ギリシャ神話あれこれ:アトレウス兄弟の復讐合戦(続々々々々)

 
 テュエステスを暗殺するため牢を訪れたアイギストスだったが、その手に握るいわくの剣を一目見るなり、テュエステスは血相を変えて、剣の出所を執拗に問いただす。
 これは母の剣なのだ、とアイギストス。
 じゃあ、その母という女に会わせてくれ! とテュエステス。

 ……こういう悠長な展開が、ギリシャ神話にはある。こうしてテュエステスとペロピアは対面し、互いが父娘だと知る。

 で、テュエステスはアイギストスに語る。お前の真の父はこの俺なのだ。兄アトレウスは俺に、俺の子供たちを殺してその肉を食わせたのだ。なので、復讐のため、神託に従い、娘ペロピアと交わって、お前を生ませたのだ。……

 ペロピアは戦慄し、実父と交わって子を生んだ不義の恥辱に耐えられず、その剣で胸を突いて自殺してしまう。 

 一方、テュエステスは、出生の秘密を知った今、宿命どおり、仇敵アトレウスを誅殺するよう、アイギストスに告げる。
 そうだ、父殺しの罪を犯すわけにはいかない! アイギストスは、母の血にまみれた剣を持ってアトレウスのもとへ行き、テュエステスを葬り去った、と虚偽を告げる。
 アトレウスは喜び、神々に感謝すべく祭壇を用意する。その祭壇で、アイギストスは養父であり伯父でもあるアトレウスを刺し殺す。

 こうして、ミュケナイの実権を手にしたアイギストスは、父テュエステスを王に復位させる。
 が、アトレウスの子であるアガメムノンとメネラオスは、乳母に連れられてミュケナイを落ち延びる。アトレウスとテュエステスの因縁の不和は、その後裔へと受け継がれていく。

 To be continued...

 画像は、ゴッドワード「デルポイの神託」。
  ジョン・ウィリアム・ゴッドワード
   (John William Godward, 1861-1922, British)


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ギリシャ神話あれこれ:アトレウス兄弟の復讐合戦(続々々々)

 
 一方、アトレウスの過剰な報復を嫌忌した神々によって、ミュケナイは深刻な飢饉に襲われる。アトレウスが神託を求めたところ、神託は、テュエステスの追放を解くよう告げる。
 そこでアトレウスは、弟テュエステスを探して訪ね歩く。この旅すがら、アトレウスはシキュオンの王宮で、ペロピアを見初めてしまう。

 テスプロトス王がペロピアを自分の娘だと偽ったため、アトレウスは彼女を妻として貰い受ける。が、実際のところは、ペロピアはアトレウスの姪に当たり、しかもこのとき、父テュエステスの子を身籠っていたのだった。
  
 見知らぬ男に犯されてできた赤ん坊の存在を、どうやって臨月まで夫アトレウスに隠したのかは分からない。まもなくペロピアは運命の赤ん坊を、人知れず出産する。産み落とされた赤ん坊はこっそりと捨てられたが、牧夫に拾われ、アイギストスと命名されて育てられた。
 だが、やがてアイギストスの存在は、アトレウスの知るところとなる。妻の子は即ち自分の子。彼はアイギストスを引き取り、我が子として養育する。

 やがてアイギストスが成人したとき……

 かねてより捜索されていたテュエステスが捕らえられ、ミュケナイへと引っ立てられて、牢に繋がれる。神託どおりに弟を連れ戻してみると、昔日の怨念が再燃したのか、あるいは王位を脅かす仇敵として怖れたか、アトレウスは弟を刺殺するよう、ひそかにアイギストスに命じる。
 アイギストスに手渡された剣。それは母ペロピアが、その昔、自分を犯した見知らぬ男から盗み取っておいた剣だった。

 To be continued...

 画像は、J.コリア「デルポイの巫女」。
  ジョン・コリア(John Collier, 1850-1934, British)

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ギリシャ神話あれこれ:アトレウス兄弟の復讐合戦(続々々)

 
 ミュケナイの王となった兄アトレウスだが、弟テュエステスの王位に対する野望と謀計を知るに及んで、なぜ弟が自分の金羊毛を手に入れることができたのか、その事情に思い到る。それは妻アエロペの不義と裏切り。
 弟を深く憎悪したアトレウスは、追放という処分では生ぬるいと考え、さらに残忍な復讐を思い立つ。

 アトレウスは、和解したいと持ちかけて弟を帰国させ、晩餐に招く。だがその肉は、弟の三人の子らを、命乞いするのも無視して殺害し、四肢を切り細裂いて料理したものだった。
 何も知らないテュエステスは、我が子の肉を腹いっぱいに食べ尽くし、食後には我が子の血を混ぜたワインを飲む。するとアトレウスは、三人の子の首を見せて、我が子を食らう人め! とテュエステスを侮辱する。
 テュエステスは驚愕し、絶叫し、嘔吐して、食卓を蹴り倒すと、この食卓同様、お前の一族も覆るがいい! と呪詛して遁走する。 

 こうしてアトレウスの報復は終わる。その残忍さを神々は嫌悪し、太陽は顔を背けて東に沈んだという。

 一方、テュエステスのほうは怨念を晴らさずにはいられない。兄への復讐を誓って、デルポイの神託を乞う。すると、「自らの娘と交わって子を得よ」。
 ……ギリシャ神話では、近親相姦というのは神々にのみ許される行為で、人間には禁忌されている。が、テュエステスの兄に対する怨恨は、禁忌への畏怖に勝った。
 
 テュエステスは、娘ペロピアのいるシキュオンの王宮へと向かう。ペロピアは当夜、テスプロトス王のもとで、アテナ神の祭祀をしていたが、犠牲の獣の血で衣装を汚してしまった。そこで森に入り、衣装を脱いで川で洗いはじめる。
 そこへ、茂みに隠れていたテュエステスが、顔を隠してペロピアに襲いかかると、遮二無二強姦する。このときペロピアは、自分を犯した男の剣をこっそりと抜き取って、それをアテナ神祭壇に隠しておいた。

 こうして神託に従ったテュエステスは、そのままいずこへか去っていく。

 To be continued...

 画像は、ブーシェ「弟テュエステスに彼の子供たちの首を見せるアトレウス」。 
  フランソワ・ブーシェ(Francois Boucher, 1703-1770, French)

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ギリシャ神話あれこれ:アトレウス兄弟の復讐合戦(続々)

 
 ヘラクレスの後裔がアテナイに逃れると、エウリュステウス王は引き渡しを迫り、それを拒んだアテナイとの戦争となる。王は敗れ、彼の息子たちはことごとく討ち取られる。王自身も、ヘラクレスの子ヒュロスに殺されて斬首され、ヘラクレスの母アルクメネによって両眼を抉り出されたという。

 さて、自業自得で族滅されたエウリュステウス王のせいで、突然、ミュケナイの王位は空位となる。そこでミュケナイの人々がデルポイの神託を仰いだところ、「ペロプスの子を王に迎えよ」……
 俄然、兄アトレウスと弟テュエステスは王位をめぐって対立することに。

 弟テュエステスは奸計をめぐらす。かねてから姦通していた兄妻アエロペに、兄アトレウスが隠し持っていた金羊毛を盗み出させると、何食わぬ顔で主張する。
「ミュケナイの王は、黄金の羊の毛皮を持つほどの有徳の者こそがふさわしい」
 兄アトレウスは、ふッふッふ、だが俺はその金羊毛を持っているのさ、と内心ほくほくしながら、弟に同意する。が、審判の場に金羊毛を提出できたのは、兄からそれをちょろまかした弟のほう。
 
 こうして、一旦は弟テュエステスがミュケナイ王となる。が、このときなぜか、テュエステスの欺瞞を嫌忌した大神ゼウスが、兄アトレウスに入れ知恵する。
「太陽が逆行し、西から昇り東に沈むなら、王位決定もまた逆となる」
 ふふん、そんなことあるわけないさ、と弟は兄の提案をすんなり受け入れるのだが……
 翌日、ゼウス神の計らいで、太陽は西から昇り東へと沈んでいく。ミュケナイの人々は、弟テュエステスの不正と神々の立腹を知り、彼を追放、王位を兄アトレウスへと移す。

 To be continued...

 画像は、ミオーラ「神託」。 
  カミッロ・ミオーラ(Camillo Miola, i840-1919, Italian)

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ギリシャ神話あれこれ:アトレウス兄弟の復讐合戦(続)

 
 あるとき、兄アトレウスは奴隷市で、美しく品の良い女奴隷を一人買う。彼女はアエロペといい、実はクレタの王カトレウスの娘なのだが、自身の子に殺されるとの神託を受けた王が、奴隷として異国に売りとばしてしまったのだった。
 さて、アトレウスはアエロペを侍妾にしていたが、やがて彼女の高貴な出生を知るに及んで、正妻として迎えることにする。

 だが一方、おそらく奴隷の身分だった頃から、アエロペは、アトレウスの弟テュエステスとも姦通していた。アトレウスの妻となってからも、義弟テュエステスとの情交は続く。

 ところで兄アトレウスは、ミデアの繁栄を神に感謝し、毎年、新しく生まれた仔羊のうち最上のものを狩猟神アルテミスに捧げることを誓っていた。その志を試そうとしたのだろう、アルテミス神は黄金の仔羊を生まれさせる。
 奇跡のようにポッコリ生まれた金ぴかの仔羊! にわかにアトレウスは仔羊が惜しくなり、それをこっそりと絞め殺して、金の毛皮を箱のなかに隠しておいた。

 ……神々への誓約を反故にしたのだから、普通なら、神の怒りによる嵐やら飢饉やらの直截的な制裁が次に来るのだが、そうなっていない(?)のがちょっとよく分からない。が結局、この金羊毛は、一族の以降の不貞やら奸計やら復讐やらを引き起こすメイン・アイテムとなっているので、怒れる神もそれ以上の手出しをしなかったのかも知れない。

 その頃ミュケナイでは、ステネロス王の亡き後、その息子エウリュステウスが王位を継いでいた。
 エウリュステウスは、かの英雄ヘラクレスに12の難業を課した王で、臆病で尻弱なくせに権力には執着するという卑劣な輩。ヘラクレスの死後、その後裔がミュケナイ王位を狙うのではないかと怖れた王は、彼らを殲滅せんものと追跡を始める。

 To be continued...

 画像は、ベッツィ「テュエステスとアエロペ」。
  ジョバンニ・フランチェスコ・ベッツィ
   (Giovanni Francesco Bezzi, 1549-1571, Italian)


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