ギリシャ神話あれこれ:イクシオンの邪淫

 
 子供の頃、タルタロスの罰で一番怖かったのが、このイクシオンの火炎の車だった。が、一番重いと思った罪は、タンタロスのものだった。
 で、どうもこのイクシオンという男には、見当外れの同情をしていた。

 テッサリアの王イクシオンは、オイカリアの王デイオネウスの娘ディアに求婚した際、花嫁への豪華な結納を約束して、デイオネウスの許可を得た。いよいよ結婚となったとき、イクシオンは結納をチャラにするため、デイオネウスを祝宴に招き、途中の道に落とし穴を掘って、底に赤い炭火を仕掛け、まんまと落として焼き殺した。
 神々はこの行為を大いに非難したが、ゼウス神だけはそれを許し、罪を浄めてやったばかりか、天上にまで招いてやった。
 ……珍しく寛容なゼウスだけれど、実はこれ、花嫁ディアを誘惑するためだったとか(だから、イクシオンとディアの子ペイリトオスは、実はゼウスの子だったともいう)。

 が、忘恩なイクシオンは天上で、なんとヘラに恋慕してしきりに言い寄り、自分はヘラから寵愛を受けたという噂まで吹聴した。

 ヘラというのは、夫ゼウスがいかに浮気をしまくろうと、どこまでも貞節な妻。で、これにはゼウスも腹を立て、策略を講ずることに。
 ゼウスは雲でヘラに似姿を作り、命を与える。ヘラの姿をした雲の精ネフェレを、ヘラ本人と勘違いしたイクシオン、酔った勢いも手伝って、この雲にむしゃぶりついてがむしゃらに交わった。
 イクシオンが、身持ちの固いヘラを陥落せしめた、と誇ったのも束の間、そこへゼウスが現われて、ヘルメスに散々イクシオンを鞭打たせた挙句、自ら雷霆で撃ってタルタロスへと叩き落した。

 で、自業自得のイクシオンは、燃えさかる火炎の車に縛められて、ぐるぐると回り続け、永劫の責め苦を受けている。

 さて、イクシオンに犯された雲は身籠って、子を産んだ。これがケンタウロスで、彼は多くの牝馬と交わって、半人半馬のケンタウロイ(=ケンタウロス一族)を産ませた。
 だからケンタウロス一族というのは、父イクシオンに似て、女好き、酒好き、喧嘩好きなのだという。

 画像は、ルーベンス「ユノに騙されるラピテス族の王イクシオン」。
  ピーテル・パウル・ルーベンス(Peter Paul Rubens, 1577-1640, Flemish)

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