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映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ブリッツ

2011年10月29日 | 洋画(11年)
 『ブリッツ』を新宿バルト9で見てきました。

(1)前回と同じように気楽な映画を見ようと思って出かけたのですが、確かにアクション物ではあるものの、『ワイルド・スピ-ド MEGA MAX』よりもずっとシリアスな内容でした。

 主人公は、容疑者に対してすぐに手を出してしまう凶暴性をもったサウスロンドン警察署の刑事ブラントジェイソン・ステイサム)(注1)。彼とペアを組むのが、最近隣のウエストロンドン警察署から異動してきたナッシュ(注2)。



 ブラントは、その乱暴な捜査方法から、絶えず解雇の際に立たされているものの、難しい事件となると、署長にとって一番頼りがいがあるヤツということになります(注3)。
 現下の最大のターゲットは、警官殺しのバリー〔ブリッツ(稲妻)と自称〕。なにしろ、3人もの警察官が彼によって次々に殺されているのです。



 ブラントたちは、一度はバリーを逮捕しますが、証拠不十分で48時間後に釈放せざるを得ませんでした。
 それでバリーは、次の狙いをブラントに定めたようです。果たして、ブラントはそれを回避できるでしょうか、そしてバリーを逮捕できるでしょうか、……。

 ロンドンの古い街並みを舞台にしていること(そのためもあって、米国映画ならカーチェイスになるところが、殺人鬼バリーと刑事ブラントとの追っかけゴッコになります)や、警察内部の闇の部分をいくつか描いていること〔麻薬捜査官が、麻薬依存症になっていることなど(注4)〕などから、随分とリアリティのある作品になっていると思いました。

 とはいえ、警察の同僚が殺されてから、その犯人を追い詰め殺したとしても、虚しいばかりではないかという思いが今回もしました。むしろ、そうならないように、事前に対策を入念に取っておくべきではないのか〔映画の場合、どの警官も、単独でパトロール中に狙われているのですから(注5)、最低限、署を出てパトロールする際には2人以上とするルールの徹底を図っておくべきではなかったか、と思われるところです〕、特に映画の場合、同僚が3人も殺されてから、どんなにブラントらが犯人に報復しても、結局は意味がないのではないか、と思えてきます。

 また、ラストでは、自分についての批判記事を執拗に書いた新聞記者(注6)に対して、猛犬をけしかけますが、いくら留飲を下げるためとはいえ、やらずもがなのことではないでしょうか?

(2)バリーが襲うのは気まぐれでも何でもなく、次第に、これまで彼を逮捕した時に携わっていた警官が狙われているのだということがわかってきます(ブラントも当然、彼の対象に入っています)。
 彼にしてみれば、自分に屈辱を与えた奴だから憎いということかもしれませんが、常識的には、そうだからといって殺すまでのこともあるまい、ということになるでしょう。なにより、逮捕されたにしても、これまでバリーは、そんなに大それた事件を引き起こしているわけでもなさそうですし。
 そういうよくわからなさもあり、また新聞記者に事前予告をしてマスコミから注目されたがっているように見えることもあって、バリーは「愉快犯」とされているようです。
 ただ、一般に「愉快犯」というのは、「劇場型犯罪」を犯して皆が騒ぐのを見て面白がるという面を持っているようですが〔よく言われるのは、“グリコ・森永事件”でしょう(1984年、1985年)〕、バリーには、あまりそんなところは見かけません。
 単に、自分を侮った者に対して復讐しているようにしか思えないところです。
 ただ、3件目の殺人事件に際しては、無残な死体を前にして物を食べたりしていますから、精神的に普通ではないところがあるようです(あるいは、自分の逮捕に関与したものを誇大視しているのかもしれません)。
 ともかく、ブラントとナッシュのペアが、バリーを罠に嵌めて簡単に殺してしまいますから、真相は闇の中になってしまいます。

(3)渡まち子氏は、「劇中に「ブリッツとは稲妻という意味だ」とのセリフがあるが、ザ・ブリッツと言えば、1940~41年の独軍によるロンドン大空襲“電撃戦”をも指す言 葉。ヒトラーの意図は、英国人の士気を砕くことだった。ルール無用の荒くれ刑事役のジェイソン・ステイサムは、“ブリッツ”という言葉そのものを鼻で笑 う。こういうヒネリが効いた演出が、いかにもUK映画らしくて小気味良い」として65点を付けています。
 また、福本次郎氏は、「マスコミをあおり警察の無能をあざ笑う構図は「ダーティハリー」に通じるところがあるが、この作品では対極にあるはずのブラントの闇とブリッツの闇が底流でつながっているかのごとき不気味さを漂わせていた」として50点を付けています。



(注1)何しろ、映画の冒頭は、車をこじ開けて中の物を盗もうとしていた少年3人を、ホッケーのスティックで叩きのめしてしまうシーンなのです(少年たちに、“俺とやる時は武器を選ぶんだな”などと嘯きます)。
 この件については、新聞に大きく報道されてしまい、また専門家による事情聴取もされています。その際に専門家から、“自分の報告の仕方によってはおまえは解雇されるぞ”と脅されますが、ブラントは逆に、“警官はおれの転職なんだ、解雇されたら何をするか分からんぞ”と開き直ります。

(注2)ブラントは兇暴ですが、記憶を失うことがあるという悩みを持っているようです(“ときどきブラックアウトしてしまい、そういう際は、ただ壁をみつめているだけにして何もしない”などとナッシュに話したりしています)。
 また、ナッシュも、ゲイであることを公言したために、酷い差別を受け、暫く自宅から出れなくなったと言ったりしています。

(注3)全く詰らないことですが、ブラントは、ナッシュと一緒に事をしようという時に、ミニマックスがいいといいます。
 字幕からすると、ミニマックスとは「日本食」を指しているようなのです。
 寡聞にして知らなかったので、Wikipediaで「グラハム・カー」を調べてみると、1991年に製作された彼が司会するアメリカの料理番組「世界の料理ショー」では、「それまでグラハムが提供してきた脂肪分たっぷりのスタイルではなく、香りや色彩、食感など素材の味を活かすことに重きを置」き、「健康への害を最小限におさえることを目的としたヘルシーな料理法」が推奨されたとのことで、おそらくそんな彼の料理法(「ミニマックス(Minimax)と称する」)に日本食が該当するところから、「ミニマックス」に「日本食」が当てられているのではと思われます。
 ただ、いくらブラントが病を抱えているからといって、カロリーの低いものばかりを食べていたら、冒頭の少年にだってスタミナ不足で負けてしまうかもしれませんが!

(注4)女性警官フォールズは、追いかけていた麻薬売人が残していった荷物の中から覚せい剤を見つけたものの、その誘惑に負け、またしても依存症に逆戻りしてしまいます。というのも、彼女は麻薬取締官でありながら、麻薬依存症に陥ってしまい、暫く厚生施設に入っていて、最近そこを出所したばかりだったのです。
 なお、彼女は、ブラントのところにやってきて、昇進試験に落ちたことを報告し、どうしたらいいのかアドバイスをしてもらおうとします。こんなところからも、ブラントが、仲間から信頼されていることがわかります。

(注5)最初の女性警官は、一人で巡回中にバリーと遭遇し、いきなり喉を至近距離で撃たれてしまいます。2番目の警官も、パトカーに一人でいるところを、これも至近距離で頭部をバリーに撃たれてしまいます。
 ただ、3人目の犠牲者は巡回中ではなく、マンションに帰宅していたところを、配達人を装ったバリーにハンマーで殴り殺されてしまいます〔殺されたロバーツ警部は、妻の死後―その葬儀にブラントも参加しています―、酒浸りでしたが〕。
 なお、「注4」で触れたフォールズも、自宅入口でバリーの犠牲になるところでしたが、フォールズを慕う少年によって難を免れます(ただ、その少年は、バリーの犠牲になってしまいますが)。

(注6)彼は、「注1」で触れた少年殴打事件を大々的に取り上げた新聞記者ですが、それでバリーに目を付けられて、犯行の事前予告を受けることになります。また、バリーが、証拠不十分で釈放された時も、待ちかまえて英雄扱いをしようとします。
 彼は、目立ちたがり屋であることは事実ながら、他方で、警察権力の不当な行使を監視しようとしている面もあると言えるでしょう。




★★★☆☆




象のロケット:ブリッツ


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4 コメント

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ロンドン市警 (KGR)
2011-10-29 08:05:58
ナッシュが西ロンドン署なのは覚えてましたが、ブラントが何署か忘れてしまっていたので「南」とわかってよかったです。

ロンドンは中心部をロンドン市警、それ以外をスコットランドヤードが管轄しているらしいですが、映画ではどちらか判然としません。

Wikiによれば、ロンドン市警の管轄はわずか1マイル四方らしいのでロンドン警視庁(=スコットランドヤード)の担当でもおかしくないのですが、、、。
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ロンドン市警 (クマネズミ)
2011-10-29 08:23:01
お早うございます。
早速にTB&コメントをありがとうございます。
確かに、映画では「London Police」とだけ入口上部に表示されていて、どこか分からなかったのですが、劇場用パンフレットの「story」に、「サウスロンドン警察のブラント」と記載されていたので、それを借用させていただきました。
ただ、「ロンドン市警」の管轄区域が実際にどのように区分されているのか分かりませんし、あるいはもしかすると架空の名称なのかもしれません。
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Unknown (ふじき78)
2012-01-04 00:18:41
報復と言う面もあるでしょうが、一応、刑事ドラマだから、再発防止じゃないですかねえ。
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再発防止 (クマネズミ)
2012-01-04 06:44:50
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
確かに、こういう映画を見れば「再発防止」に繋がるでしょうが、なによりも、まず映画自体の中で「再発防止」策を講じてもらいたかったな、と思います。でもそんなことをしたら、この映画自体が作られなかったでしょうが!
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