『ワイルド・スピ-ド MEGA MAX』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。
(1)荒唐無稽なものも見てみたくなったのと、映画の舞台がブラジルと聞いたので、事前の情報をほとんど持たずに映画館に入ってみました。
映画がシリーズ物の最新作だ、ということも知らなかったくらいですが(注1)、娯楽映画としてまずまず楽しめました。
主人公のトレット(ヴィン・ディーゼル)は、アメリカで懲役25年の判決を受けるも、彼の妹ミア(ジョーダナ・ブリュースター)と恋仲になっている元刑事のブライアン(ポール・ウォーカー)の手助けで護送車から逃亡。3人は暫くしてリオで落ち合いますが、列車に積まれている車を強奪する仕事を依頼されます。ただ、仕事自体は何とかやり遂げるものの、何者かに襲撃されてしまいます。
元々目的の車は麻薬取締局が押収したもので、それに付いているPCに挿入されていたマイクリチップに、リオの裏社会を牛耳るギャング団のボス・レイエス(ヨアキム・デ・アルメイダ)の金銭の出入りが克明に記録されていたのです。レイエスは、そのチップが官憲の手に渡らないように、まずトレットらに仕事をさせた上で、最後は自分のものにしようと襲撃した、というわけです。
レイエスは、今やトレット達の手に渡ったチップを奪い取るべく、手下を彼らのもとに送り込みます。更に、トレットらを逮捕すべく、部下とともにブラジルに乗り込んできたFBI特別捜査官ホブス(ドウェイン・ジョンソン)も迫ります(注2)。
これに対して、トレットらは単に逃げ回るだけではありません。行がけの駄賃として、レイエスが保有する1億ドルを奪い取ってしまおうと考え、そのために腕のたつドライバーを世界中から集めます。
さあ、どんな強者が参集するのでしょうか?
そして、レイエスは1億ドルもの大金を奪取されてしまうのでしょうか?
本作では、なにしろ、200台くらいの車がド派手に、そして無意味に次々と破壊されまくりますから、息つく暇がありません(カーチェイス物は、これを見たら卒業できるのではないでしょうか?)。
予告編には観客の度肝を抜くシーン(鉄橋から車と人間が落下します!)が使われているところ、それは話の初めの出来事に過ぎないのですから、驚いてしまいます。
とはいえ、オカシナ感じがするところはいくつもあります。
例えば、トレットらは、リオのファベイラ(貧民窟)の中に逃げ込むところ、そのファベイラはギャング団のボスのレイエスが君臨しているのです(注3)。ですから、彼らはレイエスによって保護されていると言ってもいいでしょう。にもかかわらず、逆に、レイエスのやり方が許せないとして、トレットらは、彼が貯め込んでいる1億ドルを強奪してしまおうとするのですから、わけが分かりません(それくらいの資金があれば、今後犯罪に手を染めないでも済む、といった尤もらしくみえるものの自分勝手すぎる理屈に立って!)。
さらに、レイエスは、自分の財産(それを現金で保有しているのもよく分かりませんが)が狙われていると分かると、それをこともあろうに警察本部の地下金庫に移し替えて、普段から手なずけている警察の手で守ってもらおうとします。
アイデアとしては意表を突いていて面白いものの、地下駐車場の壁を破ると簡単に金庫の扉の前に到達でき、あろうことか車2台でその金庫を引き摺り出せてしまう、というのは余りに馬鹿馬鹿しい感じがしてしまいます(マア、銀行ならいざ知らず、元々警察にそんなに頑丈な金庫が設けてあるはずもありませんが)。
オマケに、その10tもの重量の金庫を引き摺る2台の車を、パトカーが何台も後ろから追いかけるというのですから、常識を越えるものがあります。
ラストでレイエスは、全財産をふんだくられた上に、ホブスによって簡単に射殺されてしまいます。レイエスは、それまでにもたくさんの殺人を犯しているでしょうから(注4)、当然の報いなのかもしれないものの、本作を見た限りでは、何もそこまでせずともという気にもなります(確かに、ホブスの部下は、レイエスの手下によって何人も殺されていますが、レイエスの手下だって殺されていますし、元々ホブスが他所の国にまで押し掛けて警察権を行使すること自体、甚だ疑問です)。
ですが、そんな他愛もないチャチャを入れずに(元々荒唐無稽を承知で見に行ったわけですから)、ボケーッと2時間10分(とはいえ、長尺過ぎます!)を過ごすべきでしょう。チキンと細部まで整ったストーリーを観客に提供することよりも、なにしろ目を瞠る凄い車の素晴らしい走りっぷりを観客に見せることに狙いを絞っているのでしょうから!
そういうことからすると、映画の主要な登場人物であるトレットを演じるヴィン・ディーセルも、FBI特別捜査官ホブスに扮するドウェイン・ジョンソンも、鍛えぬいた筋肉で構成されている見事な肉体を披露していて、車と並びまた見所といえるでしょう。
(2)本作は、クマネズミにとって至極懐かしいブラジルが舞台だと聞いて期待したところ、実際に見てみると、別にブラジル、それもリオを舞台にせずともいいのでは、という疑問が湧いてきます。
映画でリオを使う理由としてすぐに考えられるのは、その風光明媚な景色などを物語の中に取り込むことでしょう。
でも、この映画では、コルコバードのキリスト像や奇岩ポン・ジ・アスカールなどといったおなじみの光景が何回か映し出されるものの、いつも遠景だけで、そうした名所をストーリーの上で積極的に利用しているわけではありません。
例えば、カーニバルの大賑わいの中にトレット達を紛れ込ませることもあるのかな、とも期待したのですが、見事外れました!
映画で専ら描き出されるのは、リオの裏山に広がるファベイラ(貧民窟)の有様です。
ただ、確かに遠景としてみればリオのファベイラながら、ひとたびその中に入ってしまうと、何処にでも見かける貧民街ですから、リオだと特定できるわけでもありません(トレット達が、レイエスの部下やホブス達に追われて逃げ回るシーンは、実際にはプエルト・リコで撮影されたようです)。
舞台はリオとされていますが、カーチェイスといった重要な場面でもどれだけ現地ロケされているのか、疑問に思えたところです。
(3)福本次郎氏は、「冒頭から繰り広げられるスリルとスピードたっぷりの映像には圧倒される。その後も、“よくこんなアホなアイデアを考えつくな”と思えるような荒唐無稽なシチュエーションを映像化、そこでもディテールを描き込んでリアリティを持たせることに大成功。この旺盛なサービス精神に、何度も椅子からずり落ちそうになながらも完全に時間を忘れ、130分があっという間だった」として70点を付けています。
また、渡まち子氏は、「シリーズの魅力であるカーアクションは、冒頭から常識はずれの派手なものばかり。登場するのは、暴走する列車からの車強奪、装甲車で公道をぶっ飛ばすかと 思えば、大型金庫を引きずりながらのカーチェイスまで。“ありえない”の連続なのだが、荒唐無稽さとド派手な演出が、このシリーズのいいところだ」として65点を付けています。
(注1)邦題に小さく「Fast Five」とあるのは(実は、これが原題なのですが)、速さを競う5人の男ではないかと思ったところ、シリーズ第5作目という意味のようです。
(注2)1989年に米国海兵隊が、アメリカで裁判を受けさせるべくノリエガ将軍を拉致しようとパナマに侵攻した事件などを思い出させます。
(注3)映画の中でレイエスは、“ポルトガルは、スペインと違って力づくで植民地を支配しようとしなかった。それと同じように、自分も、ファベイラに住む人々にいい生活を味わわせた上で牛耳っているのだ”、などといった考え方を披露します。
なお、驚いたことに、演じる俳優のヨアキムについては、劇場用パンフレットにはその名前しか記載がありません(ネットで調べると、ヨアキムは、ポルトガルのリスボン出身で1957年生まれとのこと)!
(注4)現金の管理をしている隠れ家をトレットらは襲撃しますが、レイエスは、そこを担当している手下を、怒りに任せて殴り殺してしまいます。
★★★☆☆
象のロケット:ワイルド・スピード MEGA MAX
(1)荒唐無稽なものも見てみたくなったのと、映画の舞台がブラジルと聞いたので、事前の情報をほとんど持たずに映画館に入ってみました。
映画がシリーズ物の最新作だ、ということも知らなかったくらいですが(注1)、娯楽映画としてまずまず楽しめました。
主人公のトレット(ヴィン・ディーゼル)は、アメリカで懲役25年の判決を受けるも、彼の妹ミア(ジョーダナ・ブリュースター)と恋仲になっている元刑事のブライアン(ポール・ウォーカー)の手助けで護送車から逃亡。3人は暫くしてリオで落ち合いますが、列車に積まれている車を強奪する仕事を依頼されます。ただ、仕事自体は何とかやり遂げるものの、何者かに襲撃されてしまいます。
元々目的の車は麻薬取締局が押収したもので、それに付いているPCに挿入されていたマイクリチップに、リオの裏社会を牛耳るギャング団のボス・レイエス(ヨアキム・デ・アルメイダ)の金銭の出入りが克明に記録されていたのです。レイエスは、そのチップが官憲の手に渡らないように、まずトレットらに仕事をさせた上で、最後は自分のものにしようと襲撃した、というわけです。
レイエスは、今やトレット達の手に渡ったチップを奪い取るべく、手下を彼らのもとに送り込みます。更に、トレットらを逮捕すべく、部下とともにブラジルに乗り込んできたFBI特別捜査官ホブス(ドウェイン・ジョンソン)も迫ります(注2)。
これに対して、トレットらは単に逃げ回るだけではありません。行がけの駄賃として、レイエスが保有する1億ドルを奪い取ってしまおうと考え、そのために腕のたつドライバーを世界中から集めます。
さあ、どんな強者が参集するのでしょうか?
そして、レイエスは1億ドルもの大金を奪取されてしまうのでしょうか?
本作では、なにしろ、200台くらいの車がド派手に、そして無意味に次々と破壊されまくりますから、息つく暇がありません(カーチェイス物は、これを見たら卒業できるのではないでしょうか?)。
予告編には観客の度肝を抜くシーン(鉄橋から車と人間が落下します!)が使われているところ、それは話の初めの出来事に過ぎないのですから、驚いてしまいます。
とはいえ、オカシナ感じがするところはいくつもあります。
例えば、トレットらは、リオのファベイラ(貧民窟)の中に逃げ込むところ、そのファベイラはギャング団のボスのレイエスが君臨しているのです(注3)。ですから、彼らはレイエスによって保護されていると言ってもいいでしょう。にもかかわらず、逆に、レイエスのやり方が許せないとして、トレットらは、彼が貯め込んでいる1億ドルを強奪してしまおうとするのですから、わけが分かりません(それくらいの資金があれば、今後犯罪に手を染めないでも済む、といった尤もらしくみえるものの自分勝手すぎる理屈に立って!)。
さらに、レイエスは、自分の財産(それを現金で保有しているのもよく分かりませんが)が狙われていると分かると、それをこともあろうに警察本部の地下金庫に移し替えて、普段から手なずけている警察の手で守ってもらおうとします。
アイデアとしては意表を突いていて面白いものの、地下駐車場の壁を破ると簡単に金庫の扉の前に到達でき、あろうことか車2台でその金庫を引き摺り出せてしまう、というのは余りに馬鹿馬鹿しい感じがしてしまいます(マア、銀行ならいざ知らず、元々警察にそんなに頑丈な金庫が設けてあるはずもありませんが)。
オマケに、その10tもの重量の金庫を引き摺る2台の車を、パトカーが何台も後ろから追いかけるというのですから、常識を越えるものがあります。
ラストでレイエスは、全財産をふんだくられた上に、ホブスによって簡単に射殺されてしまいます。レイエスは、それまでにもたくさんの殺人を犯しているでしょうから(注4)、当然の報いなのかもしれないものの、本作を見た限りでは、何もそこまでせずともという気にもなります(確かに、ホブスの部下は、レイエスの手下によって何人も殺されていますが、レイエスの手下だって殺されていますし、元々ホブスが他所の国にまで押し掛けて警察権を行使すること自体、甚だ疑問です)。
ですが、そんな他愛もないチャチャを入れずに(元々荒唐無稽を承知で見に行ったわけですから)、ボケーッと2時間10分(とはいえ、長尺過ぎます!)を過ごすべきでしょう。チキンと細部まで整ったストーリーを観客に提供することよりも、なにしろ目を瞠る凄い車の素晴らしい走りっぷりを観客に見せることに狙いを絞っているのでしょうから!
そういうことからすると、映画の主要な登場人物であるトレットを演じるヴィン・ディーセルも、FBI特別捜査官ホブスに扮するドウェイン・ジョンソンも、鍛えぬいた筋肉で構成されている見事な肉体を披露していて、車と並びまた見所といえるでしょう。
(2)本作は、クマネズミにとって至極懐かしいブラジルが舞台だと聞いて期待したところ、実際に見てみると、別にブラジル、それもリオを舞台にせずともいいのでは、という疑問が湧いてきます。
映画でリオを使う理由としてすぐに考えられるのは、その風光明媚な景色などを物語の中に取り込むことでしょう。
でも、この映画では、コルコバードのキリスト像や奇岩ポン・ジ・アスカールなどといったおなじみの光景が何回か映し出されるものの、いつも遠景だけで、そうした名所をストーリーの上で積極的に利用しているわけではありません。
例えば、カーニバルの大賑わいの中にトレット達を紛れ込ませることもあるのかな、とも期待したのですが、見事外れました!
映画で専ら描き出されるのは、リオの裏山に広がるファベイラ(貧民窟)の有様です。
ただ、確かに遠景としてみればリオのファベイラながら、ひとたびその中に入ってしまうと、何処にでも見かける貧民街ですから、リオだと特定できるわけでもありません(トレット達が、レイエスの部下やホブス達に追われて逃げ回るシーンは、実際にはプエルト・リコで撮影されたようです)。
舞台はリオとされていますが、カーチェイスといった重要な場面でもどれだけ現地ロケされているのか、疑問に思えたところです。
(3)福本次郎氏は、「冒頭から繰り広げられるスリルとスピードたっぷりの映像には圧倒される。その後も、“よくこんなアホなアイデアを考えつくな”と思えるような荒唐無稽なシチュエーションを映像化、そこでもディテールを描き込んでリアリティを持たせることに大成功。この旺盛なサービス精神に、何度も椅子からずり落ちそうになながらも完全に時間を忘れ、130分があっという間だった」として70点を付けています。
また、渡まち子氏は、「シリーズの魅力であるカーアクションは、冒頭から常識はずれの派手なものばかり。登場するのは、暴走する列車からの車強奪、装甲車で公道をぶっ飛ばすかと 思えば、大型金庫を引きずりながらのカーチェイスまで。“ありえない”の連続なのだが、荒唐無稽さとド派手な演出が、このシリーズのいいところだ」として65点を付けています。
(注1)邦題に小さく「Fast Five」とあるのは(実は、これが原題なのですが)、速さを競う5人の男ではないかと思ったところ、シリーズ第5作目という意味のようです。
(注2)1989年に米国海兵隊が、アメリカで裁判を受けさせるべくノリエガ将軍を拉致しようとパナマに侵攻した事件などを思い出させます。
(注3)映画の中でレイエスは、“ポルトガルは、スペインと違って力づくで植民地を支配しようとしなかった。それと同じように、自分も、ファベイラに住む人々にいい生活を味わわせた上で牛耳っているのだ”、などといった考え方を披露します。
なお、驚いたことに、演じる俳優のヨアキムについては、劇場用パンフレットにはその名前しか記載がありません(ネットで調べると、ヨアキムは、ポルトガルのリスボン出身で1957年生まれとのこと)!
(注4)現金の管理をしている隠れ家をトレットらは襲撃しますが、レイエスは、そこを担当している手下を、怒りに任せて殴り殺してしまいます。
★★★☆☆
象のロケット:ワイルド・スピード MEGA MAX
次回の舞台が南極であっても、きっとこのシリーズにはそんなに関係がない事なんじゃないかと思います。
TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、舞台設定は、単に目先を変えるという意味しかなく、ブラジルであっても、日本であっても、はたまた南極であっても、どこでもいいと言うわけでしょう(南極ならば、雪上車が数百台、ペンギンと共に破壊されることになるのでしょう!)!