団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

いい薬です

2023年10月18日 | Weblog

 私は、私の父親の姉を“東京のおばちゃん”と呼んでいた。優しく兄弟だけでなく、その甥や姪の面倒見が良かった。私の母が亡くなった後、しばらく“東京のおばちゃん”が私を預かってくれた。私の姉も高校を卒業すると、“東京のおばちゃん”の家に下宿して会社に勤めた。“東京のおばちゃん”は、私にとって別世界の憧れの人だった。

 “東京のおばちゃん”が上田に来る時は、東京から珍しい物をたくさん持ってきて、私たちを喜ばせてくれた。“東京”は、私にとってまるで日本ではない外国のような気がしていた。私は、今まで東京で学んだこともなく、働いたこともない。東京都民になったこともない。そのせいか未だに東京へ行くと、何もかもが新鮮で胸躍る。通勤で毎日東京へ行く妻は、少しも東京を良い所とは思っていない。

 “東京のおばちゃん”は、健康に気を付けていた。ある時、目に良いからと『八つ目ウナギ』の瓶入りの錠剤を持ってきてくれた。『八つ目…』と聞いただけで、何か怪獣のようで気味が悪かった。結局、私たち子供が飲むことはなかった。東京の浅草へ行った時、『八目鰻本舗』という大きな看板を目にした。ああ、“東京のおばちゃん”は、ここであの錠剤を買って、上田に持ってきてくれたのだと気配りをありがたく思った。

 晩年、体調をくずして短期間上田に療養のために滞在した。とても電車で東京に戻れないというので、私が車で東京へ送った。車の中で、私の父親の子供時代、東京で働いていた頃の話、母との結婚の馴れ初めなど話してくれた。そして東京に着いて、車を降りる時、私の手に1万円札を渡して、「ありがとね。たぶんこれが最後だと思う。これで『アリナミン』を買いなさい。おばちゃんの遺言だと思って、アリナミンを飲み続けてごらん。」私は、その1万円を何に使ったか覚えていない。アリナミンを買わなかったことは確かである。酷い甥だ。おばの言葉通り、それから1カ月もしないで亡くなってしまった。

 あれからすでに50年以上経ってしまった。私も持病の糖尿病の合併症で、心臓バイパス手術を受けた。あちこちの血管が詰まって、ステントをカテーテル治療で入れた。いろいろな処方薬やサプリメントを服用している。正直、ジャディアンス以外効いているという実感がない。サプリメントは尚更である。テレビのサプリメントの世田谷食品や富山常備薬のコマーシャルを観ると腹が立つ。ビールのコマーシャルと同じで、信憑性がない。ひょんなことから、“東京のおばちゃん”が言ったアリナミンを飲んでみようと思った。さっそく薬局で小瓶を買って飲んでみた。体調に変化が現れた。かったるさが消えた。目にも変化があった。腰痛も軽くなった。信じがたかった。妻は、「保険適用されているから次回の診察の時、聞いてみたら」と言った。3カ月に1回の糖尿病の検診の時、主治医にアリナミンのことを聞いた。処方されることになった。

 今、1日2錠を服用している。太田胃散のコマーシャルで「いい薬です」がある。私が効き目を感じることができる薬は、睡眠薬・ロキソニン・リンデロンくらいだった。アリナミンも私の「いい薬です」に加わった。

 私はコキロクになって初めて“東京のおばちゃん”のアリナミンの効き目を実感できた。


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