団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

ライザップとS君の胸板

2015年05月20日 | Weblog

  5月16日土曜日東京新橋で開かれた高校の関東同窓会に出席した。12時からというので昼食は食べていなかった。普段私は昼食を11時半に摂っている。今回は同窓生による講演の後、会食となった。午後1時を過ぎたころから、低血糖の症状が出始めた。この10年低血糖になったことはなかった。私の他に同窓生は17人参加していた。みな熱心に講演を聞いていた。ということはみな糖尿病などとは無縁な健康体に違いない。あいにく飴もチョコレートも持っていなかった。途中ビールが出された。低血糖でアルコールを摂取すると私は具合が更に悪くなった経験を持つ。ビールには口を付けただけだった。一人の講演が終わり次の講演に入った。集中力の低下も甚だしい。2つの講演は私には無理だった。さすがに健常者も腹が空いてきたのか、主催者が店の人に料理を出しはじめるよう指示した。サトイモの煮つけだった。テーブルに皿が置かれるや否や私はサトイモを一つ口に入れた。良く噛んで消化が早くされるよう呑みこんだ。数分後みるみるうちに体が元に戻っていった。

  テーブルの向かい側には同級生だったS君が座っていた。S君とは夫婦ぐるみでお付き合いしている。低血糖状態で目の焦点がぶれていたのだろう。焦点が合わされたS君の姿に驚いた。ライザップRIZAPだ。テーブルの上の上半身しか見えない。以前から胸板が厚かった。去年S君はスキーで脚を骨折した。手術で6本のボルトを入れていた。そのボルトも再手術で最近取り外した。脚が使えない間、上半身だけ鍛えるためにトレーニングジムに週3回通い続けた。そしてついにベンチプレスで100kgを上げた。その結果の胸板である。シャツの上からでさえあの盛り上がりである。

  高校生の時からS君は力持ちだった。腕相撲も強かった。成績も優秀で学年トップクラスだった。性格もよく天は彼に二物も三物も与えた。保険会社を退職して海外旅行、登山、ジム通いと悠々自適に暮らしている。毎年12月に開く我が家でのワイン会にも欠かさず夫婦で出席してくれる。7年前の貸切バスで山梨県勝沼のレストランでのワイン祭りでは酔いつぶれた私の妻を背負ってバスに乗せてくれた。気は優しくて力持ちなのである。去年、スキーで骨折したと連絡を受け、私は内心でやはり彼も年齢には勝てないと変に納得した。大きな間違いだった。彼は強靱な精神力で新たな目標を自らに掲げ、遂に100kgのバーレルを上げてしまった。

  低血糖もすっかり落ち着いた。S君の厚い胸板と次々に運ばれてくる料理へと、交互にチラチラと目を泳がせた。ある歌の歌詞が思い浮かんだ。関敬六の『浅草の唄』「♪つよいばかりが男じゃないと教えてくれた人♪」 私は肉体的にも精神的にも強い男ではない。これからもそうなれる可能性はない。肉体に恵まれ、健康に恵まれ、立派な職歴、学歴を持つ人たちを羨ましいと思う。羨ましいと思うと同時にそういう人達の影での努力を尊敬できる。

  最後にS君に尋ねてみた。「ライザップのCMでは2か月で見違えるように体が変わっているけれど、あるのかな、あんなこと」 S君は言った。「私はもっと時間がかかっている」 批判も訂正もしない。S君らしい。家に帰ってスイッチを入れたテレビに、ライザップのCMが耳障りな音楽にのって姿勢の悪い私のような体形だった男が筋肉ムキムキに変わる様子が映った。S君の胸板を思い出した。シャツの上から見ただけなのに、CMに出てくる“?”だらけの都会の男性たちにはない、アフリカの山中で群れを守る野生のゴリラのあのたくましさと優しさを彷彿させた。

 


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