ギリシャ神話あれこれ:パトロクロスの死(続々々々々)

 
 アキレウスに使者を出してしまうと、ギリシア勢が一散に逃走するなか、メネラオスらがパトロクロスの亡骸を担ぎ、両アイアスがしんがりを務めて、船陣めざしてじりじりと退く。その後ろを、ヘクトルとアイネイアスがあくまで追い続ける。
 その様子を船陣から見ていたアキレウスが、いらいらと呟く。なんだ、またギリシア軍が逃げてくるじゃないか。パトロクロスめ、あれほどヘクトルを深追いするなと言いつけておいたのに……

 そこへアンティロコスが到着し、泣きながらアキレウスに告げるのだった。君の親友は討死した。武具はすでに奪われ、今は亡骸をめぐって戦っている。と。
 それを聞いたアキレウスは、黒灰を引っつかむと頭にぶっかけ、土の上にガバと身を投げ出して、ざんざんばららに髪を掻き毟りながらおいおいと慟哭する(……お前のせいだろうがッ)。
 戦利として贈られたアキレウスの愛妾たちも、震えながらアキレウスの周りに寄り集まり、一緒になっておいおいと悲嘆する。アンティロコスは、アキレウスのあまりの嘆きぶりを見て、自ら喉を切り裂きはしないか、とおろおろしながら涙を流す。

 アキレウスの痛嘆は海底まで届き、母テティスは己が悲しみを姉妹たち(ネレウスの娘たち)に訴える。ああ、立派な子を産んだのに、却って不幸になるなんて!
 テティスはトロイアの海辺へと駆けつけ、息子の頭を掻き抱く。我が子よ、お前自身が以前願ったことを、ゼウス神が果たしてくれたんじゃないの?
 ……そりゃそうだ。お膳立てしろって言ったのは自分なくせに。

 To be continued...

 画像は、ゲー「パトロクロスの死を嘆くアキレウス」。
  ニコライ・ゲー(Nikolai Ge,1831-1894, Russian)

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ギリシャ神話あれこれ:パトロクロスの死(続々々々)

  
 メネラオスが天を裂く大声で援勢を呼ぶと、それを聞きつけた小アイアスやイドメネウスらが次々と駆けつけ、ヘクトルを先頭に一団となって突進してくるトロイア勢に対して、楯をめぐらしてパトロクロスを囲んだ。
 こうしてパトロクロスの亡骸をめぐって、両勢の新たな屍の山を周囲に築きながら、押しつ押されつ、討ちつ討たれつの拮抗した戦いが続く。

 さて、アウトメドンを乗せて走り去ったアキレウスの神馬たちは、パトロクロスの死を知ってからというもの、頭を垂れて身じろぎもせずに立ち尽くし、さめざめと泣き続けていた。
 憐れんだゼウス神が語りかける。不老不死の神馬たち、我々はなぜお前たちを人間に与えなどしたのだろう。生きとし生けるもので人間ほど惨めなものはない。だが、ヘクトルがお前たちの牽く戦車に乗ることは決してないだろう。だから、さあ、走るのだ。

 戦場に駆け戻ったアキレウスの神馬たちを目敏く見つけたヘクトルが、奪取を目論んで踊りかかってきた。が、大アイアスらが駆けつけたのを見て引き下がる。
 で、パトロクロスの亡骸をめぐる攻防が再開される。アテナ神がギリシア勢を戦意を煽る一方、アポロン神はトロイア勢を励ます。
 ゼウス神は稲妻を放ち、雷鳴を轟かしてトロイア勝利を告げ知らせ、恐怖したギリシア軍は敗走を始める。

 進退窮まった大アイアスらは、老ネストルの子アンティロコスを、パトロクロス討死の凶報を告げる伝令として、アキレウスのもとへと走らせることに。

 To be continued...

 画像は、ロマーノ「パトロクロスの亡骸を守る大アイアス」。
  ジュリオ・ロマーノ(Giulio Romano, ca.1499-1546, Italian)

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ギリシャ神話あれこれ:パトロクロスの死(続々々)

 
 パトロクロスを倒したヘクトルは、アウトメドンを戦車に乗せたまま走り去ってしまったアキレウスの神馬を追う。が、アポロン神にたしなめられると、踵を返し、メネラオスめがけて猛然と襲いかかってきた。
 メネラオスはぎくりとする。彼だって実力の差はわきまえている。やむなく退いた隙に、ヘクトルは神が鍛えたアキレウスの武具を剥ぎ取りにかかる。

 メネラオスは入り乱れた戦場のなか、大アイアスを探し出して、訴える。討たれたパトロクロスのために、どうか来てくれ。武具は剥がれたが、せめてパトロクロスの亡骸だけは、アキレウスのもとへと返してやりたい。と。
 パトロクロスの武具を剥いだヘクトルは、さらにその屍を自陣に引きずっていこうとしていたのだが、そこへ大アイアスが憤然と迫り来る。大アイアスの姿を見止めて、ヘクトルは屍を諦めた。

 パトロクロスの屍を大楯でかばって身構える大アイアス。その隣りに立って身構えるメネラオス。

 が、ヘクトルのほうも、奪い取ったアキレウスの甲冑を身に纏うと、輝くばかりの姿となって、トロイア勢に向かって気負い立って叫ぶ。さあ、パトロクロスの屍を奪い取れ! 首を切り落とし、杭に刺してさらしてやるのだ!
 ゼウス神は、神授の武具を怖れ気もなく剥いで纏ったヘクトルの、身の程知らずのわきまえのなさを嘆いた。が、憐れなヘクトルが戦場から無事戻ることができず、アンドロマケが夫の手からその神授の武具を受け取ることのできない代価として、ヘクトルに加護を与えることにする。

 トロイア勢が一斉にパトロクロスの上に立つ大アイアスに突進し、かくして屍をめぐる激しい攻防戦となる。

 To be continued...

 画像は、作者不詳(ヴァン・ダイクの様式による)「アキレウスの馬たち」。
  アンソニー・ヴァン・ダイク(Anthony van Dyck, 1599-1641, Flemish)

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ギリシャ神話あれこれ:パトロクロスの死(続々)

 
 勢いに乗ったパトロクロスはトロイア勢を猛追、なおも敵将たちを討ち取りながら、アキレウスの忠告を忘れてイリオス城壁まで攻め込んでいく。
 ここでヘクトルがアポロン神に励まされて踏みとどまり、戦場へと取って返してパトロクロスを迎え撃つ。両雄激突。

 パトロクロスはトロイア陣内に3度攻め入った。けれども4度目に、トロイアに味方するアポロンが干渉してくる。
 アポロンはパトロクロスの背後からそっと近づき、その背を平手で打った。パトロクロスの眼がくらむ。
 するとアポロンはパトロクロスの兜を叩き落し、槍と楯を砕き、さらに鎧を解き始める。パトロクロスは混濁して立ちすくむ。

 このとき、神に力を奪われたパトロクロスの背に、槍が飛んでくる。 
 深手を負ったパトロクロスは、トロイア陣中から退こうとする。が。逃すものか! ヘクトルが陣を分けて突進し、パトロクロスの下腹をぶすりと刺し貫いてとどめを刺す。
 パトロクロスはどっと倒れ伏した。南無。

 自らの血に染まった砂塵を掴みながら、パトロクロスが、消え入るような声でヘクトルに宣告する。私を倒したのは神々であって、お前ではない。お前は三番目に出てきたにすぎない。覚悟しておけ。お前の命運もすでに定まっている。すぐにアキレウスがお前を倒すだろう。と。
 言い終えて事切れたパトロクロスに、ヘクトルは、私かアキレウスか、どちらが倒れるか誰に分かる? と答えながら、パトロクロスの屍に足をかけて槍を抜き去った。

 すぐさまメネラオスが駆けつけ、パトロクロスの屍を死守すべくその上を跨いで立って身構える。そこへ、屍が纏ったアキレウスの甲冑を剥ごうと、トロイア勢がワッと襲いかかる。

 To be continued...

 画像は、ダヴィッド「パトロクロス」。
  ジャック=ルイ・ダヴィッド(Jacques-Louis David, 1748-1825, French)

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ギリシャ神話あれこれ:パトロクロスの死(続)

 
 パトロクロスはアウトメドンを連れて戦車を駆り、ミュルミドンの軍団を率いてトロイア勢を攻撃する。アキレウスの武具を纏ったパトロクロスの姿を見て、トロイア勢は、ギリシア一の勇将アキレウスがとうとう戻ってきた、と動揺。その恐怖から混乱し、一転、逃げ腰となる。
 こうしてパトロクロスたちは、あっという間にトロイア軍をギリシア船陣から追い払う。燃える火を消し、バラバラになっててんでにあたふたとイリオス都城目指して逃走するトロイア勢を追撃。総大将ヘクトルめがけて突き進み、敵将たちを次々と討ち取っていく。

 このとき、トロイアの友軍リュキアの大将サルペドンが、リュキアの兵士たちよ、恥を知れ! と、リュキア勢を踏みとどまらせ、自身、戦車から降り立ってパトロクロスを迎え撃つ。パトロクロスも神馬たちの戦車から飛び降りた。

 この様子を見ていたゼウス神が嘆く。ああ、我が子サルペドン、いっそ今、生きているまま、故郷リュキアに運んでしまおうか……
 サルペドンはゼウスがエウロペに産ませた子(ミノス、ラダマンテュスの弟)で、人間3世代分の長命を父神から授かっていた。が、彼はパトロクロスに討たれる運命にあり、ゼウスはそれを知っていたのだった。
 ゼウスはこのとき、死を決定された我が子サルペドンのために、血の雨を降らせたという。

 一騎打ちの末に、とうとうパトロクロスの槍がサルペドンを倒す。南無。
 ヘクトルはトロイア勢を撤退させ、王を失ったリュキアの援勢も退却する。サルペドンの亡骸から武具を剥ぎにかかったギリシア勢を見て、ゼウスがアポロン神に命ずる。さあ、サルペドンをタナトス(=死)とヒュプノス(=眠り)に預け、故郷リュキアまで送ってやってくれ、と。

 To be continued...

 画像は、フュースリ「サルペドンをリュキアへと運び去る死と眠り」。
  ヨハン・ハインリヒ・フュースリ(John Henry Fuseli, 1741-1825, Swiss)

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