ギリシャ神話あれこれ:天翔けるベレロポン(続々々)

 
 やがてベレロポンは、コリントス城砦にあるペイレネの泉で、水を飲んでいるペガソスに遭遇。彼は飛び去ろうとしたペガソスを捕らえて、黄金の轡と手綱で御することに成功する。

 いざ、キマイラ退治へ! ベレロポンはペガソスに乗って空を翔け、炎の届かない上空からキマイラに矢を射かける。さらに、キマイラが弱ってきたところで、その口のなかに鉛を放り込む。
 ボッ! キマイラが得意の炎を吐くと、鉛が溶けて体内へと流れ込む。キマイラは体の内部から鉛に焼かれて、息絶えた。

 さて、ベレロポンが首尾よくキマイラを退治したのに驚いたイオバテス王は、今度は、凶暴なソリュモイ族の、さらにアマゾン女族の討伐を命ずる。が、ベレロポンはペガソスを御して、王の課す難題を事もなく次々にやってのける。
 ついに王は、凱旋するベレロポンを闇討ちすべくリュキア兵らを待ち伏せさせる、姑息な手段に出るが、ベレロポンは、これらすべてを殺して帰還する。

 こうなっては王も、ベレロポンの猛勇と神の守護とを見直すしかない。もともと王自身、ベレロポンに恨みがあったわけでもなく、一転して彼を歓待、末娘を与えてリュキアに迎える。

 To be continued...

 画像は、モロー「キマイラ」。
  ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau, 1826-1898, French)

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ギリシャ神話あれこれ:天翔けるベレロポン(続々)

 
 愛憎が絡むとどうも人間は公平な判断をしない。激昂するプロイトス王。だが相手は客人であり、腕に憶えある勇者でもあるベレロポン。王は思案し、怪しい文字で書いた手紙を、舅であるリュキアの王イオバテスに手渡すよう、ベレロポンにことづける。
 ベレロポンは、王妃から逃れられることにむしろ安堵しながら、何の疑念も抱かずにリュキアへと赴く。が、王の手紙に書かれていたのは、何とかしてこの使いの男を殺してしまうように、という暗殺依頼……

 手紙を受け取ったイオバテス王は思案し、この暗殺を、自らの手も名誉も汚すことなく遂行する妙案を思いつく。王は言う。この頃、火山から人里に下りてきては人畜を荒らしていた怪物、キマイラを、退治してはくれまいか。
 キマイラ(キメラ)というのは、山羊の胴と角、大蛇(あるいは竜)の尾を持つ牝獅子で、口からは火炎を吐くという怪獣。怪物たちの出生の例にたがわず、テュポンとエキドナの子とされる。

 これは弱ったベレロポン。予言者ポリュイドスに助言を求めたところ、英雄の守護神アテナの加護を得よ、という返事。
 で、ベレロポンはアテナ神に祈る。やがて眠り込んでしまった彼の夢にアテナ神が現われ、天馬ペガソスを手に入れよ、と告げる。眼を覚ました彼のそばには、黄金の手綱と轡があった。
 よし! 早速ベレロポンは、ペガソスを探す旅に出る。

 To be continued...

 画像は、画像は、モロー「キマイラ」。
  ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau, 1826-1898, French)

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ギリシャ神話あれこれ:天翔けるベレロポン(続)

 
 ちなみに、この父王グラウコスは、飼っていた牝馬を頑丈な駿馬にするために、人肉を餌に与えていたという馬狂い。グラウコスは、イオルコスの王ペリアス(英雄イアソンの愛人メデイアの奸計で暗殺された)の葬礼競技に参列した際、餌である人肉を与えることができなかったために、空腹の牝馬によって、御しているところを八つ裂きにされて貪り喰われてしまった。
 そんなグラウコスは、死後、馬たちを脅す悪霊タラクシッポスになったという。

 ……ベレロポンの馬との因縁は、父王から受け継いだ血なのかも知れない。

 さて、ベレロポンはもともとヒッポノオスという名だった。容姿端麗で、武芸の腕も抜群。なのに、あるとき競技の際に、兄ベレロスを誤って殺してしまう。
 以来、彼はベレロポン(ベレロスを殺した者)と呼ばれるようになる。

 ベレロポンはコリントスを逃れて、アルゴスの王プロイトスのもとで罪を清めてもらう。
 このとき、王妃アンテイア(あるいはステネボイア)が、惚れ惚れする男振りのベレロポンに恋をしてしまう。あれやこれやと誘惑する王妃を、だが、誇り高いベレロポンは手厳しく拒絶する。
 こうなっては憎さ百倍、アンテイアは夫プロイトスに、ベレロポンに陵辱された、あんな男を厚遇するからよ! と虚偽を訴える。

 To be continued...

 画像は、W.クレイン「キマイラと戦うベレロポン」。
  ウォルター・クレイン(Walter Crane, 1845-1915, British)

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ギリシャ神話あれこれ:天翔けるベレロポン

 
 小学校の頃、おませで品の好い、お嬢グループのお喋りに引っ張り込まれて、「いくら欲しくても、欲しい気持ちだけでは手に入らない類のもので、一番欲しいものは何?」というお題に参加した。お嬢たちはキャッキャッとはしゃぎながら、「世界一の美貌」、「お姫さまという位」、「片想いの男の子のハート」など、お嬢らしい答えをするのだった。
 で、私の番が来て、私は、「んー……ペガサスかな」と答えた。
 一瞬、お嬢たちはきょとんとして顔を見合わせ、それから再びキャイキャイと、「美人だったら、美しさに惹かれてペガサスが舞い降りて……」「もしお姫さまになったら、お城にペガサスを飼って……」「恋の相手がペガサスに乗って迎えにきて……」と、自分たちの憧れのイメージのなかに、早速ペガサスを取り入れた。
 でも、ペガサスって一頭しかいないんだよ。私は美も王位も要らないから、ペガサスが欲しいよ。
 ……

 ペガソス(ペガサス)は翼を持つ馬で、見たものを石に変える蛇髪の怪女メドゥーサの血から生まれたという。父親は海神ポセイドン。馬というと大抵、ポセイドンが絡んでくる。
 ペガソスは、英雄ベレロポンのエピソードに登場する。ベレロポンは、シシュポスを祖父、グラウコスを父とする、コリントスの王子。

 To be continued...

 画像は、画像は、ファン・テュルデン「ペガソスとアテナ」。
  テオドール・ファン・テュルデン
   (Theodoor van Thulden, 1606-1669, Flemish)


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ボヘミアの森景

 
 
 チェコ近代絵画を先駆けする時代、新しい世代の画家たちに影響を与えた先達として最も頻繁に名前を眼にする画家に、ユリウス・マジャーク(Julius Mařák)がいる。

 なんでこんなにマジャークの名を見かけるのかと言えば、彼がプラハのアカデミーで教鞭を取っていたかららしい。19世紀後半、民族主義の高揚する時代、プラハの国民劇場や美術館の装飾を手がけて文化復興運動に加担する一方、祖国にどっかりと根を下ろした風景画を黙々と描いていれば、そりゃあ、アカデミーの画学生たちにも影響力を持とうというもの。

 マジャークは、ただ風景画だけに生涯を捧げた。作風はロマン派、写実派、印象派のあいだを、マイナーチェンジしつつ行ったり来たりするが、大枠においては一貫している。ロマン主義的にドリーミーなムードを醸す、静寂のボヘミア森景こそが、マジャークの真骨頂だった。
 何気に画面が音楽的なのは、マジャーク自身音楽的だったからかも知れない。子沢山の下級官僚の家庭にも関わらず、マジャークは幼い頃から、絵と音楽とを学んで育った。一族にはオペラ歌手やらバイオリニストやらの音楽家が数多くいる。ちなみに生まれ故郷は、かのチェコ国民音楽の父スメタナと同じく、ボヘミアとモラビアが交差する街リトミシュル。

 マジャークの風景画の主要なテーマは、森の木々だった。ロシア移動派に、樹木ばかりを描いたシシキンという画家がいたが、マジャークもまた、シシキン顔負けに樹木ばかり描く。彼のような人は木の一本一本に、人間と同様の個性を見ていたに違いない。
 描写は地勢記録的な、痛ましいほどの写実なのだが、画家の好みなのか、幽玄な、物語めいた演出が必ず加わっている。その演出が、森の奥へと分け入って、木漏れ陽の射す池沼や小道、渓流などの人知れないスポットにひょっこり出くわした驚きと喜びの感情を呼び起こす。
 大地と樹木の茶と、樹葉の緑の、狭いパレットにも関わらず、あまり太くはない木々が繰り返す縦の線と、それらが作り出す光と影のせいで、画面にリズムが存在する。

 ……こういう何でもない、地味な風景を、描ききることのできる画家というのは、凄い。

 画像は、マジャーク「森へ通ずる小道」。
  ユリウス・マジャーク(Julius Mařák, 1832-1899, Czech)
 他、左から、
  「返事」
  「チロルの主題」
  「五月の森外れ」
  「森の小池」
  「森のなか」

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