ネコ、人を食（は）む？

特養入所の８０代女性、猫にかじられ右足指すべて失う

　埼玉県北埼玉郡の特別養護老人ホームで６日、入所者の８０歳代の女性が猫にかじられ、右足の指をすべて失うけがを負っていたことが８日、わかった。

　同ホームによると、６日午前５時過ぎ、同室者からのナースコールで呼び出された職員がけがに気づき、１１９番通報した。女性は右足の指をすべて第１関節付近から失っており、左足にもひっかき傷があった。（以下略）
[2005.10.8 読売新聞]
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20051008i503.htm

通常、イエネコが生きている人間を襲って、その体を食べることはない。しかし、わたしはネコ好きではあるものの、まったくありえない話ではないと思う。

野生の動物は、他の動物の死や弱っている状態を、敏感に感じ取って行動する。

たとえば、こんなことがある。家で飼っているイヌは、最近老化のために衰えてきている。そんなある日、庭にネコが入り込んでくる。これまでは絶対にネコなんて庭に来なかったのに、一体なぜ？　

そう思っていると、その日のうちに飼っていたイヌが死ぬ。つまりネコが今まで庭に入ってこなかったのはイヌがいたためであり、その日にかぎって庭に入ってきたのは、もはやイヌがネコを追い払えないほど弱っているということを、敏感に察したからだ。

だから今回の事故の場合も、この女性が寝たきりで会話もできない健康状態であることをネコが察して、普通の人間にはとらない捕食行動をした可能性も否定できない。

そもそも親戚にトラやライオンを持つイエネコは、自然界ではプレデター(=predator、捕食者)の地位にある。わたしが普段みるかぎりにおいて、プレデターたるネコのプレイ(=prey、被食者)は、ミミズとかトカゲとかネズミとか、大物であってもハトやニワトリあたりだ。

しかしその昔、母の実家でネズミ捕りのために飼っていたオスネコは、体長が150cmはあろうかというヘビを捕まえたことがあったとのことだ。それも渾身の力をこめて(よくネコのアゴがはずれなかったものだ)、ずるずると庭から家の中までヘビを運びこみ、「ほらっ」とばかりに人間たちの前に置いたため、当然のことながら人間たちは大騒ぎになった。（「人間たちが狩をしないために、代わりにとってきてあげた」とネコ自身は思っているのだから、ネコをほめて感謝すべきものらしいのだが、しかし…）

さて、赤ん坊のころのわたしは、茅葺き屋根の農家の一軒家に住んでいた。農家の家は、あちらこちらが開いていて、夏ともなれば縁側からは何でも入ってこられる状態だったから、母は家事をやっているときでも、たびたびわたしが無事かを見にこなければならなかった。

母が恐れていたのは、ネズミが入り込んで、わたしをかじってしまうことだった。当時、新聞などでしばしば、ネズミが人間の赤ん坊をかじって、赤ん坊にケガをさせたり、最悪の場合には赤ん坊を殺してしまうニュースが伝えられた。ネズミがかじるのは大体は口の周りで、ミルクの臭いがするから…とのことだった。

いかに体が小さいとはいえ、またいかに日ごろの行動に愛嬌があるとはいえ、自然界のプレデターたちをあなどるなかれ。そういえばわたしはネコに指をかまれたことがあったな。手にしていた煎餅と一緒にガブっとやられたのだが、あの鋭い牙のせいで、かなり痛い思いをした。