世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
シロクマの運命
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つい最近、TVでレスター・ブラウンのインタビューを聞いた。問題の捉え方や解決の方向など、概ね正しいことを言っていた。が、その内容は10年ほど前、私が大学で環境問題を学んだ頃と、ほとんど同じものだった。新しい内容と言えば、代替エネルギーがバイオエネルギーでは、問題は悪化する、という点くらい。
ということは、人類はすでに10年前に提示された解決策に対して、二の足を踏んだまま、その間を不毛に過ごしてきた、ということになる。反対に、中国などの経済発展が従来型と変わらないスタイルであることが確定的となり、地球環境の未来はほぼ絶望的となった。
10年前、私はまだ学生で、中国という国家・社会がどうしても信じられず、中国に経済発展の火がついたら、地球環境はあっという間に破滅じゃないか、と相棒に尋ねた。相棒は、
「でも、資本というのは柔軟だからね。古い資本主義が大いに模索して、環境と両立する“持続可能な経済システム”を作り上げるにしても、新しい資本主義のほうは結局、少ない努力でより早くそれに対応するはずだよ。環境技術にしても、リサイクルにしても、消費スタイルにしてもね」と答えた。
相棒の持論では、資本は柔軟で、粗野な社会には粗野な資本主義が、洗練された社会には洗練された資本主義が発展する。日本資本主義がああ(特徴省略)なのは、資本のせいではなく、日本社会のせいなのだ。
To be continued...
画像は、キッテルセン「白熊王ヴァーレモン」。
テオドール・キッテルセン(Theodor Kittelsen, 1857-1914, Norwegian)
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ギリシャ神話あれこれ:プリアポス
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「退廃美」というタームがある。私はこれがよく分からない。
19世紀末芸術の一傾向で、一般的な特徴としては、病的な、つまり虚無的で悪魔的な、耽美主義を指す。が、これが不道徳、不健全な精神の生み出した芸術なのかと言えば、私にはそうは思えない。
物質文明の発展による精神の荒廃という社会背景は実際にあっただろうし、「退廃」というものを表象した、芸術の描き手によるフリ、受け手によるレッテル貼りなどもあっただろう。が、結局は、美の追求が、性や暴力など既存のタブーと衝突したときに、そのタブーに敢えて挑戦、嘲笑した一つの流れだったように思える。そんなに不道徳だろうか。不健全だろうか。ま、確かにちょっと気色悪くはあるけど。
で、「退廃美」に、私は退廃を感じない。
プリアポスは豊饒と多産の神で、農園の守護神。生殖の神でもあり、特に男性の生殖力を司る。こじつけっぽいが、アフロディテとヘルメスの子、という申し分のない血筋。
その容姿は醜くグロテスクで、子供並みの、だが瘤だらけの小さな体に、巨大な、常に勃起した男根を持つ。
ポンペイには、自分のどでかいペニスと金貨の袋とを天秤に乗せて計り比べている、プリアポス神の壁画があるのだとか。
プリアポスは生贄に好んでロバを所望した。理由は諸伝あり、自分の男根の大きさをロバのそれと競い、負けてしまったからとも(プリアポスは悔しさのあまりに、硬さでは劣らぬ男根でロバを殴り殺した)、あるいは、永遠の処女神ヘスティアに、眠っているところをよからぬ思惑から近づいたところ、ロバに派手にいななかれ、邪魔されたからだともいう。
美しいニンフ、ロティスもまた、プリアポスに追いかけまわされ、ついに彼から逃れるために真紅のロートス(レンゲソウ)に姿を変えた。
(ちなみにその後。ドリュオペとイオレという美しい姉妹が花摘みに来た際、ドリュオペのほうがロートスを摘んだところ、花から血がポタポタと落ちた。二人は逃げようとするが、ドリュオペの足には既に根が生え、摘んでしまった花に代わって自分がロートスと化したという。)
好色な神ではあるが、古代にはプリアポスは農牧の守護神として崇拝され、イチジクの木で作られ男根を赤く塗った(そして男根に花輪を飾った)その像が農園に立てられていたとか。これが案山子の由来。
ところで、対象に対してただそれを見るだけで災いを及ぼす力を持つ眼、いわゆる“邪眼(evil eye)”による視線は、呪詛の一種とも言われるが、この邪眼除けのお護り(有名なものは鏡)にも、男根の象徴が用いられる。“角”や“イチジクの手の印(日本では「女握り」と言われ、セックスを示唆する、親指を人差指と中指とのあいだに挿した拳の握り方)”などがそれ。
邪眼を退ける魔除けとしての男根の起源は、やはりプリアポスにまで遡るという。
あと、性的興奮もないのにペニスが勃起し続けるという症状、プリアピズム(持続隆起症)の語源も、この異形の神だとか。……こんな病状があるなんて知らなかったけど、物凄く大変そう。
とにかく、結構重要な神さまみたい。
画像は、ビアズリー「プリアピア」。
オーブリー・ビアズリー(Aubrey Beardsley, 1872-1898, British)
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ギリシャ神話あれこれ:ケファロスとプロクリス(続)
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プロクリスはクレタ島に渡り、そこでミノス王の眼にとまった。が、王妃パシパエは、王が不貞を働くと、王の身体から毒蛇や蠍が出て相手の女を殺すよう、魔法をかけていた(彼女は魔術に長けていたわけ)。
が、が。ミノス王のほうも、魔法を消し去る薬草を魔女キルケから手に入れていた。どっちもどっち、ノー・プロブレム。
で、ミノス王はプロクリスを口説き、追いかける獲物を必ず捕らえる猟犬ライラプスと、必ず的中する投槍とを贈って、とうとうプロクリスを口説き落とした(別伝では、失踪後彼女は、狩猟の女神アルテミスの従者になり、これらアイテムを贈られたという)。
……どうもプロクリス、贈り物に弱い女性らしい。
その後、ケファロスが捜しに来たのか、プロクリスが帰ったのか、とにかく二人は仲直りする。
が、あるとき、ケファロスが森に狩猟に出かけたときのこと。
以前から彼は、猟に出て駆けまわっては、疲れて身を横たえて、ああ、アウラ(=そよ風)、私の熱い胸を静めてくれ、なーんて言っていた。これを聞きつけた召使か誰かが、プロクリスに告げ口したわけ。
今度はプロクリスのほうが疑念を抱き、夫がアウラという女と不貞を働いているに違いない、と勘違いして、夫を尾行した。で、木陰に隠れて様子を窺っていたところ、カサッ、という葉音に、獲物だと思ったケファロスが、あの百発百中の魔法の槍を投げたものだから……
妻の悲鳴に飛んで来たケファロスの腕に抱かれながら、胸を刺し貫かれたプロクリスは死んでゆく。
なんか、馬鹿みたいな星の下の夫婦。
画像は、アリエ「ケファロスとプロクリス」。
フルシュラン=ジャン・アリエ(Fulchran-Jean Harriet, 1778-1805, French)
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ギリシャ神話あれこれ:ケファロスとプロクリス
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パートナーの愛を疑ったり、試したり、云々という行為をよく聞く。例えば、妻の権限で夫の携帯電話を盗み見て、女性からの愛のメールを発見し、ちょっと! どういうこと! ……以下、修羅場にて省略。
素朴な疑問なのだが、そういう行為をする自分にも、愛想尽かされる原因があるとは、これっぽっちも考えないんだろうか??
ポキスの王子ケファロスとアッティカの王女プロクリスは、美男美女の新婚夫婦。が、結婚後まもなく、美しいケファロスに横恋慕した曙の女神エオスが、無理やり彼を東の国へと連れ去ってしまう。
が、ケファロスは妻を愛していたので、エオスの誘惑をすげなくあしらう。面目丸潰れのエオス、腹癒せにこう吹き込む。
あなたの美しい新妻も、あなたの留守をいいことに、どうせ浮気でもしているに違いない、なんなら試してみるがよい、と。
こうしてエオスはケファロスの姿を、全然別の男に変えて、妻を誘惑させる。
猜疑心を煽り立てられたケファロスは、別人の姿で妻プロクリスを訪問。あの手この手で屋敷に上がり、言葉を尽くしてプロクリスを誘惑する。
そしてとうとう、莫大な金銀宝石の贈り物が決め手となって、プロクリスと一夜を共寝する。
こうして別の男の姿で誘惑しておいてから、ケファロスは激怒して(……どっちもどっちだと思うんだけど)、本来の姿に戻り、妻の不貞を責めまくる(別伝では、黄金の冠をちらつかせた男に、すでに寵絡されていたともいう)。
彼女は恥ずかしいやら悔しいやらで、屋敷を走り出て、そのまま失踪してしまう。
To be continued...
画像は、ゲラン「アウロラとケファロス」。
ピエール=ナルシス・ゲラン(Pierre-Narcisse Guerin, 1774-1833, French)
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ブラッド・ダイヤモンド
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連休前、フォスター・プラン推薦の映画ということで、「ブラッド・ダイヤモンド(Blood Diamond)」を観に行った(監督:エドワード・ズウィック、出演:レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・コネリー、ジャイモン・フンスー、他)。
つい10年ほど前の、内戦最中の西アフリカ、シエラレオネが舞台。
ある日突然来襲した反政府軍RUFによって家族と引き裂かれ、ダイヤモンド採掘労働へと借り出される、村の漁師ソロモン。そこで彼は、どでかいピンク・ダイヤモンドを見つけて隠すのだが、それを元傭兵のダイヤ密売人ダニーが嗅ぎつける。ダニーはソロモンに、家族を捜し出してやる代わりにダイヤの隠し場所を教えるよう迫る。
一方で、ダニーはダイヤ密輸の実態を追う女性ジャーナリスト、マディーにも、密輸の情報と引き換えに自分たちへの協力を取りつける。
彼らは、それぞれの思惑によって一致した利害、ピンク・ダイヤモンドへの道を共に行く。……という話。
筋から言えば娯楽映画なのだろうが、シエラレオネの武力紛争やダイヤの不法取引など、社会背景をしっかり描いたストーリーなので、重いのなんの。
人民解放を謳う反政府組織が、人民を虐殺したり、手足を切り落とすなどの残虐行為に及んだり、人民を拉致して強制労働させたり、麻薬や洗脳によって少年兵に仕立て上げたりしていた、という事実。その反政府組織が、高値に維持されたダイヤモンドを資金源として、その密売によって武器を購入してきた、という事実。ちょっと考えれば見当のつく内容なのだが、映像つきの具体的なストーリーで提示されると、やっぱりショッキング。つらすぎる。
アフリカにはまだ20万人の少年兵がいるという。何とかしなくちゃならない。
この映画では取り上げられなかったが、ダイヤモンド需要国が武器供給国である場合も多いことを、忘れてはならないと思う。
あと、人を殺すのにも逡巡しない非情な男ダニーの心の動き。
もともと実力派だったのに、「タイタニック」で一躍ミーハー俳優とされてしまったディカプリオが、本領を発揮して、百戦錬磨のワイルドな悪人を、だが、「悪人にも善い心が残っている」という思想のとおり、アフリカへの愛着、親を奪われた孤独などを垣間見せる、悪人になり切れない悪人を、演じ切っている。
“TIA(This is Africa)”という現実。単なるレオさま目当てでも、観ておいたほうがいい。
私は金・銀・宝石に興味がなくてよかった。相棒も「買ってあげないでいてよかった」って言ってた。もともと買う気なかったくせに。
画像は、エイキンズ「踊る黒人少年」。
トマス・エイキンズ(Thomas Eakins, 1844-1916, American)
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