ギリシャ神話あれこれ:ピロクテテス帰参(続)

 
 ようやく帰郷できると喜びながら、しかし毒による発作が来襲し、意識を失うピロクテテス。
 
 オデュッセウスは、ピロクテテスは足手まといだ、隙を見て弓だけ奪え、とネオプトレモスに指示する。が、もともとオデュッセウスの企みを潔しとしなかったネオプトレモスは、ピロクテテスを騙したことを恥じ、共にトロイアへ行き、傷を治し、戦って欲しい、とピロクテテスに申し出る。

 が、ピロクテテスは大激怒。あまりにひどい! ギリシア勢の仕打ちを忘れることはできん! そのギリシアに自分のこの惨めな姿を晒すこともできん! と却下する。
 
 ネオプトレモスは諦めて、ピロクテテスを故郷まで送ることを約束して、オデュッセウスとともに島を去ろうとする。
 そのとき突然。

 かつてピロクテテスの父ポイアス(あるいはピロクテテス本人)に弓を授けた英雄、今は神となったヘラクレスが現われ、トロイアに行き、傷を癒し、パリスを討ち取るよう、ピロクテテスに命じる。

 ヘラクレスの出現に、ピロクテテスは大感激。これまでの怨恨などすっかり水に流して、ヘラクレスの弓を携え、ネオプトレモスらとともにトロイアへと向かう。
 船は程なくトロイアに到着し、ピロクテテスは歓喜と同情をもって迎えられる。傷を治療し、長年の衰弱から見る見る回復する。

 かくして、ピロクテテスは戦線に復帰する。

 To be continued...

 画像は、ファーブル「ピロクテテスからヘラクレスの弓矢を奪うオデュッセウスとネオプトレモス」。
  フランソワ=グザヴィエ・ファーブル
   (Francois-Xavier Fabre, 1766-1837, French)


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ギリシャ神話あれこれ:ピロクテテス帰参

 
 占師カルカスは、トロイア陥落のための次なる予言を与える。ヘラクレスの弓が必要だ、と。

 トロイア出征時、ピロクテテスはヘラクレスから譲り受けた強弓を持参して参戦した。が、トロイアへ向かう途中、立ち寄ったレムノス島で毒蛇に噛まれたために、オデュッセウスによって、憐れ、島へと置き去られたのだった。
 あれから10年。ピロクテテスはすっかり痩せこけ、孤独と、傷から来る発作とに苛まれながら、弓矢の狩猟で細々と食いつないでいた。

 ピロクテテスはさぞかし、自分を置き去りにしたギリシア勢を怨んでいることだろう。そう考えたオデュッセウスは、唯一ピロクテテスと面識のないネオプトレモスを連れて、ヘラクレスの弓を得るべくレムノス島へと向かう。

 レムノス島に到着し、ピロクテテスが住まう洞窟へとやって来た一行は、ピロクテテスの惨めな姿に仰天する。
 洞窟の床一面に鳥の羽が敷かれ、ピロクテテス自身継ぎ合わせた鳥の羽を身に纏っていて、まるで鳥。髪も髭も伸び放題に伸び、肉体は痩せこけ、眼玉だけが虚ろにぎょろつく。足傷はなお腐臭を放ち、身体は血と膿と垢と苦痛の涙にまみれている。ああ、かつての英姿はどこへやら。

 とてもじゃないが近づけん。オデュッセウスは、ヘラクレスの弓を盗み取ることにし、ネオプトレモスに知略を授ける。
 洞窟に一人近づくネオプトレモス。ピロクテテスは懐かしいギリシア人の姿を見て感激し、彼を歓迎する。

 To be continued...

 画像は、アビルゴーア「傷ついたピロクテテス」。
  ニコライ・アブラハム・アビルゴーア
   (Nikolaj Abraham Abildgaard, 1743-1809, Danish)


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ギリシャ神話あれこれ:ネオプトレモス参戦(続)

 
 エウリュピュロスはヘラクレスのごとき勢いで、ギリシア軍を殲滅せんものと追撃し、再び船団に火を放つまでに迫ったが、ここでギリシア勢にとっては救いの日没がやって来る。

 その頃、オデュッセウスとディオメデスはスキュロス島に到着し、リュコメデス王の館で、アキレウスの忘れ形見であるピュロスの姿を見出す。
 若いピュロスは、その容貌も武芸の腕も父アキレウスに生き写しだった。オデュッセウスは大いに満足し、ピュロスに従軍するよう願い出る。参戦の暁には、アキレウスの神授の武具を贈ろう、またメネラオスからは、娘ヘルミオネを妻として贈られよう、と、褒賞もしっかり提示して。

 アキレウスの妻デイダメイアは、夫の死を嘆いていたところへ、息子が出立すると聞いてますます嘆く。が、ピュロスはお構いなしに、オデュッセウスに連れられてトロイアへと旅立ってゆく。

 ギリシア全軍はピュロスを、アキレウスの再来として熱烈に歓迎する。ピュロスはオデュッセウスから、亡父アキレウスの甲冑を譲り受けて出陣、アキレウスさながらの勇猛振りで、オデュッセウスやディオメデスらとともに、今にも防壁を突破しようとしていたトロイア軍をたちまち撃退する。
 この戦功によって、ネオプトレモス(新たに従軍した者)の名を与えられたピュロスは、父アキレウスと見紛う容赦のなさと残忍ぶりで、ついに、トロイア軍を鼓舞して奮戦するエウリュピュロスに対峙し、彼を討ち倒す。トロイア勢はネオプトレモスの登場に、アキレウスの再来かと戦慄した。

 ネオプトレモスは、父アキレウスと同様、この戦争に従軍する理由がなかった。が、彼は父亡き後、疑うことなくギリシア勝利のために暴れ狂う。
 父に会ったことはないが、父の名に恥じない戦いぶりだった。そこには、若さの故か、父譲りの故か、真っ直ぐで迷いのない残虐さがあった。

 To be continued...

 画像は、エカスベアの弟子「座る若者」。
  クリストファー・ウィルヘルム・エカスベア
   (Christoffer Wilhelm Eckersberg, 1783-1853, Danish)


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ギリシャ神話あれこれ:ネオプトレモス参戦

 
 アキレウスと大アイアスという二大勇将を失って意気消沈するギリシア陣営。そこへ、占師カルカスが予言する。トロイア陥落のためには、アキレウスの嫡子の参戦が必要だ、と。

 アキレウスは出征前、スキュロス島の王リュコメデスの館にかくまわれ、王の娘デイダメイアとのあいだに一子ピュロスを儲けていた。
 メネラオスは、ピュロスが我々のために戦ってくれるなら、娘ヘルミオネを彼に与えよう、と約束。早速、オデュッセウスがディオメデスとともに、遺子ピュロスを迎えにスキュロス島へと出帆する。

 一方、トロイア王プリアモスは、王女アステュオケの子であるエウリュピュロス(ヘラクレスの孫に当たる)に、黄金の葡萄の木を贈って来援を乞う。
 こうしてトロイアに最後の援軍が到着する。トロイア勢は英雄ヘラクレスの血を引くエウリュピュロスを、喝采をもって迎えた。

 翌朝、エウリュピュロスは神々しい甲冑を身にまとって現われる。その大楯には、ヘラクレスの数々の偉業が描かれていた。
 エウリュピュロスはトロイア軍を率いて出陣、エウリュピュロスは、アキレウスに次ぐ美貌を謳われたニレウス、医神アスクレピオスを父に持つ軍医のマカオンを初めとして、敵将を次々と討ち取っていく。
 ギリシア軍は苦戦に追い込まれ、ついに敗走し始める。

 To be continued...

 画像は、エカスベア「矢を研ぐ若い射手」。
  クリストファー・ウィルヘルム・エカスベア
   (Christoffer Wilhelm Eckersberg, 1783-1853, Danish)


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ギリシャ神話あれこれ:大アイアスの死(続)

 
 さて、その夜、憤懣遣る方ない大アイアスは、逆上が昂じて狂乱し、船陣を飛び出す。吼え猛りながら、オデュッセウスを初めとする味方の諸将らに剣を振るって切り込み、暴怒に任せてがむしゃらに諸将らを殺戮する
 が、ふと、自分が殺しまくっていたのが羊の群れだったことに気づく。

 アテナ神がオデュッセウスに危害が及ばぬよう、大アイアスを狂わせ、羊を人間と錯覚させていたのだった。

 正気に返った大アイアスは、自らの所業に愕然となって、血まみれの羊の死骸の真ん中にへたれ込む。
 ああ、これほどまでに勝利のために貢献した自分を、なぜに神々は嫌うのか? 神々は勇者ではなく策略家を贔屓するのだ! 

 大アイアスは自分の愚かしい行為を恥辱と感じ、神に欺かれたこと、味方の諸将から称賛を得られなかったことを悲憤する。そして、これ以上ギリシアのために戦うことは虚しい、と、かつて敵将ヘクトルから貰い受けた剣を取り、自ら脇腹(あるいは喉)に突き刺した。

 大アイアスは幼少時、ヘラクレスのライオンの毛皮で包まれていたために、不死の身体を得ていた。毛皮に触れなかった脇腹(あるいは喉)だけが、アキレウスの踵がそうだったように、大アイアスの不死の弱点だった。
 大アイアスから流れ出た血は一面の大地に染み込み、そこからアイリスの花が咲いたという。

 To be continued...

 画像は、ティエポロ「大アイアスの自害」。
  ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ
   (Giovanni Battista Tiepolo, 1696-1770, Italian)


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