二十年前になる。友人に電話で呼び出された。彼は、ある会社の創業者の長男で、父親の跡を継いで社長になったばかりだった。私は、その会社の外国人研修生の受け入れを担当していたので、そのことについての話と思った。
社長室で二人きりで話した。 彼には四人の子供がいた。娘三人、息子一人。長女Y子のことだった。十八歳のY子は、小学校五年生の時から学校へ行っていない。大学受験資格検定試験を受けるので、彼女に英語を教えて欲しいとの依頼だった。私は、いそがしくてとてもその時間はなかった。 Y子は、小学校の美術の教師に性的イタズラをされ、それ以来家族以外の人と接触できない状態が続いた。妹や弟が、学校の話を楽しそうにしているのを何年も聞いていて、最近やっと大学に行きたいと言い始め、自分で準備をしているという。私の娘がこんな目に合わされたらと胸が詰まった。
実は、私も中学校の音楽の教師の毒牙にかかりそうになった経験がある。ある晩、学校で当直しているその教師から電話が掛かってきた。「T君、I君も来るから、当直室に泊まりに来ないか?」。 T君、I君と誘い合わせて学校へ行った。四人は懐中電灯で照らし出しながら、校内を巡回した。夜の教室、昼間はあれほど賑やかなのに不気味に静まり返っていた。宿直室に布団を敷いて四人で寝た。
夜中に自分の体の上に重く煙草臭いものを感じ、目を覚ました。音楽教師が目をぎらつかせて囁いた。「気持ちいいことしよう」。 私は、布団を抜け出し、裸足で一目散に家に逃げ帰った。
私は、大検を目指す娘さんに英語を教える事にした。結局四年間教えた。最初の頃は、Y子は俯いたまま顔を上げなかった。私は、長い期間英語そっちのけで、自分の人生経験を熱く、一方的に話した。私の中学の音楽教師の話をした頃から、変化が現れた。
Y子は二十二歳の時、大検に合格した。「先生のたくさんの時間ありがとう」と私の目をしっかり見つめて言ってくれた。
ワイセツ教師は、後にどちらも別の猥褻事件で警察に逮捕された。
Y子は、二十七歳で大学を卒業した。時間が彼女の心を何とか癒してくれることを祈る。
それにしても去年2006年度猥褻事件で懲戒免職された教師の数には驚く。自分の子供や孫がいかなる猥褻事件に巻き込まれても私は絶対に犯人を許さない。法では裁かせない。団塊世代の子供、孫が狙われている。予防と防御と運しかないのか。獣と一対一にならない、させないことをまず守らせ、守り、躾けたい。
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