シャガールの青い世界(続々)

 
 やがてウェイトレスがニコニコしながら持ってきたのは、直径30センチくらいのパンのようなピザ。やっぱり、これでも十分にでかかった。二人して分けて食べる。

 向こうの席の老人たちが、私たちのよりもでっかいピザを、上品にナイフで切り分けながら、一口一口フォークで食べている。
 一人であんなに食べれるもんかな? と何気なく見てみると、
「……全部食べちゃったよ」
 老人たちはピザ一枚ペロリと食べて、ビールまで飲んでいる。
 隣りの席の若いカップルは、女性の方はスモールサイズ(トッピング付き)のピザとドリンクを、男性の方は私たちと同じノーマルサイズのピザに、ステーキ、そしてビールまで、それぞれ一人で食している。
 ……信じられない、ドイツ人の胃袋。

 前日は相棒の腹痛というアクシデントがあって、緊張しまくっていたので、この日は薄暗くなるまで公園でのんびりしていた。

 パターゴルフ場があって、ドイツ人の父娘がゲームをしている。お父さんの番になったところを、どういうショットをするのかな、と傍らに立って見学する東洋人二人。
 お父さん、照れ笑いながら何度もこちらをチラ見する。さて、ショットをしてみると、大いにマズかったらしい、気の毒なくらい真っ赤になって、ゲームのルールも言葉も分からない私たちに向かって、何やら早口に弁明する。
 ただ見てただけなのにね。
 
 To be continued...

 画像は、マインツ、旧市街。

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シャガールの青い世界(続)

 
 とにかく暑かったせいで、噴水広場が大賑わい。水着を着た、あるいは水着がないので下着になった子供たちが、噴水で水浴びをしている。プクプク膨れた子も、平気で脱いで水遊び。
 こんな陽気なので、心置きなくアイスクリームをねだる。木陰のベンチに座ってアイスクリームを食べながら、休憩するのにかこつけて子供たちのヌードを仔細に観察。
 ……ヌードって好きなんだよね。ヘンな意味じゃなくて。大人も一緒に脱いでくれればいいのにねえ。

 公園を出外れたところにカフェがあって、例によって地元のドイツ人たちがビールを飲んでいる。一度くらいはピザでも食べてみようか、ということになって、今さら嬉し恥ずかしの東洋人二人、店内へと入っていく。

 ドイツのカフェでは店員はすぐには注文を取りに来ない、と聞いていたけれど、ホントにいつまで経っても来ない。まあ、別に予定もないので、店内を観察しながら待っている。
 やがて若いウェイトレスがやって来て、メニューを差し出す。ドイツに来てから、メニューなるものを見るのも初めてだったので、しばし放っておいてもらって、丹念に研究する。

「お決まり?」しばらく経ってからウェイトレスがやって来る。
「ラージってサイズはどれくらいかな?」
「そうね、スモールはこれくらい、ノーマルはこれくらい、ラージは……」
 ウェイトレスが手で丸を作って、一つ一つ大きさを示してくれる。ノーマルでも結構でかいな。で、ノーマルサイズのマルガリータを注文。
「トッピングは? 要らない? ドリンクは? 何も要らないの? じゃ、水を持ってきてあげるわね」
 ウェイトレス、あんなに時間かけて選んだのがそれ? 東洋人てヘンねー、て感じで、しきりにクスクス笑いながら去っていく。……東洋人全般じゃなく、日本人でもなく、私たちがヘンなんだけどね。

 To be continued...

 画像は、マインツ、公園の噴水広場。

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シャガールの青い世界

 
 アシャッフェンブルクを発って向かったのは、マインツ(Mainz)。旅路も徐々にフランクフルトへと近づいてくる。
「マインツって何かあったっけ?」と私が尋ねると、
「シャガールでしょ、シャガール。あの有名なステンドグラスの教会!」
 私としたことが、そうでございましたっけ。

 マインツに到着すると、相棒、当然のようにユースホステルへと向かう。ユースが満席なら、また自分でホテルを探すつもりなのだろうかと心配したのだが、相棒は、「絶対に空いている!」と強く言い張る。
 で、ユースに到着してみると、幸い部屋は空いていた。

 まだ明るいので、ユースのそばの公園を散策。ど広い芝生の公園で、街路樹だかなんだか区別のつかない、ど高い樹木に覆われている。バラ園がある。明らかに日本の花々だと分かる、カトレアのようなツツジ園がある。
 ヤギ(?)やらフラミンゴやらの飼われているエリアにも出くわす。ちょっとした動物園になっているらしい。木々の生い茂る奥にはウサギやリスなんかも勝手に住んでいそうな雰囲気。

 この日は晴天の日曜日だったので、木陰にはドイツ人家族たちがパラソルを立てたりチェアを出したりして、バーベキューをしている。わざわざ日向にシートを敷いている人たちは、脱いで寝そべって日光浴。
 一面の芝生を横切って、おもちゃのように小さい、カラフルな観光トレインが、子供たちをいっぱいに乗せて走っている。手を振ってあげると、喜んで手を振り返してくる。こういうのって万国共通だな。

 To be continued...

 画像は、マインツ、ユースホステル近くの公園。

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マイン川畔の古城にて(続々々々々)

 
 相棒、神経を研ぎ澄ましてオーケストラの音を聞き取る。こうなったら、足に根を生やしたように動こうとはすまい。
 なので私も石畳の上にデンと座って、壁にもたれてヨハニスブルク城をスケッチをする。

 自然界に存在するハーモニクスに素直に従順に規則を作った西洋音楽は、万人の耳に心地よい。そしてそうした音をよく聞いていると、私でも様々な音を聞き分けられるようになってくる。
 と同時に、普段はさほど気にならない、種々雑多な音も耳に入ってくる。部屋のなかでの話し声。レストランでの皿やカトラリーの音。石畳を歩く靴音。広場の外にある噴水の水音。……これらがいちいち耳につくのは、自然のハーモニクスから外れて、不規則に変動するからなのだ。

 神経質に眉をしかめ、眼を固く閉じて、オーケストラの音色を不屈に追う相棒。けれどもとうとう、教会からかすかに洩れ出るミサ音楽が邪魔をする。相棒、「チッ!」と舌を打つ。
「教会音楽って本当に、四分音符を連ねるだけの幼稚な曲だな!」
「いつも聴いてたくせに」
「それしかないときにはね、仕方ないからそれを聴いたけれどもね」

 さらに、城の時計塔の鐘が、リンゴーン、リンゴーンと連弾する。カラスがカアー、カアーと鳴く。小さな女の子がおもちゃのベビーカーをガラガラと押して広場を横切る。
「うるさいガキだな!」
「イッツ・ナチュラル!」私は女の子の味方をして、ミッテンヴァルトでの相棒自身の言葉でたしなめる。
 そのうちにミサが終わったのか、信徒たちがゾロゾロと広場に出てくる。
「ああもう! 中身のない奴ほど騒ぎたがる。だから集団は常に騒ぐんだよ!」

 相棒、何度も諦めて、曲が終わるたびに立ち去ろうとするのだが、再び調弦の音が聞こえてくると、「むッ!」と立ち止まり、次の曲を待つ。
 そのうちに午後になって、城にはほとんど誰もいなくなったのか、物音が消え、広場は相棒の独壇場となった。

「とうとう、オーケストラを聴けたねえ!」と上機嫌の相棒。
 その上機嫌に乗じて、駅にてど甘いココナッツのクーヘンをねだり、おあずけだった昼食にして、アシャッフェンブルクを去った。

 To be continued...

 画像は、アシャッフェンブルク、旧市街。

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マイン川畔の古城にて(続々々々)

 
 旧市街は大抵、前日に歩き尽くしてしまったので、ミサが終わってから、再びヨハニスブルク城まで散歩した。

 ところで。相棒はヨーロッパ文化に、絵よりも音楽を求めてやって来た。これまでも教会のコンサートで音楽を聴いてきたのだが、やはり管弦楽を聴きたがっていた。
 この日の夕方、ヨハニスブルク城ではオーケストラのコンサートが開催される予定だった。前日これを知った相棒、チケットを入手しようと努力したのだが、その日は生憎の土曜日。どう頑張ってもチケットが取れずにいた。で、オーケストラを諦め、ゴスペル・ソングで妥協していたのだが……
 ヨハニスブルク城までやって来て、はたと立ち止まる。どこからともなく聞こえてくる、バイオリンの調べ。

 相棒、眼をピカッ! と光らせて、音の源を探してすたこらと歩き回る。どこ? どこどこ? 
 そして城内の広場までやって来ると、城を見上げ、歓喜して叫んだ。
「ハイドンだ!」

 どうやらヨハニスブルク城の二階で、今夜のコンサートのためのリハーサルが始まったらしい。
 相棒、俄然、そのまま城の広場に居座ってリハーサル鑑賞。窓の下、城の広場を我が物顔にすっくと立ち、全身をこれ指揮者のように流れる音色に漂わせながら、熱心に耳を澄ます。
 こんな練習を聴くのでもいいの? と尋ねると、
「演奏の出来が最高なのがゲネプロ(=本番前の最後の全体リハーサル)だってのは、演奏家の常識だよ。通は本番よりもゲネプロを聴くんだよ!」

 To be continued...
 
 画像は、アシャッフェンブルク、城内の広場。

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