ギリシャ神話あれこれ:末裔たち

 
 原作を読んでもいないのに、相棒が図書館で借りてきた映画「ノルウェイの森」なんぞを鑑賞。文学部の講義で、教授がエウリピデスの悲劇を説明する。
「愛する者に愛されないという、一方通行の愛の連鎖と、それが生み出す悲劇が、この「アンドロマケ」という物語だ」
 そこに、学生活動家が乱入し、討論が優先だ、授業を切り上げろ、と要求する。すると教授、
「ギリシャ悲劇より深刻な問題があるとは思えんのだが」

 古代ギリシャの愛というのは、かなり原始的で、情欲まみれで、相手を奪ってやる、奪えないなら破滅させてやる、という、私物化チックな代物。つまり、相手が望むものを相手に与えたい、ではなく、自分が望むものを相手に与えたい、という、思いやりのなさ。なので、畢竟、相互に一方通行な愛しか成り立たない。
 相互通行の愛もあるにはあるが、中身は稀薄で、淡白で、存在感がなく、印象に残らない。後世、いくらでも脚色できる。良妻賢母アンドロマケの愛には、そういうところがある。

 英雄アキレウスの忘れ形見ネオプトレモス(=ピュロス)は、トロイア陥落後、戦勝品として、トロイア総大将ヘクトルの妻である美しいアンドロマケと、ヘクトルの弟でカッサンドラとは双子の予言者ヘレノスを貰い受ける。

 多くのギリシア勢の船団が、帰途、嵐に遭い、財宝や女奴隷もろとも海へと沈んだのに対して、ネオプトレモスは、祖母に当たる女神テティスから、海路を避けるよう忠告される。曰く、お前はトロイアの老王プリアモスを、神の祭壇で殺した。神は大いに立腹している。と。
 殊勝にもテティスに従い、ネオプトレモスは陸路を取って、無事帰国。その後、エペイロスの王となる。

 愛妾となったアンドロマケは、ネオプトレモスによって身籠ったモロッソスを産んでいる。

 アンドロマケにとって、ネオプトレモスは、夫ヘクトルを殺した憎きアキレウスの嫡子であり、愛児アステュアナクスを殺した張本人でもある。が、アンドロマケには復讐心がない。大体、アンドロマケという女性には、あんまり積極的なエピソードがないのだ。

 To be continued...

 画像は、ブランシャール「アステュアナクスの死」。
  エドゥアール=テオフィル・ブランシャール
   (Édouard-Théophile Blanchard, 1844-1879, French)


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