ギリシャ神話あれこれ:オデュッセウス帰還-ニンフ・カリュプソ(続)

 
 ああ、神々はなんて嫉妬深い! ニンフが人間と愛し合うのが気に入らないのだ! 
 カリュプソはこう唸ると、諦めて浜辺へと降りていく。そして、悄然と海を見つめるオデュッセウスの背に声をかける。
 憐れなオデュッセウス、もう悲しむことはない。あなたを故郷に帰してあげよう。さあ、木を切り出して筏を作りなさい。

 抜け目のないオデュッセウスは、カリュプソの言葉を迂闊に信じて嬉しがらないよう用心したが、カリュプソは嘘偽りはないと誓約する。

 お別れを言ってあげよう。でも、お前が国に帰り着くまでに、どれほどの苦難に遭うか、その運命を知っていたら、きっとこの島に残って、私と共に不死の身になっていたろうに。私の美しさが、お前の妻に劣るとも思えないのだから。云々。と未練がましいカリュプソ。
 が、オデュッセウスは答える。それでも自分は帰郷したい、そのためにはどんな艱難にも耐え抜くつもりだ、と。
 ……7年でも耐えられないのに、不死だなんてとんでもない。こういう視野が、神さまたちには足りないんだ。

 翌朝、オデュッセウスは手斧で巨木を切り出して、てきぱきと製材し、筏へと組んでいく。帆柱にはカリュプソが織った帆布を張り、いよいよ5日目、カリュプソは湯浴みさせ、芳香漂う衣服を纏わせて、オデュッセウスを送り出す。
 カリュプソが送る順風を帆に受け、オデュッセウスは教わった方角に向けて巧みに舵を取る。そして18日目、遥か彼方にパイアケス人の島が見えてくる頃……

 To be continued...

 画像は、ライレッセ「オデュッセウスを解放するよう命じるヘルメス」。
  ヘラルド・デ・ライレッセ(Gerard de Lairesse, 1640-1711, Dutch)

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ギリシャ神話あれこれ:オデュッセウス帰還-ニンフ・カリュプソ

 
 カリュプソは、天を支える巨人アトラスの娘で、美しいニンフ。なぜだか一人でひっそり気ままに、オギュギエ島で暮らしていたのだが、浜辺に打ち上げられたオデュッセウスを見初めてしまう。
 で、カリュプソはオデュッセウスを自分の洞窟に連れ帰り、丁重に持てなす。

 こうしてカリュプソと一緒に暮らすようになったオデュッセウス。もちろん、魔女キルケのときと同じように、相手に求められ、愛人として生活する。
 このときも最初の1年くらいは、つらい長旅の疲れを癒すつもりだったのが、居心地の好さからつい居着いてしまって、のんびりと暮らしたかも知れない。が、今度はそれが7年間続く。7年間も!

 オデュッセウスは、夜はカリュプソにせがまれて、望まないながらやむなく添寝するが、昼には決まって海辺に座り、叶わぬ帰郷に哀泣し、呻吟し、嘆息し、懊悩しては、自分を苛み、蝕みながら、ひたすらに海を眺めて暮らしていた。

 海神ポセイドンを除く神々は、さすがにカリュプソの島に囚われているオデュッセウスを憐れんで、ポセイドンがエチオピアに出向いている隙に、オデュッセウスが帰郷できるよう計らうことにする。

 こうして、伝令神ヘルメスがオギュギエ島にやって来る。カリュプソの洞窟を訪ね、優しく告げる。
 ゼウス神の命令を伝えに来た。これ以上、オデュッセウスをこの島に引き止めてはならない。神々は彼を故郷イタケへと帰してやろうと望んでいる。と。

 To be continued...

 画像は、ベックリン「オデュッセウスとカリュプソ」。
  アルノルト・ベックリン(Arnold Böcklin, 1827-1901, Swiss)

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ギリシャ神話あれこれ:オデュッセウス帰還-トリナキエ島(続々)

 
 トリナキエ島を離れ、見渡す限り一面の海となったとき、俄かに暗雲が空一面を覆うかと思うと、大嵐が船を襲う。もちろんこれはゼウス神が起こしたもの。
 見る間に帆綱が裂け、帆柱が倒れる。何とか波にさらわれまいと必死に船にしがみつく人間どもを皆殺しにすべく、ゼウスが船めがけて雷を撃つと、船は木っ端微塵に砕け散る。一同は海へと投げ出され、一人また一人と波に飲まれていった。

 こうしてイタケ勢は全滅する。ただ一人、オデュッセウスを除いて……

 オデュッセウスはと言えば、帆柱と竜骨を帆綱で結わえてそれに乗り、波間を漂っていた。が、流されていった先は、あの大渦を巻き起こすカリュブディスの岩礁。カリュブディスが海水を飲み込もうとしたとき……
 オデュッセウスは頭上に根を差し伸べていた、岩礁のてっぺんのイチジクの巨木の根に取りすがる。見る間に海面が渦を巻いて下がり、海底の岩礁が顔を出す。その光景を足許の遥か下に覗きながら、オデュッセウスは不屈にぶら下がる。やがてカリュブディスが再び海水を吐き出し、海面がゴオーッと盛り上がってくる。帆柱と竜骨が吐き出されるのを待って、またもやぴょんと飛び乗ると、両手を櫂に遮二無二、海水を掻く、掻く、ひたすら掻く。

 こうして九死に一生を得たオデュッセウスは、その後9日間海を漂い、ニンフ、カリュプソの住まうオギュギエ島に流れ着く。

 To be continued...

 画像は、ベックマン「オデュッセウスとカリュプソ」。
  マックス・ベックマン(Max Beckmann, 1884-1950, German)

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ギリシャ神話あれこれ:オデュッセウス帰還-トリナキエ島(続)

 
 ところが嵐は一向に静まる気配を見せない。結局一行は一ヶ月ものあいだ、島に足止めされることになった。食料は底を突き始め、一行は魚や鳥を獲って飢えをしのいでいたが、とうとう、起こるべくして事は起こる。

 あるときオデュッセウスは、帰国を祈願すべく島の奥へと入り、そのままうとうとと寝入ってしまう。で、彼が船を留守にしている隙に、またしてもエウリュロコスが一同をそそのかす。
 なあ、みんな、死んでしまえば帰国も何もあるもんか。このまま惨めに飢え死にするよりも、最後に腹いっぱい食って、万が一の将来、神罰が当たって一思いに溺れ死ぬほうが、いくらかましというもんじゃないか?

 さて、眼を醒ましたオデュッセウスが船へと戻ってみると、一同はヘリオス神の牛を殺して肉を焼き、むしゃむしゃと食っている最中だった。
 家畜を世話しているヘリオスの娘たち、ランペティエとパエトゥーサは、この所業をすぐに父神に知らせる。で、ヘリオスは怒り心頭、すぐさまゼウスに訴える。

 一度悪行に手を出せば、後は平気で何度も繰り返す。その後6日間、一同はみだりにヘリオスの牛を殺して食い続けた。ヘリオスの家畜は仔を産まない代わりに死ぬこともない。剥いだ皮も、串に刺して炙った肉も、生きていた頃と同じように動いたり鳴いたりする。
 7日目にようやく嵐が治まって、一行は出帆する。が……

 To be continued...

 画像は、ドレイパー「カリュプソの島」。
  ハーバート・ドレイパー(Herbert Draper, 1863-1920, British)

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ギリシャ神話あれこれ:オデュッセウス帰還-トリナキエ島

 
 生き残った一行はやがて、太陽神ヘリオスの家畜が放たれているトリナキエ島にたどり着く。

 久しぶりの島影に、歓喜する一同。が、予言者テイレシアスの霊や魔女キルケに、くれぐれもこの島を避けるよう揃って警告されていたオデュッセウスは、上陸しない旨を部下たちに告げる。
 途端にがっくりとなる一同。代表格のエウリュロコスが憎々しげに口答えする。我々はみんな疲れ切ってるんだ。あんたのように不死身の肉体も不屈の精神も持っちゃいない。せめて一晩、動かぬ大地の上で、美味い食事と安眠を与えてくれる気にはならないのか?

 エウリュロコスに賛成する一同を前に、オデュッセウスも諦める。やむをえん、ただし、この島の牛や羊は皆ヘリオス神のものだから、絶対に手を出すな、と固く誓わせる。
 こうして一行は上陸し、温かい食事を取って、静かな大地の上で眠りに就く。が……
 
 夜更けには嵐となり、朝になっても治まらない。やむなくオデュッセウスは、船を近くの洞窟に引き入れさせ、凪を待つことにして、再度部下たちに念を押す。幸い、食料はまだたっぷり残っているので、絶対に神の家畜には手を出すな、と。

 To be continued...

 画像は、フュースリ「スキュラとカリュブディスの前に立つオデュッセウス」。
  ヨハン・ハインリヒ・フュースリ(John Henry Fuseli, 1741-1825, Swiss)

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