ギリシャ神話あれこれ:処女神、母となる(続)

 
 汚らわしい! カンカンに怒ったアテナは、すぐに腿を羊毛で拭い取り、ポイとばかりに捨て去った。が、その精液は大地に沁み入る。大地は懐胎し、やがて赤ん坊を生み落とす。

 生まれた赤ん坊エリクトニオスは、下半身が蛇という異形の姿。が、アテナはこの奇っ怪な姿の赤ん坊を、自分の子と認め、アテナイの王ケクロプス(この王も下半身が蛇という姿)の三人の娘たちに養育させることにした。

 エリクトニオスを不死にしようと考えたアテナは、赤ん坊を箱に入れ、決して見てはならない、と言いつけて、ケクロプスの娘たちに託す(赤ん坊を蛇に巻かせて、箱のなかで育てると、不死になるらしい)。箱の開けず、中身も見ずに、どうやって赤ん坊を世話するのか、ちょっと分からないのだが、この種の話の例の漏れず、娘たちは早々に、禁を破って箱のなか覗いてしまう。
 で、娘たちは、赤ん坊の蛇に殺されたとも、アテナの怒りを買って発狂し、アクロポリスの崖から投身して死んだともいう。

 その後、母神アテナの神殿で育ったエリクトニオスは、成長してアテナイ王となる。
 脚が不自由だった彼は、父神ヘファイストス譲りの鍛冶の技術で、四頭立ての二輪戦車を発明した。なので、ぎょしゃ座はこのエリクトニオスなのだという。

 画像は、ヨルダーンス「エリクトニオス坊やを見つけるケクロプスの娘たち」。
  ヤーコブ・ヨルダーンス(Jacob Jordaens, 1593-1678, Flemish)

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ギリシャ神話あれこれ:処女神、母となる

 
 ギリシャ神話では、男神の精液が無駄に放出されることはない。女性(神であれ人間であれ)の胎内に届かなかった精液は大抵、大地に落ちて、大地(つまり大地神ガイア)が身籠ることになる。で、大地から、神の血を継承した何かしらが生まれる。
 こうした内容が、えてして、「あるとき神さまが精をお漏らしになって……」とかなんとかと表現されている。こんな表現、小さな女の子にはなかなか分かんないよ! ……で、私にも分からなかった時期があった。

 さて、鍛冶神ヘファイストスは美神アフロディテの夫。なのだが、アフロディテには軍神アレスという逞しい愛人がいる。ので、醜く跛のヘファイストスは妻から相手にされない。
 あるとき、知恵と戦争の女神アテナが、武具をあつらえにヘファイストスの鍛冶場を訪れたところ、ヘファイストスはつい、むらむらと欲情してしまう。
 欲情したら早急な行動に出るのがギリシャの神さま。ヘファイストスもまた、アテナに迫って犯そうとする。永遠の処女神、しかも軍神アレスも敵わないほどの武芸の達人であるアテナに向かって、この行動は、無鉄砲すぎる。

 案の定、アテナは拒んで、さっさと逃げ出す。それでもヘファイストスは、男神に恥じぬ不屈の執着ぶりで、不自由な足を引き引き追いかける。で、アテナに抱きついた途端、その精液がアテナの腿を濡らしたのだった。

 To be continued...

 画像は、ボルドーネ「ヘパイストスを拒絶するアテナ」。
  パリス・ボルドーネ(Paris Bordone, 1500-1571, Italian)

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