
『漫才ギャング』を渋谷Humaxで見てきました。
(1)コメディアンの品川ヒロシによる前作『ドロップ』の出来栄えが大層素晴らしかったことから、佐藤隆太とか上地雄輔は好みではなかったにもかかわらず、公開早々に映画館に出かけてきました。
佐藤隆太については、TVで放映された『海猿』などから、大声を出す元気のいいことだけが売り物の俳優という印象を受け、また上地雄輔も“おバカタレント”の先入観が拭えません。それでどうかなと思ったのですが、今度の作品で、そんなものは一挙に吹き飛んでしまいました。

佐藤隆太は、まだ陰と陽との段差があって陰の部分が作りものに見えてしまう感じもするものの、なにしろその芸達者ぶりには脱帽です。
冒頭で、本職の綾部祐二(「ピース」のツッコミ)とかけあい漫才をやるシーンが映し出されるところ、その軽妙でスピーディーな喋り方といい、実に鋭い動きといい、よくもこれだけのことが短期間のうちにマスターできるものだと、感心してしまいました。
また、上地雄輔も、『ドロップ』の時から演技力があるタレントだなと思うようになりましたが、本作では乱闘シーン(大部分は彼一人で立ち向かいます)も実にスムースにこなしていて、演技の幅の広さを見せつけてくれました。
さらに、こうした俳優を、監督の品川ヒロシが、前作にもまして巧みに使いこなして、実に面白い作品に仕上げています。
前作については、それに関する記事にも書きましたが、「監督第1作目の作品であれば、もっと冒険すべきではないのか」などと思ったりしたところ、本作では、佐藤隆太が扮する黒沢飛夫の心の声をモノクロ画面で表現するという試みを、実に巧妙にやってのけています。
さらには、様々の場面が、漫才的なコンビで溢れるように構成されていて、見ている方は皆が皆漫才師なのかしらと思ってしまうほどです。宮川大輔と長原成樹とが闇金の取立てに佐藤隆太のアパートにやってくる場面があるところ、小窓とドアを使ったシーンは抱腹絶倒でした。
もちろん、宮川大輔にせよ、長原成樹にしても、もとは漫才をやっていましたから、漫才的になってもおかしくはないものの、全体を漫才で溢れさせようとする監督の意図のもとに個々の場面が作られているものと思いました。

(2)というところから、この作品には、ペアの組み合わせが溢れています。というか、そうでないようにも見える組み合わせも、すべて漫才コンビではないかと思えてしまうのです。
上に書いた闇金コンビの宮川大輔と長原成樹のみならず、たとえばベテラン刑事役の笹野高史と新人刑事役の金成公信(ギンナナ)の刑事コンビ、あるいはガンダムオタクの秋山竜次(ロバート)とデブタクの西代洋(ミサイルマン)とのデブコンビなど。
そうだとすれば、3人組は、この映画の安定さを揺さぶる存在と言えるかもしれません。たとえば、不良グループの「スカルキッズ」のリーダーの金子ノブアキが出所してくると、一時的なリーダーの新井浩文と大悟(千鳥)との3人の関係はうまくいかず、結局は新井浩文は排除されてしまうでしょう(尤も、新井浩文は、秋山竜次の捨て身の攻撃によって手ひどい打撃をこうむってしまうのですが)。
もっと言えば、佐藤隆太と石原さとみの間には、もうすぐしたら子供が生まれることになっており、3人家族の家庭ができたとしたら、これまでのように上地雄輔とか綾部祐二と付き合いができるかどうか問題なしとしないではないか、とも思われるところです。

それはともかく、3人組よりももっとはっきりペアと対立しているいるのが、1対大勢の場合です。
すなわち、佐藤隆太は、上地雄輔に対して、新井浩文らのグループと喧嘩したら漫才はできなくなるぞ、と釘を刺します。
にもかかわらず、デブタクの西代洋が「スカルキッズ」に捉えられると、彼を救うために一人で相手グループに乗り込みます。その際、全国放送の漫才コンテストが間近に控えているにもかかわらず彼は、佐藤隆太とのコンビを解消し、綾部祐二を説得してもう一度佐藤隆太と組むように仕向けます。
結局、この乱闘騒ぎはなんとかうまくおさまったものの、佐藤隆太と上地雄輔のコンビは二度と復活することはありませんでした。
(3)映画評論家は、総じて好意的です。
渡まち子氏は、「「ドロップ」で監督デビューした品川ヒロシの才能はどうやら本物のようだ。今回は自分が最もよく知る世界“漫才”を描いていることが作品の質を上げている」、「平板なサクセス・ストーリーにはせず、意外な形で収束するラストまで、なかなかのセンスである。まっすぐなキャラが似合う佐藤隆太が言うベタなセリフ「夢さえあれば、人は変われる」が、照れるほど胸に残った。何かに本気で取り組む素晴らしさを再発見したような気がする」として70点をつけています。
また、福本次郎氏も、「まるで早口のコントを見ているがごとき軽快なテンポで繰り広げられる若手芸人の物語には、お笑いの楽屋裏とほろ苦い青春が凝縮され、映画自体が壮大な漫才の様相を呈してい」て、「映像から迸るエネルギーは2時間20分近い上映時間の長さを感じさせなかった」として60点をつけています。
★★★★☆
象のロケット:漫才ギャング
(1)コメディアンの品川ヒロシによる前作『ドロップ』の出来栄えが大層素晴らしかったことから、佐藤隆太とか上地雄輔は好みではなかったにもかかわらず、公開早々に映画館に出かけてきました。
佐藤隆太については、TVで放映された『海猿』などから、大声を出す元気のいいことだけが売り物の俳優という印象を受け、また上地雄輔も“おバカタレント”の先入観が拭えません。それでどうかなと思ったのですが、今度の作品で、そんなものは一挙に吹き飛んでしまいました。

佐藤隆太は、まだ陰と陽との段差があって陰の部分が作りものに見えてしまう感じもするものの、なにしろその芸達者ぶりには脱帽です。
冒頭で、本職の綾部祐二(「ピース」のツッコミ)とかけあい漫才をやるシーンが映し出されるところ、その軽妙でスピーディーな喋り方といい、実に鋭い動きといい、よくもこれだけのことが短期間のうちにマスターできるものだと、感心してしまいました。
また、上地雄輔も、『ドロップ』の時から演技力があるタレントだなと思うようになりましたが、本作では乱闘シーン(大部分は彼一人で立ち向かいます)も実にスムースにこなしていて、演技の幅の広さを見せつけてくれました。
さらに、こうした俳優を、監督の品川ヒロシが、前作にもまして巧みに使いこなして、実に面白い作品に仕上げています。
前作については、それに関する記事にも書きましたが、「監督第1作目の作品であれば、もっと冒険すべきではないのか」などと思ったりしたところ、本作では、佐藤隆太が扮する黒沢飛夫の心の声をモノクロ画面で表現するという試みを、実に巧妙にやってのけています。
さらには、様々の場面が、漫才的なコンビで溢れるように構成されていて、見ている方は皆が皆漫才師なのかしらと思ってしまうほどです。宮川大輔と長原成樹とが闇金の取立てに佐藤隆太のアパートにやってくる場面があるところ、小窓とドアを使ったシーンは抱腹絶倒でした。
もちろん、宮川大輔にせよ、長原成樹にしても、もとは漫才をやっていましたから、漫才的になってもおかしくはないものの、全体を漫才で溢れさせようとする監督の意図のもとに個々の場面が作られているものと思いました。

(2)というところから、この作品には、ペアの組み合わせが溢れています。というか、そうでないようにも見える組み合わせも、すべて漫才コンビではないかと思えてしまうのです。
上に書いた闇金コンビの宮川大輔と長原成樹のみならず、たとえばベテラン刑事役の笹野高史と新人刑事役の金成公信(ギンナナ)の刑事コンビ、あるいはガンダムオタクの秋山竜次(ロバート)とデブタクの西代洋(ミサイルマン)とのデブコンビなど。
そうだとすれば、3人組は、この映画の安定さを揺さぶる存在と言えるかもしれません。たとえば、不良グループの「スカルキッズ」のリーダーの金子ノブアキが出所してくると、一時的なリーダーの新井浩文と大悟(千鳥)との3人の関係はうまくいかず、結局は新井浩文は排除されてしまうでしょう(尤も、新井浩文は、秋山竜次の捨て身の攻撃によって手ひどい打撃をこうむってしまうのですが)。
もっと言えば、佐藤隆太と石原さとみの間には、もうすぐしたら子供が生まれることになっており、3人家族の家庭ができたとしたら、これまでのように上地雄輔とか綾部祐二と付き合いができるかどうか問題なしとしないではないか、とも思われるところです。

それはともかく、3人組よりももっとはっきりペアと対立しているいるのが、1対大勢の場合です。
すなわち、佐藤隆太は、上地雄輔に対して、新井浩文らのグループと喧嘩したら漫才はできなくなるぞ、と釘を刺します。
にもかかわらず、デブタクの西代洋が「スカルキッズ」に捉えられると、彼を救うために一人で相手グループに乗り込みます。その際、全国放送の漫才コンテストが間近に控えているにもかかわらず彼は、佐藤隆太とのコンビを解消し、綾部祐二を説得してもう一度佐藤隆太と組むように仕向けます。
結局、この乱闘騒ぎはなんとかうまくおさまったものの、佐藤隆太と上地雄輔のコンビは二度と復活することはありませんでした。
(3)映画評論家は、総じて好意的です。
渡まち子氏は、「「ドロップ」で監督デビューした品川ヒロシの才能はどうやら本物のようだ。今回は自分が最もよく知る世界“漫才”を描いていることが作品の質を上げている」、「平板なサクセス・ストーリーにはせず、意外な形で収束するラストまで、なかなかのセンスである。まっすぐなキャラが似合う佐藤隆太が言うベタなセリフ「夢さえあれば、人は変われる」が、照れるほど胸に残った。何かに本気で取り組む素晴らしさを再発見したような気がする」として70点をつけています。
また、福本次郎氏も、「まるで早口のコントを見ているがごとき軽快なテンポで繰り広げられる若手芸人の物語には、お笑いの楽屋裏とほろ苦い青春が凝縮され、映画自体が壮大な漫才の様相を呈してい」て、「映像から迸るエネルギーは2時間20分近い上映時間の長さを感じさせなかった」として60点をつけています。
★★★★☆
象のロケット:漫才ギャング
ブログを移転しまして新しい所からTBさせていただきます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします♪
余計なお世話ですが、石原さとみさんはかなりの美人だと思うのですが、なにか大人に成りきれない部分を感じ、本作でもそうでした。だから、配役的にはちょっと考え物だとも思われました。
確かに、「もう少しネタ的に漫才の要素を増や」す方が、あれだけ面白いシーンがあるのですから、モット盛り上がったのかも知れません。
ただ、品川ヒロシ作品に、前作で見事に展開された「暴力行為的な場面」を期待する向きも多いことでしょうから、マア興行的にはこうした仕上がりでやむを得ないのでは、とも思われるところです。
今は、コントがメインだったり
バラエティ番組でしかお見かけしない~
つまらないなと、思っていたら
映画の中で楽しめるとは!
構成もなかなか凝ったいい作品でした。
>ペアの組み合わせが溢れています。
なるほど!振り返って重い浮かべてみると、さらに楽しいです。
クマネズミも、この映画は「構成もなかなか凝ったいい作品」だと思いました。
なお、「ペアの組み合わせ」については、それが「トリオ」とか「大勢」に向き合うと不安定なものになってしまう(「大勢」と対峙すると、品川監督得意の乱闘場面になるわけですが)、というところが描かれていて面白いなと思ったところです。
佐藤隆太は何種類もの演技を使い分ける器用なタイプではないですが、記憶障害の学生プロレスラーを演じた『ガチボーイ』とか、凄い身体性を持ってる役者だなと思います。だから、今回の役にフィットしたのかな、と。
「佐藤隆太」の誤記に関するご指摘、誠にありがとうございます。早速直しておきます。
途中で気がついて直したのですが、それ以前にまで遡るのを怠ってしまいました。
なお、「佐藤隆太」を「佐藤健太」としてしまったのは、彼が「桐谷健太」に雰囲気が似ているせいなのかもしれません!
でも、「桐谷健太」が『オカンの嫁入り』で良い味を出していたように、「佐藤隆太」もあまり先入観で決めつけてはいけないなとこの映画を見て思ったところです。