巣窟日誌

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「堀江は…」:ビジネスにおける身内の呼び方ルール

2006-01-22 00:23:16 | 日記・エッセイ・コラム
某巨大掲示板を久しぶりにのぞいたところ、ライブドアの広報担当者のことば使いに対し、「社長を呼び捨てにするのはおかしい」と書き込んでいる人が、思いのほか多くてびっくりした。この広報担当が、ライブドアの証券取引法違反について社外向けのインタビューに答えたさいに、自社の社長を「堀江は…」「堀江が…」と呼んでいることを批判しているのだが、この広報担当者の自社の社長の呼び方は、わたしの感覚では正しいと感じるからだ。

そこでとりあえず、わたしがこれまで社会人として学んできた「呼び方」ルールを、この記事でまとめてみよう。他の方々がならったことと、異なる点もあるかもしれない。


自社内で上司と話していて、相手をなんと呼ぶだろうか。

社内の人間を役職で呼ばず「さん」付けで呼ぶ企業は例外として、普通は「社長」とか「部長」のように、相手を役職で呼ぶだろう。「山田部長」などと役職の前に苗字を入れることもあるかもしれない。なぜ役職で呼ぶかというと、相手を役職で呼ぶこと自体が、敬語表現とみなされるからだ。

敬語表現であるから、第三者にむかって自分の会社の社長や部長について語るときに、「社長は…」「部長は…」と言ってはいけないとされている。相手に向かって身内の人間に敬語を使ってしまうことになるからだ。日本語の表現においては、相手をたてるために自分と自分の身内を下げて言わなければないし、元来、そのための表現も豊富だ。(「愚妻」「愚息」「豚児」「豚女」等等。)ゆえに自分の会社の鈴木社長のことを社外に向かって話すときは、身内である社長を下げて、「鈴木は…」と呼び捨てで呼ぶことになる。

「鈴木社長」「山田部長」のように、自社内の人間の苗字に役職をつけるのも敬語表現なので、第三者に自社の上司の名前と役職の両方を伝えなければならないときには、「社長の鈴木は…」「部長の山田が…」のように伝えることになる。というわけで、他社から送られてきた手紙や企業のウェブサイトなどに、「問合せ先:山田次郎部長」などと書いてあるのをみると、わたしとしては「おいおい、大丈夫ですか」という気分になるのである。

一方で、日本語は二重敬語を嫌う。だから相手の会社の社長に対して、「社長様」「鈴木課長様」のように呼ぶことは、日本語の使用法として良くないとされている。が、実際には使っている人も多いようである。

二重敬語が出てきたついでに説明すると、手紙の宛名の場合、たとえば取り引き先の企業の藤原正夫という営業部長宛に手紙を出すとすると、宛名は「営業部長 藤原正夫様」と書いて、「部長」と「様」がぶつかるという二重敬語を避ける。役職宛に手紙を出さなければならないとき(相手の名前がまったくわからなかったり、あるいは相手の名前が苗字しかわからない場合)は、「営業部長殿」「藤原部長殿」のように、役職の後には「殿」をつける。その根拠のひとつには、「様」より「殿」のほうが敬意が軽いからだと、聞いたことがある。

では、会話内における、自社と取り引き先の会社の呼び方については、どうだろうか。

毎年新卒の採用の季節になると、面接で「御社」という言葉が飛び交う。しかし会話内での「御社」「貴社」などの表現を、「書きことばであり、話しことばではない」といって、嫌う人もいる。この場合、相手の企業に対しては「○○会社(会社名)様」「お宅様」と呼ぶものとされている。「お宅様」なんて、少なくともわたしのまわりでは、あまり使っている人はいないような気がするが。

同じように会話内で、本来は書きことばである「当社」「弊社」という表現を使うのも、好ましいものではないと考える人もいる。こういう場合の自社の呼び方は、「わたくしども」「手前ども」とされている。業種と当事者の年代によっては「『手前ども』なんて表現、かえって変だよ」と感じる人もいるだろう。

ところで、「愚妻」「愚息」「豚児」「豚女」等の表現は、最近ではあまり使われない。身内といえ、あまりにも貶めているとして、そう呼ばれた当人が知ったらあまり良い気分にはならないからだろう。もしわたしが仮に身内に外で「愚妻」「豚女」なんて呼ばれてたら、やはりあまり気分がしないだろう。そして釣り合いをとるために、こちらも「愚夫」「愚父」とぐふぐふ言ってしまいそうだ。

そういえば、「愚夫」や「愚父」なんて表現は、日本語に正式に存在するのかどうかは知らないが、少なくともほとんど使われていない。女性が使う男性の身内を指す謙譲表現は、あまり豊富ではないようだ。おそらく、女性の身分が男性よりも低いことが前提になっていたからであろう。で、ライブドアの広報担当が「社長を呼び捨てにして…」と批判されたのには、この広報担当が女性であるという要因が、多少なりとも影響しているのかもしれない。


2 Comments

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 役職が敬語、という前提を知らない人が多いんで... (ろぷ)
2006-01-23 06:30:40
 役職が敬語、という前提を知らない人が多いんでしょうねぇきっと。
 僕もこのあいだ「うちの社長が行きますから」と言われました。「おいおい客はどっちだよ」って感じです。

 それはそうと、
 僕の聞いた話では「様」は下から上に対するあらたまった表現。「殿」は上から下に対するあらたまった表現らしいですね。
 だから上司相手には「○○様」。
 社長から部下に給料を渡す場合は「○○殿」。

 なんだとか。
 日本語って難しいですね。
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ろぷさん (ふくしまゆみ)
2006-01-23 23:16:49
ろぷさん

> 「様」は下から上に対するあらたまった表現。
>「殿」は上から下に対するあらたまった表現らしいですね。

これも、どこかで聞いたことがあります。でも、「殿」のほうが丁寧であると思っている人もいて、たまにクレームを承ります。
どうやら宛名の「殿」を、「トノ」だと思っているらしいんですね。こちらは「トノ」ではなくて、あくまで「ドノ」なんですが。
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