて、王を諭す。やむを得ん、王は兵を引き、三人は無事、ミュケナイへと帰還する。
別伝では、三人が首尾よく脱出の後、逃亡の帰途に立ち寄った島で、オレステスらはクリュセスと邂逅する。
クリュセスは、トロイア戦争のさなか、ギリシア軍の捕虜となった娘クリュセイスが生んだ子。クリュセイスは、アガメムノン王にあてがわれたのだが、アポロン神殿の神官だった父により、身代と引き換えに解放される。
父のもとに返されたとき、クリュセイスは、手の早いアガメムノンによってすでに身籠っていた。この生まれた子が、クリュセス。つまり、クリュセスはオレステスの異母弟というわけ。
アポロンの子として育てられたクリュセスだったが、オレステスらが逃げ延びてきたとき、母から出自を打ち明けられる。で、この異母兄弟は一致協力、追ってきたトアス王を返り討ちにし、ともにミュケナイへと帰還したという。
画像は、フォイエルバッハ「タウリスのイピゲネイア」。
アンゼルム・フォイエルバッハ(Anselm Feuerbach, 1829-1880, German)
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ギリシャ神話あれこれ:オレステスの復讐(続々々々)
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ところで、こうした決着の前、狂えるオレステスの放浪途中の挿話に、姉イピゲネイアとの邂逅がある。
オレステスがアポロン神にすがったところ、神託が下る。はるか北の黒海のほとり、蛮族タウロイ人が住まうスキュティアを訪れ、アルテミス神の社から、その本尊の女神像を持ち帰れ。さすれば狂気は癒えるだろう。と。そこでオレステスは、盟友ピュラデスとともに、スキュティアへ渡来する。
さて、タウロイ人はさすが蛮族、この地に漂着した異邦人はあまねく捕らえて、アルテミス神への生贄とする慣習があった。ので、オレステスらは、あっけなく捕らえられてしまう。社に忍び込む途中、オレステスが狂乱の発作に見舞われたからともいう。
とにかく、生贄に捧げられるべく、アルテミスの社へと引っ立てられるオレステスたち。そこで、女司祭となっていたイピゲネイアと邂逅する。
イピゲネイアは、その昔、トロイア遠征出帆の際、父王アガメムノンの愚行の尻拭いのために、アルテミス神への生贄に捧げられた、薄幸の乙女。いよいよ殺される瞬間、彼女の気高さに怒りを和らげたアルテミスによって、牝鹿とすり替えられ、遠く黒海のほとりへと運ばれる。以来、イピゲネイアは、その地のアルテミスの社に、女司祭として仕えていた。
ギリシャ人が捕らえられたと聞いて、イピゲネイアが会いに来る。故郷恋しさから、アガメムノン王家の安否を尋ね、自分の身の上を知らせる王宛ての手紙を言付かってくれるなら、ミュケナイまで返してあげよう、と持ちかける。手紙の文句を口授するうちに、オレステスらはイピゲネイアの素性を知る。
To be continued...
画像は、F.レイトン「サイモンとイピゲネイア」。
フレデリック・レイトン(Frederic Leighton, 1830-1896, British)
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