団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

ティファニーブルーと上田みどり大根

2016年12月12日 | Weblog

  11日の日曜日、三島の村の駅へ野菜の買い出しに妻と行った。朝9時の開店なので8時に家を出た。海の見える道路をドライブ気分で走った。太平洋は鉛色、そこへ木漏れ陽が放射状に刺すように到達していた。助手席が海側だった。妻に頼んでカメラで写真を撮ってもらった。美しい景色を見ていい気分で運転を続けた。一気に登りつめた丹那の峠道。富士山も見られるかなと期待したが厚い雲の中だった。

 三島の村の駅に9時5分前に到着した。先週より人出は少なかった。広い店内に野菜が山盛りに並べられていた。いつもの通りにまずキノコ。エリンギ、シイタケ、シメジを選ぶ。トマトもたくさん買った。妻が私に「好きな青首大根あるよ」と言った。あった。正確には“うえだみどり大根”。しかし商品ラベルには「青大根」とある。そんなことはどうでもよい。このところずっと村の駅に来て、必ずチェックしていたが見つけることができないでいた。何度か通販で買おうと思ったが、買いそびれていた。

 日本テレビの土曜日午後6時半からの『青空レストラン』という番組がある。11月26日の放送で何と“うえだみどり大根”が取り上げられた。その少し前に村の駅で数本のみどり大根を見つけた。手に入らなければ、目にしなければ我慢できるものである。しかし、再び口にしてしまうと「もっと」「もっともっと」と欲しくなる。このみどり大根をおろし器でおろすと、そのみどり色の美しさに目を奪われる。私が近隣の店で買い求める「青首大根」は首まわりがみどり色だが、中は白い。おろしても白い。ところがうえだみどり大根は違うのである。中もみどり色、それも翡翠のようなみどり色なのだ。

 ニューヨークのトランプタワーの隣に有名な宝石店ティファニーがある。ティファニーは店のイメージカラーとしてティファニーブルーを使う。このティファニーブルーはコマドリの卵と色だということを12月10日放送の『世界ふしぎ発見』の「ニューヨーク5番街の奇跡 日本を愛したティファニー」で初めて知った。創業者のチャールズ・ルイス・ティファニーがこの色に魅せられ自分の事業のイメージカラーにしたのだという。上品な色である。私はこの番組を観ていて、うえだみどり大根のすりおろしたみどり大根を想っていた。まさか次の日、村の駅でそのみどり大根に再会できるとは思ってもいなかった。

 村の駅からルンルン気分で帰宅した。妻がお昼は麺類を食べたいと言った。私は即、真っ白に茹でられた白いうどんに緑色のおろし大根をのせてちょっと醤油をかけて食べることを思い描いた。妻は煮込みうどんが好きなので別に用意することにした。私がうどんを調理しているわきで、妻がみどり大根をおろした。「綺麗な色」と言った。

 私は遠い子供時代にタイムスリップしていた。何もかも不足していた貧しい時代であった。配給のコメだけでは、6人家族には足りなかった。母は庭で野菜を育てた。みどり大根は秋から初冬にかけてのご馳走だった。朝は納豆に混ぜ、夜秋刀魚に付け合わせたり、米を食べない週2日はうどんに乗せて食べた。貧しい家族の食卓ではあったが、母はいつもみどり大根のみどり色が綺麗だと言った。家族全員異議はなかった。みどり大根のみどり色は、貧しかった我が家の食卓をティファニーでの食事並みに華やかな気持ちにさせてくれた。


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