ギリシャ神話あれこれ:ディオメデス奮戦(続)

 
 アテナ神に不屈の闘志を吹き込まれたディオメデスは奮戦。戦場を縦横無尽に駆けめぐり、次から次へと敵将を倒していく。勢いの止まらないディオメデスに、先程メネラオスに裏切りの遠矢を放ったパンダロスが矢を射るが、ディオメデスの奴、負った矢傷も何のその。

 こりゃ、手に負えん。アフロディテ神の息子、トロイアの勇将アイネイアスが、パンダロスとタッグを組んで、共に戦車に乗り込んだ。ディオメデス目指して突進する。
 が、迎え撃つディオメデスは槍を放ってパンダロスを刺し殺す。転がり落ちたパンダロスの屍を守るため、その前に立ちはだかったアイネイアスに、今度はディオメデス、大石を投げつける。

 たまらず気絶したアイネイアス。息子のピンチに、勇敢にもアフロディテ神が駆けつける。女神がアイネイアスを連れ去ろうとしたところを、ディオメデスは容赦なく追いかけ、女神の白い腕を槍で突く。不死の血が流れ出し、女神はあまりの痛みに悲鳴を上げて、息子を腕から取り落とした。

 ディオメデスめ、人間の分際でこの私を刺すなんて! アフロディテ神はオリュンポスへと逃げ帰り、母神ディオネの膝に崩れ伏し、涙ながらに訴えた。

 アポロン神に戦場へと連れ戻された軍神アレスを伴って、総大将ヘクトルが全軍を率い、トロイアは徐々に形勢を盛り返す。そこへアテナ神が舞い降りてディオメデスに吹き込む。アレスごときを怖れることはない、と。
 勇気百倍、猛然と戦車に乗り込むディオメデス。隣りにはアテナが付き従う。ディオメデスはアレスに突進、槍を放ってアレスの下腹を突き刺した。

 アレスは両軍が凍りつくような叫び声を上げてオリュンポスへと逃げ帰り、泣きべそかいて父神ゼウスに訴える。……ホントに軍神か?
 が、アフロディテ神の場合とは逆に、こちらは、お前も、お前の母親(ヘラ神のこと)も、気に入らん奴だ! と罵られただけだった。

 To be continued...

 画像は、フィトガー「アイネイアスの身体を取り戻そうとするアフロディテに傷を負わせるディオメデス」。
  アルトゥール・フィトガー(Arthur Fitger, 1840-1909, German)

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ギリシャ神話あれこれ:ディオメデス奮戦

 
 ところで、古代の合戦はこんなふう……

 兵卒たちがチャンチャンバラバラと戦うなか、名のある武将は馬の牽く戦車に乗り込んで戦場を駆け、敵将めがけて突進、長槍を投げる。あるいは剣で切りかかる。矢を射る武将もあるが、これはちょっと卑怯な戦い方らしい。
 諸神の加護のある武将は、敵方の槍だの矢だのを逸らせ、護ってもらえる。ちなみに、逸らされた槍は大抵、武将の隣りで戦車を駆る御者に当たるので、代わりに御者が死ぬことになる。

 加護のない武将は、運が悪ければ、敵方の槍や剣に倒れる(「右尻を槍でぐっさり刺すと、そのままずっぷり槍先が入って骨をくぐり膀胱辺りへ出た」、「首の後ろの腱を刺すと、真っ直ぐに槍先が入って、舌の根を切り裂いて歯並の上に出た」という感じの、かなりえげつない描写)。
 討たれた武将は戦車から転がり落ち、武具をカラカラと鳴らせて地に倒れ伏して、息絶える(魂は冥府へと旅立つ)。その馬と戦車と武具とは、戦勝品となる。ので、敵方に武具を剥がれないよう、味方の武将らがその遺骸を死守して自陣へと持ち帰る。

 ギリシア勢に押されるトロイア勢に、トロイアに味方するアポロン神が檄を飛ばす。対して、ギリシアに味方するアテナ神もまた、檄を飛ばす。檄と檄との飛ばし合い。

 さて、この激戦の最中、アテナ神はギリシアのディオメデスに加護を与えてやる。その一方で、軍神アレス(彼は愛人アフロディテに釣られて、トロイアに味方している)に声をかけ、我ら神々は撤退するとしましょう、と、アレスを戦場から連れ出してしまう。
 間抜けな軍神が離れた途端、トロイア勢は劣勢となった。

 To be continued...

 画像は、アングル「ディオメデスに傷を負わされたウェヌス」。
  ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル
   (Jean-Auguste-Dominique Ingres, 1780-1867, French)


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ギリシャ神話あれこれ:パリスの一騎打ち(続々)

 
 一騎打ちがメネラオスの勝利に終わったことは明白だった。ギリシアの総大将アガメムノンは、約束どおりトロイアはヘレネと財宝をギリシアに返還し、これで終戦にしようじゃないか、と主張。トロイア・ギリシア両勢ともが、これに賛成する。

 が、それじゃあ、戦況をギリシア軍に不利にするという、テティスとの約束を果たせなくなる、困ったゼウス神。胸中の思惑も素知らぬふうに、聞こえよがしに言ってそそのかす。
 アフロディテはトロイア勝利のために頑張っているなあ。それに比べてメネラオスのほうは気の毒に、味方する女神どもが当てにならないのだから。と。

 アテナとヘラの両神(彼女らはパリスの審判で選ばれなかったため、ギリシアに味方している)は憤慨して、まあオホホ、どういたしまして、私どもだってこのままじゃ引き下がりませんことよ、とかなんとか言い返した。
 しめしめ、上手くいったわい。にんまりとするゼウス神。

 アテナ神はトロイアに和平の誓いを破らせるべく、トロイア陣中へと紛れ込む。姿を変え、弓の名手パンダロスを巧みにそそのかして、メネラオスめがけて遠矢を射させる。
 矢は的を過たずメネラオスを射当てたが、アテナが逸らしたおかげで傷は浅かった。が、血を流す弟メネラオスを見て、アガメムノンは激怒。おのれ、よくも誓いを反故にしおったな!
 
 かくして戦闘は再開する。両軍は再び衝突し、あっという間に、大地が血に染まる激戦と化す。
 ……神さまたち、あんまり人間に手出ししないでよ。

 To be continued...

 画像は、ダヴィッド「パリスとヘレネ」。
  ジャック=ルイ・ダヴィッド(Jacques-Louis David, 1748-1825, French)

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ギリシャ神話あれこれ:パリスの一騎打ち(続)

 
 パリスの放った槍はメネラオスの大楯で防がれるが、一方、メネラオスの放った槍はパリスの楯を貫き、パリスの脇腹を掠める。メネラオスはパリスの兜めがけて剣を振るうが、剣は粉々に砕けてしまう。するとメネラオスは、パリスの兜を引っつかみ、自陣へと引きずってゆく。
 ……やっぱり、コキュの恨みは凄まじい。

 勝敗は決した。が、このときアフロディテ神(彼女はパリスの審判で選ばれたため、また、息子アイネイアスがトロイア王家の傍系でもあるため、トロイアに味方している)が、パリスの兜の紐を引きちぎり、パリスをイリオス城内へと連れ去ってしまう。
 空っぽの兜に気づいたメネラオスは、槍を手にパリスを追うが、見失う。彼はなおもパリスの姿を求め、獣のように執念深く両軍のあいだを探しまわったが、兵士たちのなかにパリスを探し出すことはとうとうできずじまいだった。

 一方アフロディテは老女に化け、旦那さまがお待ちです、とヘレネを迎えに行く。が、ヘレネは女神の正体を見破り、なぜこんなことをしたのです! と呆れて責め立てる。
 すると女神は立腹し、不埒な女め! なんならお前を見捨てて、惨めな死にざまで死なせてやろうか! と脅す。

 こうしてパリスのもとへと連れられたヘレネは、今度はパリスを責め立てる。あなたなんて、前夫にやられて死んでしまえばよかったのに! と。
 するとパリスは口説き始める。そんなに意地悪く責めないでおくれよ、今度はきっと君の前夫を倒すからさ、でも今は楽しもうよ。
 で、パリスはヘレネをベッドへと誘い、結局二人は共寝する。
 ……なんて調子のいい男。

 To be continued...

 画像は、フュースリ「メネラオスとの戦いの後、パリスを運び去るアフロディテ」。
  ヨハン・ハインリヒ・フュースリ(John Henry Fuseli, 1741-1825, Swiss)

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ギリシャ神話あれこれ:パリスの一騎打ち

 
 相対峙する、ギリシア・トロイアの両全軍。
 このとき、ヘレネを誘拐して戦争を引き起こした張本人、トロイアの王子パリスが、勇んで進み出ると、ギリシア軍に向かって挑発する。やあ、一騎打ちしようじゃないか!
 すると、彼に妻ヘレネを奪われたメネラオスが、復讐の機会とばかりに憤然と身を躍らせる。

 途端にパリスは、味方のなかに逃げ隠れてしまう。これにはヘクトル、この女狂いの腰抜けめ! と弟パリスを激しく罵倒した。

 覚悟を決めたパリスは、それじゃあ、ヘレネと全財産を賭けてメネラオスと一騎打ちしよう、と提案。
 メネラオスもそれに応じる。ヘレネをめぐる我々二人のどちらかが死ぬことで決着を着け、他は引き分けることにしよう、と。

 パリスとメネラオスとの一騎打ちを見護るべく、武具を解く戦場の両軍。そしてイリオス城壁上にはトロイアの老王プリアモスと、当のヘレネ。
 ヘレネは一騎打ちの話を聞くや否や、泣きながらここまで来たのだった。集まるトロイアの長老たちは、これほどの美女のためなら、国を挙げて戦うのも道理だ、と囁き合う。
 自分のそばへと引き寄せたプリアモス王に、ヘレネは、あれがアガメムノン、あれがオデュッセウス、アイアス、イドメネウス、等々と説明する。

 和平の誓約の上に、一騎打ちが始まった。

 To be continued...

 画像は、モロー「トロイア城壁上のヘレネ」。
  ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau, 1826-1898, French)

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