バイエルンの都(続々々々々)

 
 欧米の美術館は大抵そうらしいが、ノイエ・ピナコテークでも、ノーフラッシュなら写真撮影OK。なので子供たちの多くはデジカメを持ってきていて、気に入った絵をパチパチと撮っている。なんという羨ましい環境。
 私はと言えば、どうせ素人(特に私のようなヘタッピ)がデジカメで撮ったところで、タカの知れた写真しか撮れないのが分かっているので、ほとんど撮らない。
 
 日本の美術館というのは、そもそも企画展でなければなかなか絵が揃わないのだが、常設展ですら、撮影ダメ、模写もダメ、というところがほとんど。絵は美術館の私物で、気軽には接しがたいもので、美術館はそれらをコレクションしてステイタスを示し、大事に保存し陳列している、という感じ。
 一方、ヨーロッパの美術館は、絵は社会のものであって、そこへ行けば人々はいつでも絵を観、絵に接することのできる公の場、という感じ。照明も明るいし、絵がガラスに覆われてもいない。

 美術史上の画家の歴々を見て思うことなのだが、音楽や文学など、他の芸術・文化に携わる人に比べると、絵に携わる人は、視野や思慮が働かないという意味で賢くない人が目立つ。けれども彼らの絵を描く能力だけは、芽吹き、伸び、花開いた。
 彼らを育てたその土壌の一つが、こうした美術館の、絵を万人に開く太っ腹さのように思う。

 半分くらい観てから、疲れて、お腹も空いたので、外に出て休憩できるかと尋ねると、できるという返事。その日一日なら、美術館に出入り自由。
 で、昼食を取りに出る。たまには店に入って、ゆっくり座って、ビールなしのランチでも食べようか、なんて話しながら歩く途中、見つけてしまったスーパーで、例によって昼食を調達。ノイエ・ピナコテークの前のベンチに座って食べる。

 お腹を膨らませて、再び入館し絵画鑑賞。く~、さすが世界十指に入る屈強の美術館(私の場合)。途中、館内のツアーらしい日本人団体が、「2時間ある」と言っていたけれど、2時間だなんてインチキ所要時間としか思えない。ノイエ・ピナコテークを舐めてんな。
 私たちは11時から5時まで、6時間かかった。へとへとに疲れきり、満足して、旧市街観光抜きでまっすぐに駅へと向かう。

 To be continued...

 画像は、ミュンヘン、駅への道。

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バイエルンの都(続々々々)

 
 ノイエ・ピナコテークへ向けててくてく歩く。今日は好い天気。一日館内で過ごすのが憚られる。
 先日は相棒、疲労に任せて、ミュンヘンはドイツの大阪だ、なんて罵倒していたけれど、ここは街路樹は豊かだし、歩道は広いし、建物は低いし無機的でないしで、御堂筋なんかとは比較にならない、と私は思う。

 さて、ノイエ・ピナコテーク(新絵画館)は、私の、死ぬまでに訪れたい世界十大美術館の一つ(って、数えたわけじゃないけど)。ミュンヘンのピナコテークは他にアルテ・ピナコテーク(旧絵画館)とモダン・ピナコテーク(現代絵画館)があって、いずれも譲れないのだが、どれか一つを選ぶとすれば、私の感性は、18世紀から20世紀にかけての西洋絵画をくまなく所蔵しているこのノイエを、一番に持ってくる。

 荷物をロッカーに預けて、観る気満々で展示室に入ると、いきなりホドラー。向かいには眼に刺さるほどまばゆいセガンティーニ。く~、ヨダレ出そう。
 ホドラー「生に疲れし人々」、ゴッホ「ひまわり」、クレイン「ネプチューンの馬」、シュトゥック「罪」等々、教科書に載っているような有名な絵のホンモノがあるのだが、それ以外にもヨーロッパ絵画が一通りすべてある。
 他に、ドイツ絵画も充実しまくっている。例によってシュピッツヴェーク、印象派のリーバーマンやスレーフォークト、コリントなど、写実派のライブルやトリューブナーなど、ロマン派のフリードリヒなど。ドイツ新古典派やナザレ派の絵は、代表的なものばかり。

 やけに印象に残っているのが、ハンス・フォン・マレースという、ドイツ・ロマン派の画家。一部屋丸ごと、この画家の絵が展示されている。宗教主題を描いているのだが、ほの暗い色彩や肉厚の筆致が亡霊じみていて、なんだか不気味。

 館内は広い上に入館者が少ないので、ストレスなく観ることができる。入館者も、小学生くらいの子供から、ハイスクール、社会人スクール(?)の大人まで、美術の勉強に来ているらしいグループが多い。で、子供たちは床に座り込み、寝っ転がって、名画を研究しているというわけ。
 さすがヨーロッパ、教養の土壌が違う。

 To be continued...

 画像は、ミュンヘン、アルテ・ピナコテークのライオン像。

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バイエルンの都(続々々)

 
 自販機で温かいミネストローネを買って、階段を昇って、さてドアの前に立ち、できるだけ音をさせないように、教えられたやり方で鍵を開けようと試みる。が……

 やっぱり開かない。やり方を教えてもらっているのだから、これで5分くらい、ガチャガチャと実地に練習していれば、今度は開けられそうに思うのだが、数回ガチャガチャしただけで、気にかけていたらしい隣りの女の子がすぐにドアの陰からそっと現われた。
 女の子は私たちから鍵を取り、たった一度でガチャリと鍵を開け、にこにこしながら、取っ手を回しながら鍵を引っ張り、「ツィーエン(=引くの)!」と教える。はい、ちゃんと引いたんですが……

「私、この部屋にいますから、鍵が開けられなかったら呼んでくださいね(以上、相棒訳)」
 女の子は親切に言ってくれるが、さすがにもう申し訳がなくて、自己嫌悪の東洋人二人。もう今日は二人一緒に部屋を出るのはやめて、どちらかが残ってドアを開けることにしよう、と意見が一致して、冒険なしにとっとと寝てしまった。

 翌朝、朝食の時間、部屋を出ながら相棒が言う。
「問題は帰ってきたとき、鍵が開くかどうかだよね」

 朝食を終えて階段を昇り、いよいよドアの前に立つ。
「成功するよう、祈っててよ!」
 鍵を手に緊張する相棒。心臓がバクバク打つ私。相棒、慎重に、教示されたとおりにノブを回しながら鍵を引っ張ると、あれ? 呆気なく開いた。

 よし、これで気兼ねなく部屋を出ることができるぞ!
 けれども、後はもう出発するだけ。こういう技能って、身についた途端に使う機会がなくなるもんだ。

 To be continued...

 画像は、ミュンヘン、ノイエ・ピナコテーク、ゴッホを勉強する子供たち。

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バイエルンの都(続々)

 
 もう鍵の開け方も分かったし、ユース内を探検。で、再びドアの前に立ち、教えられたやり方を試したのだが、鍵は開かない。ガチャガチャやっていると、隣りの部屋のドアがそっと開いて、さっきの湯上りの女の子がドアの陰からこちらを覗く。
 面長でほっそりしていて、まだ濡れた髪を額の前で二つに分けて腰まで垂らしている。今は部屋着を着ていて、とてもフェミニン。東洋人がガチャガチャやっているのを聞きつけて、出てきたのだ。
 女の子は鍵を取り、再び解説付きで実演しながら、いとも簡単に鍵を開けてくれる。

「また、アホや、って思われたねえ」部屋に入ってから私が言うと、相棒、
「エッ! あれ、さっきのお風呂上りの女の子? ハダカじゃプクプク太って見えたのに、パジャマじゃスレンダーで凄く美しかったよ!」
 ……何、若い女性のバスタオル巻きつけた姿態、しっかり観察してたのね。

 部屋に入って一休みしてから、相棒、チェックインの際、受付の女性に頼んで地図をダウンロードしてもらっていたから、約束どおり、下まで取りに行かなきゃならない、と言い出した。
「また、鍵を開けられなくてガチャガチャやってたら、あの女の子が出てきちゃうなあ」

 大いに不安がりながらも、部屋を出て1階の受付まで降りる。降りたからには、もう同じことなので、散歩にでも行こう、ということで、陽の暮れた街路を少しばかり歩く。
 受付の女性が親切に「ここが散策にいいですよ」と印を付けてくれた公園を、相棒は律儀に目指したのだが、もう暗いし、行っても何も見えないだろうし、しかも遠いし、遅くなりそうだし、疲れてるしで、その辺をうろうろしてからさっさと帰ってきた。

 To be continued...

 画像は、ミュンヘン、ノイエ・ピナコテーク。

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バイエルンの都(続)

 
 廊下に出てきたのは偶然、さっきの女の子。突然声をかけられて、おっとっと、というふうにソックスで廊下を滑って転ぶ様子を見せながら、方向転換して私たちのほうへとやって来る。ファニーでチャーミング。
「鍵が開かないんですね? ちょっと持ってて!」
 自分の鍵を私の手のひらにパシッと叩くように渡して、開け方を実演してくれる。
「こうやって鍵をこちらに回して、ちょうど開けるときに鍵を引っ張るの。引っ張って……あれ? 開かない」
 女の子は肩をすぼめて、同じやり方をガチャガチャ試す。

 そこへ背後にそっと現われたのが、今シャワーを浴びたばかりの、洗った髪をタオルでくるみ、バスタオル一枚きり身体に巻いただけの湯上り美人。彼女は私たちの隣室の人で、シャワーから帰ってきてこの場にばったり遭遇したわけ。
 日本のホテルでは、宿泊客は廊下を寝巻き姿で出歩くことがあるが、ドイツでは自室以外はプライベートな空間ではないので、そうした行為は控えるように……とかなんとか、ガイドブックが注意していたけれど、なんのなんの、鷹揚なドイツ人、バスタオル一枚でも気にしないみたい。

 同じハイスクールであるらしい彼女らは会話を交わし、今度は湯上りの女の子が鍵を開けると、あ、開いた。
 彼女らはもう一度、開け方を説明してくれる。間抜けっぽい東洋人二人、心から「ダンケ」と言い、部屋に入って、「アホちゃう、あの東洋人、って思われてるだろうねえ」と溜息を吐く。

 To be continued...

 画像は、ミュンヘン、アルテ・ピナコテーク。

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