巣窟日誌

お仕事と研究と私的出来事

ブレストフォームの重さを変更

2010-06-06 21:45:44 | 美容と健康
「『ブレストフォーム』って?」と思っている方のために念のために説明をしておきますと、乳がんの手術などで乳房を失った女性が、失った胸の代わりに専用のブラジャーのポケットの中に入れたり、ブラジャーと胸の間に挟んでおいたり、あるいは胸に専用の粘着シートなどでじかに貼り付けておくもののことです。「ブレストプロテーゼ」とも呼ばれています。弾力性・重さの関係からシリコン素材で作られているものが多いです。

ブレストフォームのフォームの機能は主に2つ。それは

  1. シルエットを整える

  2. 姿勢を保つ


というものです。わたしは昨年11月に片胸の手術をし、3ヶ月後の2月からブレストフォームを使い始めました。

わたしのように片方の胸がなくもう片方の胸が普通にある場合、そのままでは動いているうちに、着用している服がみな胸がある方の胸の側にずれていってしまいます。カットソーは胸があるほうが大きくはだけるような感じになるし、綿シャツの前ボタンの位置も体の中心線の上にあるべきものが、どんどん残っている胸の側にずれていき、だらしない感じなります。そのために、左右の胸のふくらみをほぼ均等に整えておくことは、かなり重要です。まずはそのためのブレストフォームでしょう。もちろん手術で胸を失い落ち込んでいる人が、「胸があるような状態」のシルエットを手に入れることで、その人の自信の回復や積極性の獲得につながるという効果もあるでしょう。。

全体の胸のあたりのシルエットを整えるという意味においては、一概に「全摘」とはいっても、どこまでの切除を受けたかにより、ブレストフォームの形状は異なるものが選ばれます。(部分切除用のブレストフォームもありますが、ここでは全摘を中心に話をすすめます)

わたしの場合は、「乳房切除+センチネルリンパ節生検」ですので、基本的には乳房分をカバーすればよく、そのため乳房部分のふくらみを再現する左右どちらにも使える三角形に近い形ものを使用しています。腋窩リンパ節郭清をした方のためには、腋の下もカバーするような形状のものがあります。腋の下に加えて、鎖骨下を大きくカバーする形状のものもあります。このようなブレストフォームとブラジャーの組み合わせにより、服を着用した状態において、胸がきちんとあるかのような自然なシルエットを出すのが、このブレストフォームの目的です。(乳がん体験者用のブラジャーについても一言あるのですが、これはまた次の機会に。)

シルエットを整えるということももちろん大事ですが、同時に「姿勢を保つ」機能も重要です。早い話が胸が失われた分だけ体の一部が軽くなり、そのままにしておくと徐々に姿勢が悪くなっていくので、それを矯正しなければならないということです。実は、わたしにとってはこちらの効果の方がより大切です。

胸というものは左右に対になってあるものです。これを1つとってしまうと、まずは体の左右の重さのバランスが崩れます。

そして胸は体の前の部分にあります。女性の場合は胸にある程度の重さがありますので、女性の体の重心は通常は男性よりは後ろにあります。(「腰を反らせて自転車に乗っている女性が多いのはなぜか?」と聞かれたことがありますが、多分胸の重さのためだと思いますよ。)というわけで、体から乳房を一つとると前後のバランスも崩れます。

つまり、胸を1つ取ったことにより、体のバランスに前後左右のねじれが生じてしまうわけです。

これを矯正するには、理論的には乳房と同じ重さの物を、なくなった胸のあたりにいれてあげると良いわけですが、実際はそう単純ではありません。重さが皮膚の下にあるのと皮膚の外側にあるのでは、同じ重さでも感じ方が異なってくるからです。重みが皮膚から遠いところについているほど、余計に重さを感じるようになります。

そしてその重みはブラジャーのストラップの部分に大きくかかります。ブレストフォームが重くなるにつれその負担は耐えがたいものになるようです。「リラックス時には軽いパッドで…」などとメーカーもすすめているぐらいですから、「代りの乳房の重み」の着用で体の負担を感じている人は、結構多いのでしょう。また、手術後の経過と治療の内容次第では、そもそも同じ重さのものは着用しないほうがよい場合もあります。

そのため、ブレストフォームを製造している企業では、手術あとのカバー範囲に形状を変えるほか、似たような形状でも重さが異なるいくつかの種類のものを販売しています。乳房に近い重みのものから、実際の乳房の重みより30%ほど軽量化しているもの、約1/2の重さのもの、本当に形だけを整える軽いもの等です。

さて、今回わたしが重さを変えたのは、2月に購入したものでは体のバランスがいまいち上手く保てないと感じたためです。2月に購入したものは、実際の胸の重みの2/3の重さのものでした。胸の外にある重みがあるものを長時間身につけたときにどのように感じられるかが不明だったことと、この2/3の重さのものを選択する人が最も多いとのこと、乳房に近い重さのものを選ぶと実際より重く感じられる人が多いとのことから、これを選択しました。サイズと形状は前のもとと、全く同じです。

それから4ヶ月。8分目までコーヒーを注いだマグカップをもって歩くと、コーヒーがこぼれることがあります。手術前にはなかったことです。そのうえ、歩いているときに自分がどのような状態で歩いているのかを、慎重に確認しなければならないことが多くなりました。階段や、倉庫のようなせまい場所では特に慎重に。つまり、いまだにバランスがとれていないのです。具体的にいえば、「気をつけ」の姿勢で立ったときに、ブレストフォームをつけている側の肩のほうが上がっているようです。

そこで、今回、乳房とほぼ同じ重さのものを買いました。しばらくは日常ではこの重さを身につけることになります。前のものとの重さの違いはわずか数十グラムですが、これで体のバランスは変わるでしょうか?

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ところでわたしは、自分の体の歪みには結構敏感です。

子供のころ重度の喘息にかかっていました。喘息の児童には結構あることらしいのですが、猫背気味でした。しかも、これも結構あることらしいのですが、片方の肩がいつも下がっていました。「姿勢を正せ」と母親から絶えず注意をされていたのですが、本人はまっすぐ立っているつもりでも、どんなに気をつけていても、片方の肩が下がっているのです。子供のころの写真に肩が下がっているものが何枚か残っており、その中も養護学校で同じ喘息の子と一緒に写っている写真をみると、この子も見事に片方の肩が下がっています。単に肩が下がっているというよりは、背骨の一部が歪んでいるような感じで立っています。

この状態は、喘息の症状が改善してきたのに加え、10代の半ばから始めたヨガで、徐々に良くなって行きました。ヨガはお年頃のわたしの美容対策でもあったわけですが、美容対策の方の効果よりも体の歪みの矯正効果の方がありました。その後体を壊したときに昔ながらの歪みが現れたことがあります。不調時にもそんなわけで、毎日のヨガは、いまだに欠かせません。

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実は手術後3ヶ月でわたしの健側(手術をしていない方)の胸のサイズは2カップ分も下がりました。ホルモン療法その他の一切の療法を受けていないのにもかかわらず、です。

しかも、お恥ずかしい話なのですが、実は胸が小さくなったことに気がついたのは、術後3ヶ月経ち、専用の下着とブレストフォームを購入するために、ワコールの乳がん手術者用の下着リマンマを扱うリマンマルームできちんと計測してもらった時です。

それまでも、入浴前に大きな鏡の前で毎晩しっかり両胸をみていたのに、手術の傷跡やリンパ浮腫ばかりを気にしていたわたしは、健側のサイズ変化に気づきませんでした。リマンマルームの計測結果に動揺したわたしは、リマンマルームのある浅草橋から家に帰るや否や、手術前につけていた下着を恐る恐るつけてみました。すると「やっぱり2カップ分サイズダウンしたね」を裏付けるような状態になってしまいました。そういえば、退院当時は左右の胸のサイズの違いがやたら気になったけれど、最近は気にならなくなっていました。これは自分の目と感覚が大きさの違いに慣れたためだろうと思っていたのだけれど、そうではなくて実際にサイズが変っていたのです。よくよく考えれば、最近はブラトップの健側へのねじれが少なくなっていました。これはすなわち左右の大きさの差が小さくなったことを意味します。

急速にサイズが変ったのは何故でしょうか?

それは、年齢に伴う自然なホルモンの変化―すなわち老化―のせいかもしれません。きちんとした下着をつけていなかったせいかもしれない。(術後しばらくは神経痛のような痛みがあったためと、ドレーンの痕がブラが当たる部分にあったためきちんとした下着はつけられず、ゆる目のブラトップにブラウスや水着の内側につける胸のパッドを使って詰め物をしたお手製のパッドをマジックテープで留めて入れていました。)あるいは、わたしが何も考えていなくても、わたしの体はバランスをとろうとして自動的に胸が小さくなったのかもしれない。この最後の理由のために胸が小さくなったのだとしたら「人体の神秘」です。

乳がんの手術とともにシリコンを入れて同時再建を行った方が、後になってから健側の胸のボリュームを同時再建側とおなじにするために、健側の胸に追加の豊胸手術を行うことがあるという話は聞いていましたが、これは、手術時に同時再建側を大きくしすぎてしまったわけではなく、つまりこういうことが起こるからなのだと納得しました。健側の胸のボリュームをプラスするためのパッドが、ブレストフォームとともに売られている理由も、わかりました。