『武士の献立』を渋谷シネパレスで見ました。
(1)昨年12月に和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことでもあり久しぶりの上戸彩の主演作ということで映画館に出向きました。
映画の冒頭では、武家屋敷の台所で料理を作る武士の姿が映し出され、「包丁侍」と呼ばれたと説明が入った後、加賀藩邸に場面が移り、臥せっている側室・お貞の方(夏川結衣)に、女中の春(上戸彩)がお粥を「生姜の粥でございます」と差し出すと、それを食べたお貞の方が「うまい、誰に習ったの?」と尋ね、春は「お母様です」と答えます。
ついで物語は10年後に飛び、藩邸で催された宴席で余興として出された「鶴もどき」―台所方の舟木伝内(西田敏行)が作ったもの―に使われた具材を、春が事細かに言い当てます。
そこで、伝内は春を息子・安信(高良健吾)の嫁にと望みます。
ですが、春は、1年前に離縁された身であり、かつまた安信が自分より4歳も年下であることや町人の出であることから固辞します。しかし、なおも伝内が懇願するものですから、春も折れて嫁ぐことに。
春が加賀に出向くと、夫・安信は、包丁侍であることを恥じ、むしろ剣術の方を励んでいる有り様。足繁く、親友の今井貞之進(柄本佑)が開いている道場「養心館」に通っています。姑の満(余貴美子)とはうまく行きそうですが、春はこの先、夫と上手くやっていけるのでしょうか、………?
(2)本作は、単に、包丁侍(主君とその家族の食事を賄う武士の料理人)というこれまでスポットライトを当てられてこなかった役職を取り上げただけでなく、加賀騒動までもストーリーの中に織り込んでいる点(注1)は評価できるものの、全体としてはイマイチの感じが残りました。
というのも、本作は、昨年見たフランス映画『大統領の料理人』(フランス大統領府の大統領専用シェフに取り立てられた女性料理人のお話)となんだか似ているなと思えたのですが、どちらもいくつも料理が画面に登場するものの、本作においてはそれぞれの具体的なイメージが同作ほど把握できない感じでした。
例えば、本作の始めの方で「すだれ麩の治部煮」が言われますが、どんな料理でどんな風に作るのかが映画ではわかりません。ましてラストの「饗応料理」は、「七の膳」まであったりして大層豪華なことは見て取れるものの、一々の内容は本作では描かれません(注2)。
料理を一つのテーマとする作品でありながら(注3)、肝心の料理が抽象的な感じに思えてしまいます。
また、本作はあくまでもフィクションであり、従って包丁侍の妻がどんなに活躍しても構わないとはいえ、やはり江戸時代という時代設定の下では、女性が全面に出過ぎてくると違和感のほうが先に立ってしまいます(それも、町家出身の娘が武家に嫁ぐのですから)(注4)。
まあ、主演の上戸彩(注5)を中心に描くラブストーリーと捉え、その他のことはそのためのお膳立てにすぎないとすれば、これはこれで構わないとも思えるのですが(注6)。
それにしても、共演の高良健吾は、映画のみならずTVにおいてもよく見かけるものです(注7)!
(3)渡まち子氏は、「食は昔も今も生きる基本。日本映画伝統の家族愛を描く作品だが、料理の腕の成長が夫婦として人間としての成長に重なる展開が共感を呼ぶ」として65点をつけています。
(注1)藩政改革派〔中心人物は藩主の側近・大槻伝蔵(緒形直人)〕と守旧派〔中心人物は前田土佐守(鹿賀丈史)〕との争い。藩政改革派の後ろ盾だった六代藩主・前田吉徳が死ぬと、守旧派が盛り返し、藩政改革派は粛清されてしまいます。
その中で、安信の親友の今井貞之進も国を追われ、また前田吉徳の側室・お貞の方も藩主毒殺の嫌疑をかけられて囚われの身となってしまいます。
(注2)さらには、加賀騒動に関与し、幽閉されているお貞の方(その時は、出家して真如院)に春がお重を持っていくのですが、実に綺麗に作られていることはわかるものの、一つ一つがどんなものなのか、それぞれをどのようにこしらえたのかは映画を見ている方にはわかりません。
(注3)劇場用パンフレットの監督インタビューにおいて、朝原雄三監督は、「この作品の大きな見せ場は、やはり料理のシーンです」と言っているのですが。
(注4)例えば、春は、夫・安信が、今井貞之進らによる前田土佐守暗殺計画に参加しようとしているのを察知すると、その刀を持って屋敷の外に飛び出してしまい、安信の行動を妨害してしまいます。その結果、今井らは土佐守の手の者によって殺されてしまう一方で、安信は生き延びることが出来たのですが。
なお、春は、浅草の著名な料理屋の娘とされています(家事で両親を亡くし、それで側室・お貞の方之女中となっていました)。
(注5)上戸彩については、レビュー記事を書いてはおりませんが、DVDの『テルマエ・ロマエ』で見みましたし(なお、このエントリの「注1」を参照)、TVドラマ『半沢直樹』はいうまでもないでしょう。
(注6)成海璃子は、親友・今井貞之進の妻で、安信が密かに思い続けていた女性・佐代の役ながら、セリフ回しがどうしようもない感じがしました(『書道ガールズ!!』や『シーサイドモーテル』では頑張っていたのですが。でもまだ22歳ですから仕方がないのでしょう)。
(注7)高良健吾については、最近の映画では『ルームメイト』で見ましたし、TVドラマでは『ハードナッツ! ~数学girlの恋する事件簿~』とか『書店員ミチルの身の上話』で見ました。
★★★☆☆☆
象のロケット:武士の献立
(1)昨年12月に和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことでもあり久しぶりの上戸彩の主演作ということで映画館に出向きました。
映画の冒頭では、武家屋敷の台所で料理を作る武士の姿が映し出され、「包丁侍」と呼ばれたと説明が入った後、加賀藩邸に場面が移り、臥せっている側室・お貞の方(夏川結衣)に、女中の春(上戸彩)がお粥を「生姜の粥でございます」と差し出すと、それを食べたお貞の方が「うまい、誰に習ったの?」と尋ね、春は「お母様です」と答えます。
ついで物語は10年後に飛び、藩邸で催された宴席で余興として出された「鶴もどき」―台所方の舟木伝内(西田敏行)が作ったもの―に使われた具材を、春が事細かに言い当てます。
そこで、伝内は春を息子・安信(高良健吾)の嫁にと望みます。
ですが、春は、1年前に離縁された身であり、かつまた安信が自分より4歳も年下であることや町人の出であることから固辞します。しかし、なおも伝内が懇願するものですから、春も折れて嫁ぐことに。
春が加賀に出向くと、夫・安信は、包丁侍であることを恥じ、むしろ剣術の方を励んでいる有り様。足繁く、親友の今井貞之進(柄本佑)が開いている道場「養心館」に通っています。姑の満(余貴美子)とはうまく行きそうですが、春はこの先、夫と上手くやっていけるのでしょうか、………?
(2)本作は、単に、包丁侍(主君とその家族の食事を賄う武士の料理人)というこれまでスポットライトを当てられてこなかった役職を取り上げただけでなく、加賀騒動までもストーリーの中に織り込んでいる点(注1)は評価できるものの、全体としてはイマイチの感じが残りました。
というのも、本作は、昨年見たフランス映画『大統領の料理人』(フランス大統領府の大統領専用シェフに取り立てられた女性料理人のお話)となんだか似ているなと思えたのですが、どちらもいくつも料理が画面に登場するものの、本作においてはそれぞれの具体的なイメージが同作ほど把握できない感じでした。
例えば、本作の始めの方で「すだれ麩の治部煮」が言われますが、どんな料理でどんな風に作るのかが映画ではわかりません。ましてラストの「饗応料理」は、「七の膳」まであったりして大層豪華なことは見て取れるものの、一々の内容は本作では描かれません(注2)。
料理を一つのテーマとする作品でありながら(注3)、肝心の料理が抽象的な感じに思えてしまいます。
また、本作はあくまでもフィクションであり、従って包丁侍の妻がどんなに活躍しても構わないとはいえ、やはり江戸時代という時代設定の下では、女性が全面に出過ぎてくると違和感のほうが先に立ってしまいます(それも、町家出身の娘が武家に嫁ぐのですから)(注4)。
まあ、主演の上戸彩(注5)を中心に描くラブストーリーと捉え、その他のことはそのためのお膳立てにすぎないとすれば、これはこれで構わないとも思えるのですが(注6)。
それにしても、共演の高良健吾は、映画のみならずTVにおいてもよく見かけるものです(注7)!
(3)渡まち子氏は、「食は昔も今も生きる基本。日本映画伝統の家族愛を描く作品だが、料理の腕の成長が夫婦として人間としての成長に重なる展開が共感を呼ぶ」として65点をつけています。
(注1)藩政改革派〔中心人物は藩主の側近・大槻伝蔵(緒形直人)〕と守旧派〔中心人物は前田土佐守(鹿賀丈史)〕との争い。藩政改革派の後ろ盾だった六代藩主・前田吉徳が死ぬと、守旧派が盛り返し、藩政改革派は粛清されてしまいます。
その中で、安信の親友の今井貞之進も国を追われ、また前田吉徳の側室・お貞の方も藩主毒殺の嫌疑をかけられて囚われの身となってしまいます。
(注2)さらには、加賀騒動に関与し、幽閉されているお貞の方(その時は、出家して真如院)に春がお重を持っていくのですが、実に綺麗に作られていることはわかるものの、一つ一つがどんなものなのか、それぞれをどのようにこしらえたのかは映画を見ている方にはわかりません。
(注3)劇場用パンフレットの監督インタビューにおいて、朝原雄三監督は、「この作品の大きな見せ場は、やはり料理のシーンです」と言っているのですが。
(注4)例えば、春は、夫・安信が、今井貞之進らによる前田土佐守暗殺計画に参加しようとしているのを察知すると、その刀を持って屋敷の外に飛び出してしまい、安信の行動を妨害してしまいます。その結果、今井らは土佐守の手の者によって殺されてしまう一方で、安信は生き延びることが出来たのですが。
なお、春は、浅草の著名な料理屋の娘とされています(家事で両親を亡くし、それで側室・お貞の方之女中となっていました)。
(注5)上戸彩については、レビュー記事を書いてはおりませんが、DVDの『テルマエ・ロマエ』で見みましたし(なお、このエントリの「注1」を参照)、TVドラマ『半沢直樹』はいうまでもないでしょう。
(注6)成海璃子は、親友・今井貞之進の妻で、安信が密かに思い続けていた女性・佐代の役ながら、セリフ回しがどうしようもない感じがしました(『書道ガールズ!!』や『シーサイドモーテル』では頑張っていたのですが。でもまだ22歳ですから仕方がないのでしょう)。
(注7)高良健吾については、最近の映画では『ルームメイト』で見ましたし、TVドラマでは『ハードナッツ! ~数学girlの恋する事件簿~』とか『書店員ミチルの身の上話』で見ました。
★★★☆☆☆
象のロケット:武士の献立
大槻伝蔵の流刑地・五箇山は蕎麦や伝統祭事で行きましたが、そのときは昔の話は聞きませんでしたから、その地その地に歴史があることを認識します。
話がうまく進みすぎますが、上戸彩さんはそれなりにいい味を出していました。
『こきりこ節』は富山県五箇山地方のものですから、本作に登場する大槻伝蔵に関係してきますね!