ギリシャ神話あれこれ:葦になったニンフ

 
 更新、サボっててごめんなさい。元気でやってます。
 では、有名なメタモルフォーゼな物語をば、一つ……

 好色で淫蕩な牧神パンは、いつでもニンフやらマイナス(=ディオニュソス信女)やらを追いかけてばかり。酒神ディオニュソスを信仰するマイナスたちとは、概ねねんごろな仲で、酔っ払って乱痴気騒ぎをするうちに、なし崩し的にまんまとコトに及んでしまう。
 が、ニンフたちには拒絶されることもままあった。パンを拒んだニンフの一人が、シュリンクス。

 シュリンクスは樹木のニンフので、美しく、内気だった。森に棲まう男神やサテュロスから言い寄られることもたびたびだったが、浮ついた遊びを嫌い、処女神アルテミスに随身して、狩猟の日々を送っていた。
 あるときシュリンクスは、狩猟を終えた帰途、森のなかで、パンにばったりと出くわす。パンはいつもこんなふうに、前触れなくひょっこりと姿を現わすのだ。
 陽気で剽軽なパンは、とげとげした松の葉で作った冠をかぶっている。これは、以前にパンをこっぴどく拒んだ、ピテュスというニンフの形見なのだった。

 パンは山羊の脚でピョコピョコと跳びはねながら、君、可愛いね、とかなんとか嬉しがらせを言って、シュリンクスにまとわりつく。シュリンクスは逃げるのだが、パンは軽快にシュリンクスを追いまわす。
 シュリンクスは逃げる、逃げる。川岸まで逃げたところで、流れに行く手を遮られた。

 すぐにパンが追いついて、シュリンクスを抱きすくめようと両手を伸ばす。シュリンクスは川に飛び込み、倒れながら、川のニンフたちに祈る。お願い、助けて!
 その瞬間、シュリンクスの姿は葦に姿を変える。さあ、つかまえた! と、歓喜したパンが掻き抱いたのは、一叢の葦だった。

 葦の茂みのなかで、がっかりとして佇むパン。そこへ風が吹き通り、悲しげな音色を奏でる。
 うん、これはいいぞ。パンはすぐさま元気を取り戻し、葦を切り取って長短に断ち、並べたものを蝋で固めて笙笛を作る。以来、パンはシュリンクスの形見として葦の笙笛を吹き奏で、彼女を悼むのだという。
 
 画像は、ハッカー「シュリンクス」。
  アーサー・ハッカー(Arthur Hacker, 1858-1919, British)

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